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ママとパパは駆け落ちだったみたい

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ライサンダーは、何の予兆も無く、ころんと眠りに付いた子猫に動揺していた。

びっくりした!
子供とは、こんなゼンマイじかけのおもちゃの様なのか⁉︎
ついさっきまで、シャーと威嚇したのに。
いきなりぱたんだぞっ!
いや、ころんか⁉︎
まだドキドキが止まらない。

弟の小さな体を庇って、和毛を思いっきり膨らませた黒猫。
シャーと小さな牙を見せていたが、可愛いだけで威嚇にはならないぞ。

~~まあ、元気になったのは何よりだ。
このまま元気になって、人型に戻った時はさぞかし可愛いだろうな。
だってあの王女のお子様なのだ。

いなくなった王女をさがして七年。
攫われたと王は激怒していたが、駆け落ちだったのは皆んな分かっている。
幸せならそっとしておきたいと皆んなが思い。
のろのろと探すふりをしているうちに相手が死に。
生活に困窮し、こうなっていた。
あと少しでも遅ければ、この子たちも息は無かっただろう…。


報せを受けて、王は怒涛のようにやってくるに違いない。


恐る恐る睡る子猫をそっと撫でる。
柔らかい。
そして温かい。

白い子がシルフィ。王女そっくりだ。
黒い子がパルス。 あいつに似ている。
どちらも片手に収まりそうなくらい小さくて脆そうだ。

幸せになりますように。

ライサンダーは、子猫達の上にそっと祝福の印をきった。



(ねぇ、パルス。)
シルフィが心の中で囁く。

(ままは何処へ行っちゃったの?)

パルスはちょっと考えた。

(ぱぱのところへ。いまごろ仲良くしてるよ。)

シルフィの心がきゅっとなる。

(僕達置いて行かれたの!)



そう、シルフィは幼い。
いや、きっとこれが相応なのだろう。
外に出ないシルフィを守ろうと。
パパがいなくなってママを助けようと。
食べ物を市場の端で拾ったり、森で採ったりしているうちに、パルスは自分が年老いたような気がしていた。

ママは死んだ。
死んで楽になった。
それがじわじわと実感できて。
でもシルフィにそうとは告げられないので、何とか言葉を探す。

(僕がいるよ。大好きだよ。)

心を込めてそう言って、柔らかい白い耳をぺろぺろ舐める。
くすぐったそうにシルフィが笑うと、パルスの心の中にもぽうっと暖かい花が咲く。

(これからどうなるかわからないから、)

言い聞かせるように、パルスは囁く。

(シルフィの力も隠しとくんだよ。)

(なんで?)

(ままが居ない世界は優しいかなんてわからないから。ほら、甘いオヤツで僕らを釣ろうとした悪い人もいたじゃない。)



ママは綺麗だった。
シルフィもママそっくりだ。
パパがいる間は周りの人も優しかった。
でもだんだん声がケンケンしたものになっていった。
投げつける様な声になっていった。

ママとシルフィの綺麗な顔を見て、甘ったるい声で近づいて来る者もいた。
……ドロドロと汚い心が見え見えだったけど。



(~~わかった。内緒にしてる。)

シルフィの約束にほっとする。
シルフィは目が見えない。
ママとおなじ銀に輝いた白い毛で、冬の空の様な青い目だけど、それは何も映さない。

ただ、自然と周りを分かってる。
だから決してぶつかったり、足を引っ掛けられたりしない。

ママとパパが
『おヒゲの力が強いのかなぁ』
『コウモリのえこうみたいね、』
って言ってた事がある。
『人に知られない様にしなくっちゃ。』って。

だか僕が守って、シルフィが特別なのがバレないようにしなくっちゃ。
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