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ママとパパは駆け落ちだったみたい

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周りの空気がピリピリしている。

ぬくぬくとした眠りの中で、急かされる様な不快感が追っかけてくる。
ざわざわとどこかで人が騒いでいる。

シルフィとパルスは怖くて抱き合った。

いつだったか
『奴隷狩りだっ!』
村の向こうでそんな声がして、パパとママとで必死に逃げた事があった。
あの時と同じ。

隠れなくては!
怖いものが来る!


ようやく熱が下がって起きれる様になった。
ベッドからふらふらと這い出る。

(さあ、シルフィ。隠れるよ。)

不安そうにシルフィが続く。
扉は大きくて開けられない。
ざわざわがバタバタになって近づいてくる。

どこに。
どこに。
隠れたらいいの。

キョロキョロと周りを見渡してもわからない。

もう、どしんどしんという足音が、心臓の音の様にきこえていた。
パルスはシルフィの首筋を噛むと、ベッドの下に引き摺り込んだ。

同時にばたんと扉が開く。
どすどすと音が真っ直ぐやって来る。

「何処だっ!おらんぞっ!」

吠え声がびんびんと部屋に木霊して、パルスは思わず尻尾を股に挟み込んだ。

「お、お待ちを。この部屋にいるはずです。」

バタバタと走り回る足音がする。
ドキドキと怯えながら、パルスはシルフィに覆いかぶさった。
黒い毛で隠せたらいいのに。


ベッドの下を覗く目と目が合って、パルスはシャーと威嚇の声をあげた。

「こちらです!この下におられます‼︎」

「気配を感じてお隠れになったのでしょう。」

「なんて、賢いのでしょう。」

ざわざわと人がさざめく中で、さっきの吠え声が再び上がった。

「早くせい!」

その声と共に誰かの手が伸びて来る。
臭い香水が鼻につき、指先がパルスの尻尾に当たった。
咄嗟にパルスはシャーと叫んでその指に噛み付いた。

「痛ってぇぇぇ」

叫びながら引いた指に噛み付いたまま、パルスは引っ張り出された。
高く掲げられた手にぶら下がって、持ち上げられる。

目の前には、見たこともないほどに大きな獣人がいた。

金色の目がぎろりとパルスを捕らえ、大きな牙がガッと開く。

「なんだは!黒猫ではないかっ‼︎」

大きな手がぐっと襟首を掴んだと思ったら、ぶんと音を立てて壁に叩きつけられた。
咄嗟に受け身も取れずに激突する。
痛みと衝撃で意識がとんで、パルスはくたっと倒れた。

「パルス!」

叫びながらベッドの下から這い出たシルフィに、その巨大な獣人は おおっ! と甘い声を上げた。

「ロクサーヌとそっくりだのぉ。」

怯えるシルフィをそっと両手で掬い上げる。
その巨大な獣人はごろごろと雷鳴のように喉を鳴らしてシルフィを見つめた。
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