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ナルディル領サムスク州エギマ地区にて
4 鳥見の衆
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ナルディル領の山奥を"鳥見役"が歩く。
ホワルーはこの領だけに固有の、野生の鳩の亜種だ。
今まで誰も気に留めていなかった。
肉は硬くて不味いから、喜ばれてもいなかった。
でも隣国との戦争で注目を浴びた。
元々、辺境のカリヴァンス領で、緊急連絡網を作る為に捕獲売買され訓練したのだという。
他の鳥は"鳥目"で夜はあまり動けない。
ホワルーは"月の神の使者"と昔は言われていたようで、昼も夜も活動する。
さらに伝文を伝令菅に入れて飛ばすと、狼煙よりも遥かに効率が良かったそうだ。
王家の鷹便は、専用のお偉い飼育員が必要だけど。
ホワルーは簡単に村でも飼育できる。
カリヴァンスでは村の者が習いにいって、卵や雛を頂いているらしい。
いざと言う時に、領主様や兵士に助けを求められるのはとてもありがたいことだ。
そう言うわけで、ホワルーが領地持ちの貴族の中で人気になった。
月の神信仰は廃れ、ホワルーも消えようとしていた事で。
乱獲は絶滅を意味すると悟った領主が、専任を決めて捕獲数を制限した。
ホワルーは鳩程は卵を産まない。
月の使者と言われただけあって、交尾は満月の頃だけだ。
しかもせいぜい多くて3個。温める時間が長い。
そんな訳で乱獲すれば、直ぐに絶滅が見えていた。
鳥見役は領主から任命される。
その仕事は密猟の監視の為に山を歩いて。
鳥の生息状況を把握して。
頼まれた数だけ捕獲して、飼育する。
領を跨いでその雛を届けにも行く。
そんな一族は鳥見衆と呼ばれた。
鳥見衆は領の山、それも人がいない奥を歩く。
エギマは特に深い奥だ。
そこに点在して村がある。
ヤコン村に入った時。
鳥見衆は背負子の鳥籠の中に、生後20日ほどの雛を入れていた。
川で汗を拭おうとしているのを、ガルゼが気が付いた。
田舎の情報源は、他の地から来た者からだ。
愛想よく家の脇のガーデンテーブルに休憩にさそった。
弁当の堅パンを取り出すので、キリルはスープを差し入れる。
キリルの美貌にぽうっとなった者たちは、おずおずと喋りだした。
山の芽吹きや獣の流れ。
それで季節が暑いか寒いか透けて見えてくる。
この雛はカリヴァンスに送る。
同じ家族で交配すると、血が近くなるから。
この村は活気がある。
一つ向こうは老人ばかりだ。
雑談してようやく舌が滑らかになり始めた時に、バサバサと鳥籠が揺れて騒めいた。
雛はそろそろ巣の中から出ようとしていた頃なので、落ち着きが無い。
狭い籠が気に入らずに、時々暴れる。
「覆いの布を被せとけば、おとなしいんだが」
「これでケガでもしたらえらいこった」
「覆いの布を引っ掛けて破っちまったからなぁ」
キリルはメロアの実を潰してクッキーにした物を、お茶と共に出した。
僕はお針は得意だから。と布を受け取る。
雛が暴れてケガをしてはいけないですからね。
そう笑いながら厚い覆い布を繕っていく。
そして鳥が幸せになるようにと、月の加護の紋様を裏に縫い込んだ。
ガルゼはじっとそれを見ていた。
そして覆いが出来上がった時、
ふうっと細い息に乗せて飛ばした祝福を、
アルベルトに向けて貼り付けた。
ホワルーはこの領だけに固有の、野生の鳩の亜種だ。
今まで誰も気に留めていなかった。
肉は硬くて不味いから、喜ばれてもいなかった。
でも隣国との戦争で注目を浴びた。
元々、辺境のカリヴァンス領で、緊急連絡網を作る為に捕獲売買され訓練したのだという。
他の鳥は"鳥目"で夜はあまり動けない。
ホワルーは"月の神の使者"と昔は言われていたようで、昼も夜も活動する。
さらに伝文を伝令菅に入れて飛ばすと、狼煙よりも遥かに効率が良かったそうだ。
王家の鷹便は、専用のお偉い飼育員が必要だけど。
ホワルーは簡単に村でも飼育できる。
カリヴァンスでは村の者が習いにいって、卵や雛を頂いているらしい。
いざと言う時に、領主様や兵士に助けを求められるのはとてもありがたいことだ。
そう言うわけで、ホワルーが領地持ちの貴族の中で人気になった。
月の神信仰は廃れ、ホワルーも消えようとしていた事で。
乱獲は絶滅を意味すると悟った領主が、専任を決めて捕獲数を制限した。
ホワルーは鳩程は卵を産まない。
月の使者と言われただけあって、交尾は満月の頃だけだ。
しかもせいぜい多くて3個。温める時間が長い。
そんな訳で乱獲すれば、直ぐに絶滅が見えていた。
鳥見役は領主から任命される。
その仕事は密猟の監視の為に山を歩いて。
鳥の生息状況を把握して。
頼まれた数だけ捕獲して、飼育する。
領を跨いでその雛を届けにも行く。
そんな一族は鳥見衆と呼ばれた。
鳥見衆は領の山、それも人がいない奥を歩く。
エギマは特に深い奥だ。
そこに点在して村がある。
ヤコン村に入った時。
鳥見衆は背負子の鳥籠の中に、生後20日ほどの雛を入れていた。
川で汗を拭おうとしているのを、ガルゼが気が付いた。
田舎の情報源は、他の地から来た者からだ。
愛想よく家の脇のガーデンテーブルに休憩にさそった。
弁当の堅パンを取り出すので、キリルはスープを差し入れる。
キリルの美貌にぽうっとなった者たちは、おずおずと喋りだした。
山の芽吹きや獣の流れ。
それで季節が暑いか寒いか透けて見えてくる。
この雛はカリヴァンスに送る。
同じ家族で交配すると、血が近くなるから。
この村は活気がある。
一つ向こうは老人ばかりだ。
雑談してようやく舌が滑らかになり始めた時に、バサバサと鳥籠が揺れて騒めいた。
雛はそろそろ巣の中から出ようとしていた頃なので、落ち着きが無い。
狭い籠が気に入らずに、時々暴れる。
「覆いの布を被せとけば、おとなしいんだが」
「これでケガでもしたらえらいこった」
「覆いの布を引っ掛けて破っちまったからなぁ」
キリルはメロアの実を潰してクッキーにした物を、お茶と共に出した。
僕はお針は得意だから。と布を受け取る。
雛が暴れてケガをしてはいけないですからね。
そう笑いながら厚い覆い布を繕っていく。
そして鳥が幸せになるようにと、月の加護の紋様を裏に縫い込んだ。
ガルゼはじっとそれを見ていた。
そして覆いが出来上がった時、
ふうっと細い息に乗せて飛ばした祝福を、
アルベルトに向けて貼り付けた。
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