39 / 59
ダキャナの大地
4 終結の後
しおりを挟む
目を開けたガルゼが
「見つかりましたよ。元気でした」
と、笑ったから。
キリルは力が抜けて座り込んだ。
ガルゼは虚言を使わない。
だから痺れるような安堵で全身が震えた。
無事。
この空の下で無事でいる。
それだけで、キリルは月の神に感謝した。
詳しくは知らない。
そんな事はどうでもいい。
無事で。
帰って来てくれる。
それだけでいい。
千切れるような気持ちの乱高下に振り回されて、キリルは自分の心をしっかりと意識した。
そして、もう、どうでもいい。と思った。
ただ好きだ。
それだけでいい。
無事。
それだけでいい。
次の日、鳥便も『無事。』と、届く。
ほっとしつつ。案じつつ。
そのままに戦争は続いた。
アルベルトは神子を守った事で感謝され、戦争はクーデターという形に変化していった。
そうなると国の軍と兵は支援となる。
支援ならばと周辺国も申し出てきて、チギル達は一気に勢いを無くしていった。
掲げる理想も正義も変わっていく。
同じ空の下なのに遠い。
皆でおろおろと無事を祈るだけしか出来ない。
一年経って、和平交渉が締結された。
カリヴァス領に王から褒美の書簡と下賜が馬車で届いたのを受けたのは、次期伯爵のルーアと現代行のキリルだった。
領地は祝いで浮かれたけれど。
それでもアルベルト達は帰って来なかった。
歩兵達は無事に帰還して、アルベルトやエルダスの手紙を持って来た。
"今後の為にチャワス達への橋渡しをしている"
確かに、王都ではその民族の風習も嗜好も知られていない。
アルベルトは戦いの事後処理もあって忙しいのだ。
~~でも、キリルの心が真っ直ぐにアルベルトを目指している今。
会えない事はチリチリと辛い。
炎に炙られて、わーっと走り出す気持ちになる。
じっと執務室で書類を捌く癒しは、ルーアだ。
もうすぐ七歳になるルーアは、アニムスのせいか体も大きく育ってきた。
簡単な書類も出来る。
領地の巡回も騎士達と馬を駆る。
それでも役に立とうと背伸びしているのが見え見えで、微笑ましい。
とりあえずアルベルト達が帰還した時の憂いを一つでも無くすために、キリル達は仕事をしていた。
ある日、王家からの鷹便が来た。
アルベルト達が領地目指して旅立つという。
その発表に城は浮き足立ち、使用人は歓迎の準備に雄叫びを上げた。
兵は街や村、砦への告知に走り回る。
王都からこの辺境まで馬車で一カ月。
簡単に考えれば馬だと16日。
でも馬車は、甘えたお貴族の子息の為にのたのた走っていた訳で。
戦争終結の功労者ともなれば、街道に替え馬を用意されるだろう。
14日。あるいはそれよりも早く。
ガルゼは、
「アルベルト様はいっときでもじっとしてられないでしょうから」とキリルをみつめた。
うんうん。と頷くルーアと家令に、キリルは照れくさくって真っ赤になった。
帰って来る。
真っ直ぐ、ここに帰って来る。
アルベルトの心が変わっていないのか。
好きだと素直に言えるのか。
悶々とした気持ちの中で、
領民も心が浮き足だって、準備は慌ただしく進んでいった。
************
馬車は一日で50km進み、
馬は一日80~90km と、しています。
「見つかりましたよ。元気でした」
と、笑ったから。
キリルは力が抜けて座り込んだ。
ガルゼは虚言を使わない。
だから痺れるような安堵で全身が震えた。
無事。
この空の下で無事でいる。
それだけで、キリルは月の神に感謝した。
詳しくは知らない。
そんな事はどうでもいい。
無事で。
帰って来てくれる。
それだけでいい。
千切れるような気持ちの乱高下に振り回されて、キリルは自分の心をしっかりと意識した。
そして、もう、どうでもいい。と思った。
ただ好きだ。
それだけでいい。
無事。
それだけでいい。
次の日、鳥便も『無事。』と、届く。
ほっとしつつ。案じつつ。
そのままに戦争は続いた。
アルベルトは神子を守った事で感謝され、戦争はクーデターという形に変化していった。
そうなると国の軍と兵は支援となる。
支援ならばと周辺国も申し出てきて、チギル達は一気に勢いを無くしていった。
掲げる理想も正義も変わっていく。
同じ空の下なのに遠い。
皆でおろおろと無事を祈るだけしか出来ない。
一年経って、和平交渉が締結された。
