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蜃気楼の恋
4 その現実
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キリルは湯の中の身体を見下ろした。
腕の内側にも胸にも、アルベルトの名残が咲いている。
俯いた頭からこぼれ落ちた鈍色の髪がお湯に広がって、生き物のように蠢いていた。
息を詰めてから、尻に手を回して掻き出す。
アルベルトの子種が湯の中でゆるゆると流れていくのを、充血した眼で見送った。
好き。
呟いてみた。
その言葉が、コロンと氷砂糖の様に床を転がる。
まるで虫の死骸だ。
嫌悪感が立ち込める。
好きだった。
そう呟くと。
その過去形が、もう恋は終わったんだと嘲笑ってきた。
探してもアルベルトはいなかった。
誰にも告げずに、馬で走り去ったと言う。
取り残されたのは、ぽかんと口を開けている城の使用人とキリルだ。
僕の何がいけなかったんだろう。
ぐるぐると心は巡る。
迷子の様に廻り続ける。
見かねたガルゼが優しく洗ってくれて。
シーツを替えて風を通したベッドに寝そべった。
「今日は動けないのでお休みします。
ルーアに風邪気味だと伝えてください」
スプーンを持つ事が出来なくて冷めてしまったブランチを下げたころ、エルダスが神妙な顔でやってきた。
「ごめんね。契約違反しちゃったよ。」
努めて明るくキリルは言った。
何があったかはもう城中知っている。
言われる前に言う!
その自虐の鉄板は、エルダスの途方に暮れたような顔で霧散した。
痛ましそうな目に、ぱりんと割れた。
「アルベルト…どっか行っちゃった。
大見得きってたのに違反した僕にうんざりしたんだと思う。ペナルティに付いては考えるから、ちょっと待ってくれる?」
は⁉︎ とエルダスが息を吐いた。
目がまんまるだ。
そんな素直さに刺激されて、感情が揺れる。
「どっか行っちゃったよぉ。わらっちゃうよね。
多分思ったより良くなかったのかなぁ。
もう、ツラも見たくない感じ?」
あははと明るく言ったのに。
涙がはたはたと顎から滴って。
エルダスは引き攣った顔をしていた。
ごめんねエルダス。
あなたまで気が回らない。
好きだ。と言われた。
好きだ。と叫んだ。
『おいてかないで』『離さないで』
そんな事を叫んだ気がする。
でも目が覚めたら一人だった。
当たり前だけど。
自分の指に赤い糸は絡んでいなくて。
部屋のどこにも赤い糸は溜まっていなかった。
天井の照明器具を凝視する。
獣の様に番った二人を見下ろしていたソレを睨みつける。
だって溢れるもので揺れて、震えて、滲んでいく。
一人。
つまりそういうことだ。
"一時の気の迷いで盛り上がったけど。
目が覚めたら鎮火していた。
隣見て、あ、やべぇ。と逃げた"
ググッと嗚咽が肩を揺らす。
わらえる。
自分の馬鹿さ加減に笑える。
腕の内側にも胸にも、アルベルトの名残が咲いている。
俯いた頭からこぼれ落ちた鈍色の髪がお湯に広がって、生き物のように蠢いていた。
息を詰めてから、尻に手を回して掻き出す。
アルベルトの子種が湯の中でゆるゆると流れていくのを、充血した眼で見送った。
好き。
呟いてみた。
その言葉が、コロンと氷砂糖の様に床を転がる。
まるで虫の死骸だ。
嫌悪感が立ち込める。
好きだった。
そう呟くと。
その過去形が、もう恋は終わったんだと嘲笑ってきた。
探してもアルベルトはいなかった。
誰にも告げずに、馬で走り去ったと言う。
取り残されたのは、ぽかんと口を開けている城の使用人とキリルだ。
僕の何がいけなかったんだろう。
ぐるぐると心は巡る。
迷子の様に廻り続ける。
見かねたガルゼが優しく洗ってくれて。
シーツを替えて風を通したベッドに寝そべった。
「今日は動けないのでお休みします。
ルーアに風邪気味だと伝えてください」
スプーンを持つ事が出来なくて冷めてしまったブランチを下げたころ、エルダスが神妙な顔でやってきた。
「ごめんね。契約違反しちゃったよ。」
努めて明るくキリルは言った。
何があったかはもう城中知っている。
言われる前に言う!
その自虐の鉄板は、エルダスの途方に暮れたような顔で霧散した。
痛ましそうな目に、ぱりんと割れた。
「アルベルト…どっか行っちゃった。
大見得きってたのに違反した僕にうんざりしたんだと思う。ペナルティに付いては考えるから、ちょっと待ってくれる?」
は⁉︎ とエルダスが息を吐いた。
目がまんまるだ。
そんな素直さに刺激されて、感情が揺れる。
「どっか行っちゃったよぉ。わらっちゃうよね。
多分思ったより良くなかったのかなぁ。
もう、ツラも見たくない感じ?」
あははと明るく言ったのに。
涙がはたはたと顎から滴って。
エルダスは引き攣った顔をしていた。
ごめんねエルダス。
あなたまで気が回らない。
好きだ。と言われた。
好きだ。と叫んだ。
『おいてかないで』『離さないで』
そんな事を叫んだ気がする。
でも目が覚めたら一人だった。
当たり前だけど。
自分の指に赤い糸は絡んでいなくて。
部屋のどこにも赤い糸は溜まっていなかった。
天井の照明器具を凝視する。
獣の様に番った二人を見下ろしていたソレを睨みつける。
だって溢れるもので揺れて、震えて、滲んでいく。
一人。
つまりそういうことだ。
"一時の気の迷いで盛り上がったけど。
目が覚めたら鎮火していた。
隣見て、あ、やべぇ。と逃げた"
ググッと嗚咽が肩を揺らす。
わらえる。
自分の馬鹿さ加減に笑える。
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