【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら

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家族の肖像

3 本当は敵前逃亡

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「兄様っ!兄様あっ‼︎」

執務室から出た途端、アレルが飛び付いてきた。
廊下はもう父親の領土では無い。
治外法権で、言論の自由だ。

アレルの涙はぽろぽろと球になって、滑らかな頬に溢れていく。

マジ天使♡



何故?
どうして?
僕の犠牲にならないで!

そんな言葉が出る前に、キリルはぎゅっとアレルを抱き締めて高笑いをしてやった。
びっくりして目を見開くアレルのほっぺにキス一つ

「これで僕は自由になった‼︎」

罪悪感を抱かないように。
兄を追い出したという悪い噂が出てこない様に。
通り過ぎる召使いにも聞こえる様に叫ぶと、アレルを抱き上げてくるくる回った。

廊下の端で出待ちしていたそれぞれの侍従も。
父親への決済の書類を届けに来た王宮の使いも。
果ては商品を持参した商人達さえ。
あんぐりと驚いている。

キリルは侍従のガルゼに大きくウィンクして
「僕は嫁にいくからねっ♡」

聞き耳を立てていた召使い達があちこちからぎょぇぇぇっと叫んでいるのが聞こえた。

「僕は気ままに生きたかったし」
学園で恋の狩人と噂された事もある。

「家を押し付けて申し訳ないから、ディナスをあげるよ!真面目で超おすすめだよ♡」

僕は騎士を連れていくつもりは無いから。失業しちゃうから、よろしく!
明るくそう言っても、アレルの口は真一文字のままだ。


「ほら、ナルディルで山廻りしてたから、田舎は好きなんだよ。カリヴァスの領地って山だらけの辺境じゃん。
狩して野営してガンガン楽しむよ♡」



ナルディルは母様の実家の領地だ。
そこには赤い糸についての神話と廃された月の神殿があった。

『常時赤い糸が見えてたら耐えられないでしょう』と、母様が糸を見る力のコントロールをする為に連れて行ってくれた。
そこの最後の神官のガルゼに、修行してもらった。

そこは結構深い山で。
平民ですら行かないようなその山を駆け巡って
森で生き残る術とか、威圧する術とか。
果ては解体までやって、命だの気配だのと仕込まれた。

はっきり言って貴族の子息ではあり得ない訓練をした。
おかげで視野が広まって、自分が世界で一人だけだという事も、なんとかなると笑える様になったけど…


「ただ、鉄面皮の面倒を押し付けるのが、ちょっと申し訳なくてさぁ…」

"鉄面皮"はアレルとふざけて付けた父親の渾名だ。

ここでようやくアレルの頬は、ちょっと緩んだ。


「ごめんね。面倒ごとを押し付けて」

アレル。
愛してるよ、アレル。
僕はお前が幸せになってほしい。

家の為に子供を二人産んで。
義務は果たしたから。と、やっと解き放たれた母様の様に生きて欲しくない。


そして、ごめん。

きっと負い目が心の傷になるよね。

幸せになってほしいけど。
二人の赤い糸がいちゃいちゃとぷらぷらするのは正直勘弁なのさ。

だって自分はぼっちだし。
この世で一匹だけのぼっちだし。


だから"王様の望み"という綺麗事に乗っかって、新天地にとんずらさせて貰っちゃうよ。
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