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ダキャナの大地
2 山津波
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「お待ちしてました。月の人。」
その子供に深い礼をされ、アルベルトも慌てて返した。
「月の人?」
「はい。貴方には月の加護がございます。
私は、遠くからいらした月の人にお会いしたかった。
我らは石の人です。」
大きくて平たい巨石を指差して子供は笑った。
その眼差しは老成して、何処か疲れてみえる。
「月の加護は紅い曼珠沙華の花弁の様に、ふわふわと宇宙へと伸びていますね。凄く綺麗だ。」
幼い姿なのに、老成した者が嵌った微笑みは不思議だった。
手土産を渡し、王の書簡を渡していた時。
神子ははっと遠くに飛び立つ鳥を聞いた。
ゴゴゴゴゴッ…
足の下から振動が脳味噌を揺らした。
「石舞台に上がって下さい‼︎」
ゴゴゴゴゴッ…
「山が来ますっ!」
立てない程の揺れに翻弄されながら、慌てて平たい巨石に登る。
ズズズズズッ…
視線を高くして音の方を見る。
夕闇のままに鈍色に四方で聳える山々の中で。
透明に蒼い夜空にもうもうと煙が湧き上がっていた。
月光を、タラタラと反射させた斜面が。
生き物のように煙を上げながら轟々と体を捩っている。
山が来る。
その言葉に、崩れ落ちた山肌が生えている木々を押し潰しながらこっちに押し寄せてくる。
揺れは激しい。
巨石の上で固まって、互いを支え合う。
ゴゴゴゴゴッと地響きの中で土石流は、木も山も巻き込みながら膨れ上がって壁になる。
波の様にあっという間に迫って、平たい巨石をぐいっと弾きあげた。
神子は早口な祝詞を祈る。
がんと突き上げられた石はどすんと流れに乗った。
グラグラ揺れながら波頭の上で運ばれる。
めきめきと太い木が土砂に呑み込まれる。
人の乗る石の周りは不思議な白い光のままだ。
轟々と。
めきめきと。
ガツガツと。
大地が慟哭しながら木も石もまきこんで。
はじかれた石や枝が四方に飛んでいく。
そのまま波に乗ったアルベルト達は山の斜面から滑り落ち、列石をげんげんと跳ね飛ばしながら
正面にたっている柱石の門へと真っ直ぐにぶつかっていった。
衝撃は音よりも振動で。
四つん這いになっていた巨石がふわりと浮いて、身体が投げ出される。
浮遊感の頼りなさの中で、近くにあった 小さな体を捕まえて抱き抱えた。
その体を庇うように丸くなったアルベルトの上に、土砂が殴りつける様に降り注いだ。
轟々という不気味な音に、エルダスは地面に手を付いて周りを見回した。
チャワスの村人も、揺れる大地に互いに抱き合って震えている。
何が⁉︎
何が⁉︎
情報を求めるエルダスは、音が消えた時。
浮き足立つ兵士を集合させ、村の被害状況を調べる手配をした。
その時、全力疾走のヤクと子供が集落に駆け込んできた。
チギルが山を崩した!
神子達が巻き込まれた‼︎
慌てて走る兵士と村人は、土砂で埋まって煙を上げた村を見た。
わらわらと集まるチャワス達と一緒に、手で岩を退かしていく。
呼んでも声が聞こえない。
この広い村の何処に埋まってるというんだ…
エルダスは兵士を分けて、順番に土を掻く。
夜。
煌々とした月明かりの中。
なんとか朝方まで土を掻き続け。
もう、立ち上がれなくなって一休みする前に。
エルダスはガルゼに鳥便を放した。
「アルベルト、不明」と。
その子供に深い礼をされ、アルベルトも慌てて返した。
「月の人?」
「はい。貴方には月の加護がございます。
私は、遠くからいらした月の人にお会いしたかった。
我らは石の人です。」
大きくて平たい巨石を指差して子供は笑った。
その眼差しは老成して、何処か疲れてみえる。
「月の加護は紅い曼珠沙華の花弁の様に、ふわふわと宇宙へと伸びていますね。凄く綺麗だ。」
幼い姿なのに、老成した者が嵌った微笑みは不思議だった。
手土産を渡し、王の書簡を渡していた時。
神子ははっと遠くに飛び立つ鳥を聞いた。
ゴゴゴゴゴッ…
足の下から振動が脳味噌を揺らした。
「石舞台に上がって下さい‼︎」
ゴゴゴゴゴッ…
「山が来ますっ!」
立てない程の揺れに翻弄されながら、慌てて平たい巨石に登る。
ズズズズズッ…
視線を高くして音の方を見る。
夕闇のままに鈍色に四方で聳える山々の中で。
透明に蒼い夜空にもうもうと煙が湧き上がっていた。
月光を、タラタラと反射させた斜面が。
生き物のように煙を上げながら轟々と体を捩っている。
山が来る。
その言葉に、崩れ落ちた山肌が生えている木々を押し潰しながらこっちに押し寄せてくる。
揺れは激しい。
巨石の上で固まって、互いを支え合う。
ゴゴゴゴゴッと地響きの中で土石流は、木も山も巻き込みながら膨れ上がって壁になる。
波の様にあっという間に迫って、平たい巨石をぐいっと弾きあげた。
神子は早口な祝詞を祈る。
がんと突き上げられた石はどすんと流れに乗った。
グラグラ揺れながら波頭の上で運ばれる。
めきめきと太い木が土砂に呑み込まれる。
人の乗る石の周りは不思議な白い光のままだ。
轟々と。
めきめきと。
ガツガツと。
大地が慟哭しながら木も石もまきこんで。
はじかれた石や枝が四方に飛んでいく。
そのまま波に乗ったアルベルト達は山の斜面から滑り落ち、列石をげんげんと跳ね飛ばしながら
正面にたっている柱石の門へと真っ直ぐにぶつかっていった。
衝撃は音よりも振動で。
四つん這いになっていた巨石がふわりと浮いて、身体が投げ出される。
浮遊感の頼りなさの中で、近くにあった 小さな体を捕まえて抱き抱えた。
その体を庇うように丸くなったアルベルトの上に、土砂が殴りつける様に降り注いだ。
轟々という不気味な音に、エルダスは地面に手を付いて周りを見回した。
チャワスの村人も、揺れる大地に互いに抱き合って震えている。
何が⁉︎
何が⁉︎
情報を求めるエルダスは、音が消えた時。
浮き足立つ兵士を集合させ、村の被害状況を調べる手配をした。
その時、全力疾走のヤクと子供が集落に駆け込んできた。
チギルが山を崩した!
神子達が巻き込まれた‼︎
慌てて走る兵士と村人は、土砂で埋まって煙を上げた村を見た。
わらわらと集まるチャワス達と一緒に、手で岩を退かしていく。
呼んでも声が聞こえない。
この広い村の何処に埋まってるというんだ…
エルダスは兵士を分けて、順番に土を掻く。
夜。
煌々とした月明かりの中。
なんとか朝方まで土を掻き続け。
もう、立ち上がれなくなって一休みする前に。
エルダスはガルゼに鳥便を放した。
「アルベルト、不明」と。
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