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パルスと愉快な仲間達 〜辺境〜

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ああ、めんどくさいなぁ。
初めそう思った。

館の台所は戦場だ。
そこに子供が顔を出す。

小さくて弱っちくて。
そう、パルス様が来られてから消化にいいモノを作ったから、食の細さも良く知っている。

館の者を一同に集めて、領主様はパルス様の要望をとりあえず叶えて欲しいとおっしゃった。
で、台所に出没する様になった訳だ。

台所は俺の戦場だ。
煤と脂で黒光りするこのカウンターも、毎日磨いている。
石の床は毎日水洗いしている。
なべだって包丁だって、決まった位置に並んでいる。
俺の号令一つで、料理人も見習いも動き出す。
皿を運ぶ侍従達にも、無駄な動きをさせないぜ。
そんな中に子供という異物を?
……邪魔だろうがぁ。


だがパルス様は普通のクソガキのように、興味に任せて突進しては来なかった。

おはよう御座います。
と全員にあいさつをする。
美味しいご飯をありがとうございます。
とはにかむ。
そう言いながら踏み込んでこない。
台所の混雑ぶりと、人の流れをじっと見ている。

初めは、怒号と走り回る音に怯えて近寄らないのかと思った。
ぼっと上がる炎や、ガチャガチャと忙しない洗浄機の音に怯えているのかと思った。

何度か外から観察して。

喧騒が過ぎて、賄いを食べ終わって休憩している時に声をかけて入ってきた。
おずおずと入ってきて、こんにちはよろしいですか?と挨拶をした。


料理人は、見習いも侍従も、この子の事が気になっていたから。
もう、掬い取るようにテーブルの真ん中に座らせて~~
何故かお菓子のおすすめ合戦が始まった。
遅れてやって来たメテオ様と一緒に、タルトが、マフィンが、クッキーが飛び交う。

パルス様が笑うと、ぱっと花が咲いたように明るくなって。
笑わせようと、見習いは張り切っておどけている。
こうしてパルス様は台所で顔パスになった。



ある人パルス様が大きなマケメテを持ってきた。
メテオ様と川で釣って来たとバケツごと。
こんな麺棒程に大きなマケメテはあまり見ない。しかも三尾。

「ここで捌いても良いですか?」

はにかむような笑顔に俺達は蕩けて。
まぁ、手伝えばいいから。と包丁を渡した。

~~見事だった。

こんなちっちゃな手で魚を血抜きしておろしていく。
なんでも前は自分が食料調達係だったから、自分で魚を釣って捌いていたそうだ。

「ママは生臭のが苦手だったから、ここにハーブを詰めて焼くんです。」

とても手際がよくて、
もう慣れてる動作に胸が詰まった。
……こうやって頑張って家族と食べていたんだなぁ……。

おじさんウルっとしちゃったよ。
ふと気がつくと、周りの奴らも顔を背けて肩を震わせている。


マケメテは美味しく焼き上がった。
そしてパルス様に、料理を教えて欲しいとお願いされた。


勿論だ‼︎
フルコースからデザートまで。
下町の居酒屋メニューまで。
おじさんは望む通りに教えちゃうからね。
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