上 下
45 / 59
蜃気楼の恋

5 赤い糸とルーア

しおりを挟む
何もしたく無くて。
ぼうっと転がってた。
自分の思い上がった心を、静かに見つめてた。


糸も持たず。
誰とも妻合わず。
誰にも愛されず。
誰にも必要とされない、怪物。
一人で生きていくべき怪物。

そう思ってた。

それなのに今はどうだ。
アルベルトに背を向けられてめめしく泣いている。

……馬鹿馬鹿しい。

キリルは反動をつけて起き上がった。


好きな男が出来た。
好きな男と寝た。
守るべき子供ルーアがいる。

以前から見ると、良いことずくめじゃないか。

アルベルトの赤い糸が何処かに向かってたのはわかってた。
わかってた癖に、今更うじうじするなんて‼︎

キリルの心は底辺まで落ちた。
そしてぐんと急浮上した。

二日も転がってれば充分だ。
二日も有れば自分の恋心は成仏してくれる。
ただまだ微妙に身体が重怠かった。


ベッドサイドに持ってきて貰わずに、キリルは自分で洗面所に行って顔を洗った。
鏡には、青白い覇気のない顔が映っている。

馬鹿だなぁ。
他人に期待するから落ち込むんだ。

水を掬うと顔にぶつけて、はぁぁと溜めていた息をだした。
うじうじするのはもう終わり。
いつだって自分は自分だ。


キリルは窓から庭を見た。
ルーアが剣を振っているのが見える。
小さな体が動くのは、子犬の様で微笑ましい。
キリルは微笑む自分にほっとした。
湧いてくるルーアへの愛にほっとした。


『風邪』だからと会わなかった。
無垢な顔を見るのがつらかったからもある。
ルーアはもう一人で眠ってる。
一人で勉強して自立している。
そんな子供に自分のぶれぶれな姿を見せたくなかった。

ガルゼに支度されて部屋を出る。
出会う従者達はほっと眉を八の字にして、挨拶してくる。
ああ、心配かけちゃったんだなぁ。
人のいたわる目にちょっとじんとした。

「キリルママ!」

気付いたルーアが走ってくる。
寝付いてたキリルを案じて、飛び付かずに少し手前で止まって、それでも子犬のように嬉しそうな顔で。
その姿にほっこりと愛が溢れる。

ルーアは陽にキラキラと金髪を揺らし。
青空の様な目で真っ直ぐこっちを見てくる。
アルベルトに似ている。
改めて思ったが、もう心は痛まなかった。
そしてそんな自分に満足した。

大きくなったなぁ。
将来イケメンでモテモテだ。
僕が育てたから性格も良いしね。
抱きついた頭が胸に掛かるのをしみじみと思った。

ルーアの体温にうっとりして、キリルは遅れて気付いた。

無垢なルーアの赤い糸は珊瑚のような色だ。
今まで、まだ相手が生まれてないのか虚空に消えていた。
その糸がはっきりと見えている。

キリルはびくりと震えた。

その糸はルーアの指にしゅるりと煌めいて、抱きついたそのままに、真っ直ぐキリルの腹の中へと沈んでいた。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜

明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。 その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。 ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。 しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。 そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。 婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと? シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。 ※小説家になろうにも掲載しております。

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……

鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。 そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。 これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。 「俺はずっと、ミルのことが好きだった」 そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。 お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ! ※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...