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好き。って気持ちは最強

3 裏方は糸を張り巡らす

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朝。川に水汲みに出たガルゼは、風の流れに目を閉じた。
風が木擦れの音を立ててくる。
匂い、音、振動。
山はいろいろな情報を、木擦れで与えてくれる。

仕込みは上々だ。
そろそろ結果が出る。

ガルゼはほんのりと笑った。

今日は良い天気だ。
フォレアをスロリ摘みに誘おう。
サニタは…。ちょっと考えてそのままと決めた。
あまり仕込むとキリルが勘づいて身構えてしまう。


お弁当を持って、沢の向こうのスロリ摘みにと誘うとフォレアは目をキラキラさせた。
「たくちゃん‼︎ふわふわにのちぇるの!」
と小さな拳を握ってドヤ顔を見せる。
今フォレアはおやつにふわりとしたパンケーキにハマっている。
それにクリームとスロリを乗せるのが至高なのだそうだ。

そんな幼子が愛おしい。
「そうですね。沢山採れたらジャムも作りましょうね。」
「じやぁむっ‼︎」
青空色の目が丸く見開いた。
なんて素晴らしい提案なんだろう!
フォレアは頬を紅潮させて、早く早くとぴょんぴょんする。
素早くお昼のサンドイッチを作り、準備を完成させるとフォレアと手を繋いだ。

「ですからキリル。サニタと二人で家にいて下さいね」

怪しくない程度に、ガルゼは念押しした。



サニタは初めて会った時から、キリルに心酔した。
そして時間の許す限り通い詰めて、弟子になった。
小柄で非力なサニタは重労働の農作業に向いていない。
でも手先が器用で、罠に掛かった害獣を始末しようとするほどの胆力を持っていた。
日参して、せがむ度に教えてもらっているうちに弟子という立場になっていた。

簡単な刺繍とお直しはマスターした。
この春に、ついに一人でズボンやシャツを縫い上げた。
そして今年、藁で帽子を作った。
藁はベッドの中身になる。
今までは汚れたら土に漉き込んで肥料にするだけだった。
その余った藁で帽子を作ってみた。

だれだって日焼けは嫌だもんね。
と作ってみたらすごく好評で。
調子に乗って農作業用からおでかけ用まで作った。
行商人が買い上げていった程だ。
刺繍を施した物など、町でもおしゃれだと需要があるらしい。

刺繍は貴族で生きてきたキリルとは、当たり前だが違う。
大雑把でガサツだ。
でも麦わら帽子には、細かく繊細な飾り刺繍より。
ぱっと元気な大柄な物が似合っている。
いくつも作るほどに刺繍の腕も上がって、サニタに頼みにくる子もいるほどだ。

そんな訳で近隣の村からも、引くて数多になったサニタだが。
~~ガルゼの見立てではちょっと問題があった。

思い込みが激しい。

まぁ、それは厨二病的に子供には往々にしてある事だ。
ただなんというか。サニタは頑なで乙女チックなのだ。

行商人はだいたい月一で回ってくる。
貸本も持っている。
一ヶ月の間貸し出された本は、サニタの夢と恋心を刺激する。
もう洗脳に近い程にのめり込む。
目の前の閉塞感のある村の現実から逃避して、サニタ達は"月に帰った姫"だの"灰被りと呼ばれた姫"だのを読み耽る。
大概の子供は本を本と割り切っているが。
サニタは頑なに現実を見ようとしない。

サニタには目の前にキリルという"姫"がいる為に、ちょっと夢見がちというかなんと言うか…
いつも頭に花が咲いているようで。
一歩間違えると盲信の狂信になりそうで。

ガルゼは危うさを感じていた。
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