上 下
18 / 59
城での生活

5 勝利は骨の髄まで叩き込む

しおりを挟む
キリルはぱっと手を離した。

たたらを踏んだビーチェは、その勢いでネプラの胸に飛び込む。

立派です。
腕を背中に捩じ上げられても、闘う気力が衰えて無かった事に、賞賛を禁じ得ません。

ネプラは喚くビーチェを、慣れているのか抱く様にぐっと拘束した。
赤い糸が弛みもせずに重なる。
見事に二人の赤が蝶々結びに重なる。

ちくしょう‼︎


キリルはゆっくりと片手を胸の前に当て、片足を引いて礼をした。軸がブレない美しい礼だ。

「私はファンドール公爵家から参りました、キリルと申します。」

「こ、公爵ぅ!?」

「はい。アルベルト様に是非にと請われまして」

嘘じゃないよん。
この婚姻の設定は"一目惚れ"さ。

ビーチェの怒りで真っ赤だった顔からすっと色が抜けていく。
ふうん。 伯爵家より公爵家は偉い。
そんな常識あるんだ。

「悩んでおりましたら、国王からも請われまして。ルーア様の母親になる為にやって参りました」

ルーア様の
わかるよね?
それがどういう事だか。

「もう、アルベルト様ったら、いそいそと婚姻の書類を用意されてましたのよ♡」

もう熱烈でこまっちゃうぅ♡と、まるで他意が無さそうに、小首を傾げるのは得意。
むっちゃ得意です。
ついでに天使と言われる笑顔をむける。
コレで面倒臭い奴は大概煙にまけるのさ。

「おかげでもう夫夫としてこの城の鍵も頂いておりますの。」

にっこり。
よりも、にんまり。

母親、婚姻の書類、鍵。

脳味噌に沁みるようにちょっと時間をとる。
オッケー?
ここまで了解した?
まだまだあるよ?

さあて、僕が鍵を持ってる城に、"侵入した"ってわかってくれちゃった?

あ、フルフルしてるビーチェにもう一つ毒を投げなくちゃ。

「ルーア様は前の領主のお子様。そして次期領主として承認されてアルベルト様の養子となっております。」

堂々と「叩き出した」なんて言われてもねぇ。

でも、「え?」とキョトンと飲み込めてないみたい。
持って回ったいい方だから?
ストレートに言わないとダメなのか?
ある意味面倒くさい。
考えろ!頭をつかえよっ‼︎


「次の領主はルーア様と決まっております」

分かってます?
それを叩き出して泣かしたと知ったら、ご実家は大変でしょうねぇ。
あ、それはとしての触れ合いとでも誤魔化しが出来るかしら。

でもね、私の実家(公爵家って言うんだけど)は序列にちょっとうるさくて。
あ、そう言えば。
王様も子供を虐めるひとには苛烈なタイプだったわねぇ。
あら、ちょっとどうなっちゃうのかわかんないわぁ。

てへ♡ と他意が無さそうに笑顔のまま。
そのぼんやりした脳味噌に一撃二撃と叩き込む。



つ・ま・り

「愛人としてのおねだりやあれやこれやは、城の外で本人同志でお願いしますね。
にいきなりやって来られても、城門をお開けする事は御座いません」

いちゃつくのは外。
ここにあんたの部屋は無い。
いきなり来るんじゃ無いぞ‼︎
お前らがルーアを叩いたのは、ぜってぇ忘れないからなっ!って、事です。

笑顔のまま目の奥に圧を込める。
山奥の修行の時に獲物を狩って来た殺意のある奴だ


もとより白くなっていたネプラも。
気の強さだけで、何の根拠も無かったビーチェも。

白目を剥かんばかりにガタブルしたから
「は~い!おかえりだよぉ♡」
と、従者達に荷物を運ばせた。


「こんな失礼な家。二度と来てやらないからね‼︎」

「はぁい♡了解でぇ~す‼︎」


捨て台詞を残すのは敗者のお約束。
勝ちました。
キャットファイトは勝ちました。

ふと見ると、もうスタンディングオベーション。
残った皆んなが拍手してくれてます。

うん。
あいつ、嫌われてたんだね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

女装令息と性癖を歪められた王子

白兪
BL
レーリアは公爵家の次男だが、普段は女装をしている。その理由は女装が似合っていて可愛いから。どの女の子よりも1番可愛い自信があったが、成長とともに限界を感じるようになる。そんなとき、聖女として現れたステラを見て諦めがつく。女装はやめよう、そう決意したのに周りは受け入れてくれなくて…。 ラブコメにする予定です。シリアス展開は考えてないです。頭を空っぽにして読んでくれると嬉しいです!相手役を変態にするので苦手な方は気をつけてください。

王子様から逃げられない!

白兪
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。

ギャルゲー主人公に狙われてます

白兪
BL
前世の記憶がある秋人は、ここが前世に遊んでいたギャルゲームの世界だと気づく。 自分の役割は主人公の親友ポジ ゲームファンの自分には特等席だと大喜びするが、、、

攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました

白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。 攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。 なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!? ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

狂わせたのは君なのに

白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。 完結保証 番外編あり

王太子殿下は悪役令息のいいなり

白兪
BL
「王太子殿下は公爵令息に誑かされている」 そんな噂が立ち出したのはいつからだろう。 しかし、当の王太子は噂など気にせず公爵令息を溺愛していて…!? スパダリ王太子とまったり令息が周囲の勘違いを自然と解いていきながら、甘々な日々を送る話です。 ハッピーエンドが大好きな私が気ままに書きます。最後まで応援していただけると嬉しいです。 書き終わっているので完結保証です。

処理中です...