【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら

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ナルディル領サムスク州エギマ地区にて

2 フォレア

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足首ほどの水の中をよちよちと進む。
やがて狙いを付けると、青空色の目がキラキラと輝いた。
お日様みたいな笑顔がうにょんと浮かぶ。

フォレアはちいさな足指をぐりぐりと砂に刺していく。
砂が透明な水に煙のように立ち昇って、流れる葉っぱをくるくると踊らせた。
もうフォレアは息を殺して釘付けだ。
狙いを付けた大きな岩(大人の拳ほどしか無い)の下を、砂の中に手を突っ込んでしゃがむと。
ふん!と腰を溜めてひっくり返した。

がっ。と岩が少し飛んで。
ひっくり返って水面にばしゃりと落下する。
水が冠みたいにばんって跳ねて。
周りの小魚がわたわた慌てるのを、フォレアは声を上げる笑った。

フォレアの楽しい声は、辺りを明るくする。
一緒に水遊びに来ていた子供達もご機嫌になって、魚を追い込んでいく。

フォレアの鈍色の髪は濡れてぽたぽたと雫が垂れていた。
もう、ずぶ濡れだ。
木漏れ日の中に水面が反射され、お日様が一筋ある金色の髪にキラキラと踊っていた。
大丈夫だ。着替えもタオルも用意している。
岩遊びに飽きたら「じぃじぃ~」と、とてとてと走ってくるだろう。

子供番の爺様は、遊ぶ子供を全員確認した。
そして再び一番幼いフォレアを眺める。


フォレアは綺麗な子供だ。天使そのものだ。
親のキリルさんが綺麗な人だから無理ないと思う。

キリルさんは美人で明るくて働き者だ。
美人で優しくて気配りもできる。
何度も言う。美人だ!
あんな綺麗な人が、なんでこんな田舎に…と思うが。
片親で産んだところを見ると、きっと戦争で旦那を亡くしたんだと思う。

隣の国との戦争は、大変だったようだ。
このナルディル領のサンスク辺りは、人が出ないで食料を送ってたけど。
沢山人を出した領もあるって聞いてる。


キリルさんは綺麗で気立ても良かったから。
たとえ子持ちでも、と言い寄る奴は多かった。
行商人なんかメロメロだった。

キリルさんはあの綺麗な菫色の目で、じっと見て
「貴方のお相手はあっちにいますよ」と指差す。
確かにそっちの村に行ったら、ビンゴでぴったりな伴侶が見つかる。
元々この領には、人は赤い糸で結ばれているって話があった。
だから皆んなだんだん何も言わなくなった。

それに。
"狩猟をします"という二人。
華奢だから、冗談だと思ってた。
ある日ガルゼさんが、太い枝と蔓で簡単な橇を作って、デカい熊をずるずる引き摺ったのを見た奴は仰天した。
橇は毛皮に傷を付けないためだったそうで。
さらにキリルさんがにこにこと解体を始めた時。
結構な奴らが引いた。

この辺は農民だ。
ヌーモやネズズみたいなのは、罠で仕留められる。
でもデカいのが現れたら、隣村の猟師に頼むしかない。
熊とかの解体なんて、見慣れなくてびっくりだ。
しかも解体した肉を配ってくれて。
いや、もう、敵わないです。
と身に染みたようだ。

そんな訳でキリルさん達はこの村で暮らしている。

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