カリヴァス領に王から褒美の書簡と下賜が馬車で届いたのを受けたのは、次期伯爵のルーアと現代行のキリルだった。
領地は祝いで浮かれたけれど。
それでもアルベルト達は帰って来なかった。
歩兵達は無事に帰還して、アルベルトやエルダスの手紙を持って来た。
"今後の為にチャワス達への橋渡しをしている"
確かに、王都ではその民族の風習も嗜好も知られていない。
アルベルトは戦いの事後処理もあって忙しいのだ。
~~でも、キリルの心が真っ直ぐにアルベルトを目指している今。
会えない事はチリチリと辛い。
炎に炙られて、わーっと走り出す気持ちになる。
じっと執務室で書類を捌く癒しは、ルーアだ。
もうすぐ七歳になるルーアは、アニムスのせいか体も大きく育ってきた。
簡単な書類も出来る。
領地の巡回も騎士達と馬を駆る。
それでも役に立とうと背伸びしているのが見え見えで、微笑ましい。
とりあえずアルベルト達が帰還した時の憂いを一つでも無くすために、キリル達は仕事をしていた。
ある日、王家からの鷹便が来た。
アルベルト達が領地目指して旅立つという。
その発表に城は浮き足立ち、使用人は歓迎の準備に雄叫びを上げた。
兵は街や村、砦への告知に走り回る。
王都からこの辺境まで馬車で一カ月。
簡単に考えれば馬だと16日。
でも馬車は、甘えたお貴族の子息の為にのたのた走っていた訳で。
戦争終結の功労者ともなれば、街道に替え馬を用意されるだろう。
14日。あるいはそれよりも早く。
ガルゼは、
「アルベルト様はいっときでもじっとしてられないでしょうから」とキリルをみつめた。
うんうん。と頷くルーアと家令に、キリルは照れくさくって真っ赤になった。
帰って来る。
真っ直ぐ、ここに帰って来る。
アルベルトの心が変わっていないのか。
好きだと素直に言えるのか。
悶々とした気持ちの中で、
領民も心が浮き足だって、準備は慌ただしく進んでいった。
************
馬車は一日で50km進み、
馬は一日80~90km と、しています。
102
お気に入りに追加
391
あなたにおすすめの小説
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
ギャルゲー主人公に狙われてます
白兪
BL
前世の記憶がある秋人は、ここが前世に遊んでいたギャルゲームの世界だと気づく。
自分の役割は主人公の親友ポジ
ゲームファンの自分には特等席だと大喜びするが、、、
狂わせたのは君なのに
白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。
完結保証
番外編あり
王子様から逃げられない!
白兪
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。
愛する人
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」
応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。
三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。
『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。
【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。
嘘の日の言葉を信じてはいけない
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
嘘の日--それは一年に一度だけユイさんに会える日。ユイさんは毎年僕を選んでくれるけど、毎回首筋を噛んでもらえずに施設に返される。それでも去り際に彼が「来年も選ぶから」と言ってくれるからその言葉を信じてまた一年待ち続ける。待ったところで選ばれる保証はどこにもない。オメガは相手を選べない。アルファに選んでもらうしかない。今年もモニター越しにユイさんの姿を見つけ、選んで欲しい気持ちでアピールをするけれど……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる