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戦いという異次元
2 出陣の思惑
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出陣を神に天に大地に祈って、アルベルト達は立ち上がった。
参列者達に大きく手を振ってから、整列した愛馬の手綱を引く。
アルベルトはルーアを抱き上げて
「俺がいない間は皆んなを頼んだぞ。」
と、声をかけ、キリルの冷たい頬に軽く口付けした。
馬が蹴立てる土埃が、遠く流れて行くのを見送る。
明け白んできた空に、名残の星が瞬く。
いつもの見送りと違い、全ての人が祈る様に叫んでいた。
城門に向かう迄は玄関で見送っていたルーアが、踵を返して走り出した。
見張りの塔への階段を駆け上がる。
つられる様に螺旋階段を刻むキリルの背中は、らしく無い焦りが張り付いている様で。
ガルゼは切なく見守った。
見張り場で、兵に抱っこされたルーアと頭を並べながら、キリルは彼方を見ている。
街はわーんと人の熱気に波の様に揺れていた。
明日からキリルの仕事は多い。
今日まではちょっとおセンチな奥方でいられる。
本当はルーアを安全な王都に送りたかった。
この地もいつ戦場にならないとも限らない。
でもそれを断ったのはルーアだ。
「送る為には護衛がいるでしょう?」
と、ルーアは考え考え答えた。
兵は一人でも必要だ。それに。
「僕はここで皆んなと頑張りたい。」それに。
「アルパパと約束したんだ。キリルママも皆んなも守るんだ」
ルーアの青空色の目も、ぎゅっと力が入っていて。
色は春の様に淡いのに、アルベルトに似ていた。
もちろんきゅん♡となったキリルは、照れて暴れるルーアを捕まえて。
ハグからの椅子抱っこからのちゅう♡がエンドレスに繰り出された。
領地の護りと救援物資。
あらゆる伝手を使って戦場の動きを探る。
明日からキリルの仕事は多い。
「好きだって言われた。」
入浴あとに髪を乾かすガルゼを、鏡の向こうで菫色が見つめている。
「はい。」
「受け入れて欲しいって言われた。」
「はい。」
キリルの目には恋に浮かれた熱は無い。
「帰って来たら、返事してくれって。」
うろうろと言葉をつぐむのは、本当は自分の心が決まっているからだ。
それを認めたくないのと、受け入れる道筋を探して、ひたすら言葉を彷徨わせているのだろう。
「アルベルト様は公明正大な方だと思いますよ」
「わかってる。でも…」
言葉を濁すキリルに、ガルゼは口の端を上げた。
やれやれ、なんて困ったさんだ。
「じゃ、お辞めになる事ですね。」
「えっ!?」
「理性とか理屈とか、人の為とか将来はとか。
そんな面倒臭い事で進めて行けないくらいなら、お辞めになる事です。」
すっぱりとね。
と、ガルゼは言って解かし終わったヘアブラシを置いた。
「キリル。自分の心に向き合いなさい。」
鏡の中のキリルは迷子の目をしていた。
そんなうろうろとした瞳。
もう10年以上も見ていない。
あの途方に暮れた山の中で暮らしたように。
様を付けずに真っ直ぐ言う。
「自分の心を許してあげなさい。
恋とは自分以外の事なぞ、これっぽっちも考えない。そんな目隠しの闇に堕ちるモノですよ。」
参列者達に大きく手を振ってから、整列した愛馬の手綱を引く。
アルベルトはルーアを抱き上げて
「俺がいない間は皆んなを頼んだぞ。」
と、声をかけ、キリルの冷たい頬に軽く口付けした。
馬が蹴立てる土埃が、遠く流れて行くのを見送る。
明け白んできた空に、名残の星が瞬く。
いつもの見送りと違い、全ての人が祈る様に叫んでいた。
城門に向かう迄は玄関で見送っていたルーアが、踵を返して走り出した。
見張りの塔への階段を駆け上がる。
つられる様に螺旋階段を刻むキリルの背中は、らしく無い焦りが張り付いている様で。
ガルゼは切なく見守った。
見張り場で、兵に抱っこされたルーアと頭を並べながら、キリルは彼方を見ている。
街はわーんと人の熱気に波の様に揺れていた。
明日からキリルの仕事は多い。
今日まではちょっとおセンチな奥方でいられる。
本当はルーアを安全な王都に送りたかった。
この地もいつ戦場にならないとも限らない。
でもそれを断ったのはルーアだ。
「送る為には護衛がいるでしょう?」
と、ルーアは考え考え答えた。
兵は一人でも必要だ。それに。
「僕はここで皆んなと頑張りたい。」それに。
「アルパパと約束したんだ。キリルママも皆んなも守るんだ」
ルーアの青空色の目も、ぎゅっと力が入っていて。
色は春の様に淡いのに、アルベルトに似ていた。
もちろんきゅん♡となったキリルは、照れて暴れるルーアを捕まえて。
ハグからの椅子抱っこからのちゅう♡がエンドレスに繰り出された。
領地の護りと救援物資。
あらゆる伝手を使って戦場の動きを探る。
明日からキリルの仕事は多い。
「好きだって言われた。」
入浴あとに髪を乾かすガルゼを、鏡の向こうで菫色が見つめている。
「はい。」
「受け入れて欲しいって言われた。」
「はい。」
キリルの目には恋に浮かれた熱は無い。
「帰って来たら、返事してくれって。」
うろうろと言葉をつぐむのは、本当は自分の心が決まっているからだ。
それを認めたくないのと、受け入れる道筋を探して、ひたすら言葉を彷徨わせているのだろう。
「アルベルト様は公明正大な方だと思いますよ」
「わかってる。でも…」
言葉を濁すキリルに、ガルゼは口の端を上げた。
やれやれ、なんて困ったさんだ。
「じゃ、お辞めになる事ですね。」
「えっ!?」
「理性とか理屈とか、人の為とか将来はとか。
そんな面倒臭い事で進めて行けないくらいなら、お辞めになる事です。」
すっぱりとね。
と、ガルゼは言って解かし終わったヘアブラシを置いた。
「キリル。自分の心に向き合いなさい。」
鏡の中のキリルは迷子の目をしていた。
そんなうろうろとした瞳。
もう10年以上も見ていない。
あの途方に暮れた山の中で暮らしたように。
様を付けずに真っ直ぐ言う。
「自分の心を許してあげなさい。
恋とは自分以外の事なぞ、これっぽっちも考えない。そんな目隠しの闇に堕ちるモノですよ。」
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