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パルスの血族

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軽いノックの後に、ライサンダーの後ろから入ってきた人を見て、パルスは思わず腰を上げていた。

始めソレが人とは思わなかった。
前にいるライサンダーの姿が影に見えるほどに発光している。
眩い光が人の形になっている…。
ゆっくりと部屋に入ってきたソレは、徐々に光度を落として、やがて人になった。
今ならわかる。
試しのように魔力を覆わずにそのまま放出していたのだ。

人として見ると、そこには白銀の髪とピンとした耳。
その耳の後ろの毛は黒く、目はアイスブルーだ。
ママに似ている…。
パルスは見惚れた。
長くてしっとりした尻尾がパルスを見てふるふる震える。
薄く花のような模様も、ママと同じ…。

その人は膝を付いてパルスと目を合わせた。
冬の空色の目の中に自分が映っている。
ああ、ママもこうやって見てくれた…。
目の前が滲んでいく。

パルスはいつのまにか涙を流していた。
その人はゆっくりと微笑んだ。

「会いたかったよ、パルス。
私はスーティ・オウ。きみの大伯父だ。」

声が沁みていく。
言われなくてもわかる。
この人は僕の家族だ。

スーティ・オウは壊れ物を扱うように、ふんわりとパルスを抱きしめてくれた。
深い、深いところが解けていく。
何かがぱりんと破れて、いつのまにかパルスはえぐえぐと泣いていた。





タイタニアはダングル国の人がサダム・ラタムと呼ぶ、切り立った深い山々の中にあった。
古来からの結界によってそこは守られて、外からは誰も入ってこない。
平和なその社会に、ラルーナは不満だった。

時々勉強の時間から逃げ出して、切り立った崖から足元に広がるダングル国を見下ろす。
青みががって、眼下いっぱいに広がる世界は、背後にある山で囲まれた窮屈な世界とはまるで違って見える。

下には沢山の獣人が、いろんな種族が混在していた。
タイタニアは雪豹だけの国だ。
国と言えるのかさえ怪しい。
魔力を鍛え、あまり動かず。
何事もゆっくりと考えるおとなしい人々。
……ものたりない。
我らは豹だぞ。
肉食獣だ。
同族で交配して、爪も牙も無くしたのか。
あんなに沢山の国がある。
そこには沢山の人がいる。
ソレらから隠れて生きていくことに、何の意味があるのやら。

『外の人は災いを呼ぶ。』

『外の人を自分達の魔力から護るため。』

皆がそう言って、外に目を向けない。
その閉塞感に押し潰されそうだ。

ラルーナは、強固に練り上げられた崖の結界に、悪戯で穴を開けた。
この崖は高い。
竜にでも乗らない限り、魔力でも使わない限り、地上から這い上っては来られないだろう。

~~でも、もし、登ってくる物がいたなら……

そうやってオベロンとラルーナは出会った。




スーティ・オウは泣きつかれたパルスを膝に乗せて、低い心地よい声で話す。

「ありがとうございます、ライサンダー殿。
パルスは確かに姉上ラルーナの血に連なる者です。私はこの子が生きていてくれたのがとても嬉しい。」

スーティ・オウからは爽やかな香草とちょっとピリッとする香り、そして甘い水の匂いがした。

「パルスの中にはタイタニアの力が眠っています。私はその力の使い方を教えたい。」

「力って…。シルフィが見えないのに、見えているような?」

「そう、ソレは気配察知ですね。タイタニアの者はそのようなちょっとした力をもっているのです。」

「その力があったら、シルフィを助けられる?僕はシルフィを助けたい。一緒にいたい。」

食い気味に訴えるパルスに、スーティ・オウは柔らかく笑いながらその黒髪を撫でた。

姉上ラルーナは見事にこちらとの縁を絶ったので、何がおこっているかを全く把握してませんでした。細々と隊商との繋がりはありましたが。王城には姉上ラルーナの結界が未だある為に、亡くなった事さえわかっておりませんでした。ロクサーヌというお子様の事すら知りませんでした…」

オベロン王のシルフィとパルスを引き離した事に付いて何も語らず。
ただスーティ・オウはパルスを全面的に補佐すると約束してくれた。

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