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馬鹿者の夢の跡

3 エルダス 下

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でも、あの朝。
二人が結ばれた朝。

あの馬鹿は何も告げずに、書き置きもせずに消えた。
いきなり馬に乗って、行っちまったのだ。

"一夜の過ちを悔いて"と誤解されてもしょうがない。
鬼畜のような所業だ!
涙を流されたキリル様に慌てたが、後ろのガルゼ様の圧に何も言えなかった。



世の中には、取り返しのつく馬鹿と
取り返しのつかない馬鹿がある。

アルベルトはもう婚姻契約書を交わして数年経っているから、閨の三日というのは違うと思ってた。と言う。まぁ言い訳だ。
三日とかはさて置いて。
初めて手合わせした相手は、翌朝労って愛おしむのは基本の基本で、それがされないなんて考えてもいなかった。

それはもう、補佐とか言う問題ではなくて。
考えついたら突っ走る、お前のお子様脳の問題だぞ‼︎

結局キリル様は契約解消の署名を残して消えた。

意気揚々と帰ってきたアルベルトが、それを聞いて石化した。
そのままゴロンと馬から落ちて。
落ちた泥の中で愕然とへたり込んでいたが
「お前のせいだ!」とか「自業自得だぜ!」と、誰もがおもった。そりゃそうだよね。

初めは刺々しかった視線が、だんだん憐れみに変わっていく。
アルベルトの憔悴っぷりがハンパじゃ無かったからだ。
こいつ…馬鹿だなぁ。城の者はしみじみ思ってた。


内緒だが。
私はガルゼ様と繋がっている。
いや、意味深な単語だが、そんな有難い事では無い。
ふみを頂いているだけだ。
ぺんふれんどと言うものだ。
城下の店を介して文を送り合っている。

まぁ、ガルゼ様はアルベルトの人となりを理解して。
キリル様の伴侶で良し。と思ってくださっているのだろう。
~~と、思い込むようにしている。
(本当はただルーア様が心配なのだと分かってるけどね)


馬で意気揚々と出発した馬鹿と。
おめおめと帰ってきた馬鹿との違いを見つけられない。
私から言わせると、キリル様の愛を受けた姿と失くした姿としか見えない。
が。なんか、違うらしい。

チャワスの神子に、真の夫夫になるには、誰かとの縁切りが必要だとか言われたらしい。

あの生き埋めからの救出の後。
救護所で枕を並べた二人は、身動き出来ない怠さの中で、達者に動く口でぴいちくぱあちくと喋っていた。

アルベルトを発見した時に、不可思議な神力というものを体験したから。
神子は確かに別次元な存在だと思うが…
「それさえ出来たら、押しも押されもせぬ。何も揺るがないラブラブ夫夫になれるんだ!」と思い込み。
「それを頼んできた!見つかったら連絡が来る」
となって、思い込んでただただ突っ走った訳だ。
しかもその理由が…
「キリルにサプライズをしたかった‼︎」
と言う訳の分からない言い訳に、
ムッキー‼︎となるのは私だけでは無かった。

「サプライズは、下準備と根回しをした上で。
愛と驚きを演出する様式美です。
いきなり突っ走るモノではありません。
~との事を、アルベルト様の脳みそに刻んで下さいね」

ガルゼ様の美しい文字列が、0.3㎜斜めってる。
いつもより筆圧が強くて。
イラッとしている姿が想像できた。


ずっるぅい‼︎
アルベルトっ!
ガルゼ様が字を乱すほど、気にかけて貰ったんだっ!

ちくりとしたジェラに、エルダスはキッと顔を持ち上げた。

勿論です!
心胆寒からしめて、二度とサプライズなんで考え無いようにしてやります‼︎
お二人が"帰ってやっても良い"と思えるように、叩き込んでやりますから!



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