上 下
5 / 31
ママとパパは駆け落ちだったみたい

5

しおりを挟む
「いつまで泣いてる。」

パルスの横に胡座をかいて、ライサンダーはたずねた。
部屋にはすでに誰もいない。
最後に出て行ったこの家の侍従は、気遣う様な視線を泣いている子猫に送っていた。

「泣いてもどうにもならないのは、わかってる筈だろう。」


パルスはのろのろと起き上がって座り直した。
体中痛い。
でも心が一等痛い。
何よりも自分を押さえつけた悪い奴の前で、ただ泣いてるのが辛い。

「手も足も出なかったな。~あれが王だ。」

ライサンダーはそっとパルスを掬い上げると、膝の上に乗せた。
抵抗しようと手足を突っ張って…、すぐ力を抜いた。
ばかばかしい。
片手一本で抑え込まれてしまうのに。

論外優しい手つきで、ライサンダーはパルスを撫で上げる。
ほねが折れたりしていないのか探っているようだ。


「弟を守ろうと飛び掛かっていく。
 気高い騎士の心だ。感服したぞ。」

えっと見上げると、じっと見下ろす青灰色の目があった。
その目の中に優しいものが見えて、反らせなくなる。

「おまえには選択肢が二つある。
処分された者として、名前を変えて里親を見つけて生きて行くこと。~もちろん良い親を見つけてやる。幸せに暮らせるだろう。
もう一つは弟を救い出す為に俺と来る事だ。」



その単語の意味が飲み込めずに、パルスはぽかんと見上げていた。

こいつは悪い奴だ。
やさしさを被って僕を騙そうとする、狡賢い奴だ。
騙されないぞっ‼︎

ライサンダーは背中の毛を逆立てるパルスの顎の下をゆっくり摩る。

やめろよっ‼︎
気持ちいいじゃないかっ!

その指をパクリと噛み付く。

そんな事されるとごろごろとなっちゃって、意識がまとまらない。


「王の命令は絶対だ。おまえを処分しろと命じていた。このままだと処分を待つだけだ。この館の主にも迷惑が掛かる。早く決めろ。」

きっとこいつは犬系だ。
耳はピンと三角で。
ふさふさの尻尾が揺れている。

目を逸らさずに睨みつけている様な顔は真剣で…

僕は、
僕は即答した。
だって他に道はある?

「お願いします。
 シルフィを助けます。」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ニケの宿

水無月
BL
危険地帯の山の中。数少ない安全エリアで宿を営む赤犬族の犬耳幼子は、吹雪の中で白い青年を拾う。それは滅んだはずの種族「人族」で。 しっかり者のわんことあまり役に立たない青年。それでも青年は幼子の孤独をゆるやかに埋めてくれた。 異なる種族同士の、共同生活。 ※本作はちいさい子と青年のほんのりストーリが軸なので、過激な描写は控えています。バトルシーンが多めなので(矛盾)怪我をしている描写もあります。苦手な方はご注意ください。 『BL短編』の方に、この作品のキャラクターの挿絵を投稿してあります。自作です。

Ωの皇妃

永峯 祥司
BL
転生者の男は皇后となる運命を背負った。しかし、その運命は「転移者」の少女によって狂い始める──一度狂った歯車は、もう止められない。

この恋は無双

ぽめた
BL
 タリュスティン・マクヴィス。愛称タリュス。十四歳の少年。とてつもない美貌の持ち主だが本人に自覚がなく、よく女の子に間違われて困るなぁ程度の認識で軽率に他人を魅了してしまう顔面兵器。  サークス・イグニシオン。愛称サーク(ただしタリュスにしか呼ばせない)。万年二十五歳の成人男性。世界に四人しかいない白金と呼ばれる称号を持つ優れた魔術師。身分に関係なく他人には態度が悪い。  とある平和な国に居を構え、相棒として共に暮らしていた二人が辿る、比類なき恋の行方は。 *←少し性的な表現を含みます。 苦手な方、15歳未満の方は閲覧を避けてくださいね。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

孤独を癒して

星屑
BL
運命の番として出会った2人。 「運命」という言葉がピッタリの出会い方をした、 デロデロに甘やかしたいアルファと、守られるだけじゃないオメガの話。 *不定期更新。 *感想などいただけると励みになります。 *完結は絶対させます!

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~

黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。 ※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。 ※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...