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領地の暮らし

1 満更アホでは無かった

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「執務室へご案内します」

その日、エルダスがそう言った。

黙って着いていくと一階に行く。
そして夜会用の大広間の控え室の前で立ち止まった。
アルベルトが巣にしていると、聞いたことのある部屋だ。

控え室は、夜会に疲れた方がゆっくり休む。
そしてロマンチックに盛り上がったりした時に、庭に直接出入り出来るようになっている。
つまり外から出入り自由だ。


キリルは勿論ガルゼを従えている。
アルベルトに相手が現れた時に、さっさとサイン出来るように白い結婚でいる為に、シャペロンをかねた侍従は必要だ。



エルダスが扉を開けて開けた時。
異臭が頬を叩いた。

ピクリと鼻の頭に皺が寄ったが、表情を崩さなかったのは、ガルゼに褒められると思う。
貴族の矜持というヤツかもしれない。
いや可愛い貴族のアニマなら、その匂いにギャっと叫び。口と鼻を押さえて踵を返していたと思う。

エルダスが大慌てで部屋に突っ走ると、窓もテラスへの扉も全て全開にして走り回った。
それをゆったりと待っていられたのは、キリルがガルゼに山奥で訓練させられていたからだ。

発酵の混じった腐敗臭。
そして淀んだ沼の雑多な臭い。
ソレが締め切っていた事で、生暖かく立ち昇って充満して蔓延していた。

じっと待つキリルにほっとして。
風を入れ替えたエルダスは招き入れた。



「これはっ‼︎」

ちらりと見て。
キリルは思わず駆け寄っていた。

部屋は仕切りを抜いて二つをぶち抜いていた。
その真ん中に臭いの元が鎮座している。

ドブの匂いと称される粘土質な土。
ソレがベッドよりも大きく広がっていた。

土は歪に高く、低く。
色とりどりの印を付けている。


キリルは鳥になった気がした。

城がある。
街がある。
馬車でやって来たガタガタ路も、その側の崖も。
小さな小川もそこにあった。

その粘土で盛り上げられて引き伸ばされた大きな塊は、まさしく領土を現していた。

エルダスはちらりと視線を流して。
キリルが直ぐにこのジオラマを理解したのを知った。
そしてガルゼの眉がぴくりと動いた事で、驚かせた事を悟って歓喜した。



机に立て掛けてあった先端が赤く塗られた指し棒で、その粘土の黄色い線を指す。
黄色い線は領地の境界線らしい。

隣国の兵は忍び込みました。
崩れた渓谷で視界が遮られていたここから」

そのまま動かしていく。

「この村へと。
この時、村に領主が居たのは偶然では無く。
情報が漏れていたのだと考えています」

あれ以来アルベルトはコレに心血を注いで来た。
勿論カリヴァンスは辺境で国防の要だ。
どこに穴があったのか。
もっと情報を速くして兵を送るのはどうすればいいのか。

巡回として領地を巡り。
抜け道も崖も、全てを網羅して来た。

ジオラマは砦の位置すらきちんと縮図に照らされて出来ている。
そして壁には獣道や地下水脈の地図が貼り付けられていた。

成る程。
ここは執務室。
領主の心臓となる部屋だ。

~~直ぐバックれるアホベルトから。
ちょっと評価が上がったのは言うまでも無い。


「ようやく完成致しました。
あとは伝達について考えるのみです。
これからはルーア様やキリル様と、もっとご一緒出来る時間をお取り出来ますから。」

なんか♡を飛ばして、満足げなエルダスに言いたい。

『それはいらないから』と。
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