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ダキャナの大地

4 終結の後

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目を開けたガルゼが
「見つかりましたよ。元気でした」
と、笑ったから。

キリルは力が抜けて座り込んだ。

ガルゼは虚言を使わない。
だから痺れるような安堵で全身が震えた。

無事。
この空の下で無事でいる。

それだけで、キリルは月の神に感謝した。

詳しくは知らない。
そんな事はどうでもいい。

無事で。
帰って来てくれる。
それだけでいい。

千切れるような気持ちの乱高下に振り回されて、キリルは自分の心をしっかりと意識した。
そして、もう、どうでもいい。と思った。

ただ好きだ。
それだけでいい。

無事。
それだけでいい。




次の日、鳥便も『無事。』と、届く。
ほっとしつつ。案じつつ。
そのままに戦争は続いた。

アルベルトは神子を守った事で感謝され、戦争はクーデターという形に変化していった。
そうなると国の軍と兵は支援となる。
支援ならばと周辺国も申し出てきて、チギル達は一気に勢いを無くしていった。

掲げる理想も正義も変わっていく。
同じ空の下なのに遠い。
皆でおろおろと無事を祈るだけしか出来ない。

一年経って、和平交渉が締結された。

カリヴァス領に王から褒美の書簡と下賜が馬車で届いたのを受けたのは、次期伯爵のルーアと現代行のキリルだった。
領地は祝いで浮かれたけれど。
それでもアルベルト達は帰って来なかった。

歩兵達は無事に帰還して、アルベルトやエルダスの手紙を持って来た。

"今後の為にチャワス達への橋渡しをしている"
確かに、王都ではその民族の風習も嗜好も知られていない。
アルベルトは戦いの事後処理もあって忙しいのだ。

~~でも、キリルの心が真っ直ぐにアルベルトを目指している今。
会えない事はチリチリと辛い。
炎に炙られて、わーっと走り出す気持ちになる。
じっと執務室で書類を捌く癒しは、ルーアだ。

もうすぐ七歳になるルーアは、アニムスのせいか体も大きく育ってきた。
簡単な書類も出来る。
領地の巡回も騎士達と馬を駆る。
それでも役に立とうと背伸びしているのが見え見えで、微笑ましい。

とりあえずアルベルト達が帰還した時の憂いを一つでも無くすために、キリル達は仕事をしていた。



ある日、王家からの鷹便が来た。

アルベルト達が領地目指して旅立つという。
その発表に城は浮き足立ち、使用人は歓迎の準備に雄叫びを上げた。
兵は街や村、砦への告知に走り回る。

王都からこの辺境まで馬車で一カ月。
簡単に考えれば馬だと16日。
でも馬車は、甘えたお貴族の子息の為にのたのた走っていた訳で。
戦争終結の功労者ともなれば、街道に替え馬を用意されるだろう。

14日。あるいはそれよりも早く。

ガルゼは、
「アルベルト様はいっときでもじっとしてられないでしょうから」とキリルをみつめた。
うんうん。と頷くルーアと家令に、キリルは照れくさくって真っ赤になった。

帰って来る。
真っ直ぐ、ここに帰って来る。

アルベルトの心が変わっていないのか。
好きだと素直に言えるのか。

悶々とした気持ちの中で、
領民も心が浮き足だって、準備は慌ただしく進んでいった。


  ************

馬車は一日で50km進み、

馬は一日80~90km と、しています。
         

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