9 / 59
いきなり辺境
7 なるようになりました
しおりを挟む
玄関前のスロープには、ずらりと召使い達が総出で出迎えていた。
後で知った。
アルベルトが領主になってから初めてらしい。
『伴侶候補。しかも本人が御連れなさいます』に、城内全ての人が浮かれてたらしい。
~~どんだけ。
エスコートされて、家令と執事長に挨拶される。
「鍵をお渡ししてくれ」と、アルベルト。
鍵とは城の要だ。
鍵の管理は伴侶の役割だ。
つまり、事実上の嫁宣言に、初老の家令は目をうるうるさせていた。
勿論、職業柄表情筋は動かさない。
「かしこまりました」と礼をしただけだ。
召使達も良く躾けられて、態度も表情も崩れない。
でも、"やったー♡"というウェルカム感が一気に空気中に放出された。
もちろん、領主様良かったね♡とは思っているだろうけど。人間、自分が一番ね。
確実に就職事情が解決した喜びが一番だと思う。
やべぇ、うがってるかなぁ、僕。
でも、ここで
「アルベルト様、慕われてるんだぁ♡」
と、きゅんとするほど甘く無い。
王様が推してる婚姻事案なのに。
今まで二桁が流れた事実。
そんな訳で、伴侶も後継もいなかったら、将来の不安はいかばかりか。
それが無事に解決したのだ。
もう空気は薄いピンク色にけむっている。
その熱烈歓迎の空気に、猫を被らなくても自然と笑顔が溢れる。
「じゃっ!」
どさくさに紛れて、有耶無耶に立ち去ろうとするアルベルトを鋭く静止する。
「お待ち下さい。
僕はまだ、お子様の名前もお歳も存じません。
紹介して頂けないのでしょうか。」
やべ。
逃げそびれた。
と、いいたげなアルベルト。
「あ、俺はすぐに契約書の草案を起こします!」
エルダスはうまうまと逃げていく。
「あ~~名前はルーアだ。歳は…
バスチャン、幾つだったか?」
「ルーア様は二歳と八ヶ月でございます」
「そうだ。二歳だ。幼い‼︎」
……バカベルト……
年齢把握もしとらんのかい‼︎
じっとりとした目にアルベルトが慌てる。
「い、いや。これは、その…
月の内、城に帰れるのは5日も無いのだ…
全てこのバスチャンに任せている。
今回はキリル殿の為に帰城したのだが、契約書を交わしたら直ぐに巡回に出るから…」
もごもごと言い訳してやがる。
いや、年齢を知らないのはしょうがない。
でも幼いなら保護者が必要だろうがっ!
使用人では保護者にならない。
愛してくれても、将来を見据えた一貫した世話が出来ないからな。
コイツ、さしずめ仕事人間って奴か!
仕事してればなんとかなると思ってるよね。
今回もとっととキリルを帰る方向にして、自分は領地巡回に出るつもりだった、と。
でも領主が自らウロウロするなんて非効率だよな。
ついでと言うなら付き従う兵達も、休日あんのか
仕事の効率は睡眠と心のゆとりが必要なんだぞ!
そんな事を頭の中で絶叫し、キリルはドスの効いた笑顔になった。
「後継という事は養子にするという事ですよね。
……わかりました。
ルーア様は僕がお世話致します。
契約に口出ししないという一文を付けて下さい」
「わかった‼︎すぐにエルダスに作らせる!」
見るからに、ラッキーと言いたげにアルベルトは逃げ出した。
後ろ姿すら見えなくなった。
そのあまりにも速い逃げ足に、ふぅと溜息が出る。
領地巡回に出る為に、契約書はすぐさま立案されるだろう。
面倒くさいので、飲み込めるようならとっととサインしてしまおう。
部屋で専属の従者に挨拶を受けながら、心は既にルーアに向かう。
なんと二歳。
僕が初めてアレルに会った歳と同じだ。
(弟が生まれた時ともいう)
僕が初めて赤い糸を見た時と同じだ。
そんなに幼いのに両親を亡くしたなんて…
ルーアは馬車の音がしたら隠れるそうだ。
敵襲の時、母親に隠された様に隠れるそうだ。
正門の橋を下げる音と、馬車の音で、ルーアは泣きながら逃げたらしい。
健気さにきゅんとなる。
執事長と従者に案内されて、キリルとガルゼは子供部屋に行く。
勿論そっと足音をころして。
従者達はさささと動き、黙って指差す。
部屋には生まれる時に揃えられた可愛いモビールや、ぬいぐるみ達がいる。
赤ちゃんの部屋みたいだ。
二歳のやんちゃ盛りの部屋じゃない。
そっと開けられたワードローブを覗く。
白いチェストの後ろに、服と布でこんもりしている山がある。
小動物の巣のようだ。
微笑みながら、膝をついてそ~っと覗く。
金色の中から青空色の瞳が見上げていた。
きひゅっぅぉぉぉぉつ。
キリルの心が変な声で鳴いた。
そこには天使がいた。
後で知った。
アルベルトが領主になってから初めてらしい。
『伴侶候補。しかも本人が御連れなさいます』に、城内全ての人が浮かれてたらしい。
~~どんだけ。
エスコートされて、家令と執事長に挨拶される。
「鍵をお渡ししてくれ」と、アルベルト。
鍵とは城の要だ。
鍵の管理は伴侶の役割だ。
つまり、事実上の嫁宣言に、初老の家令は目をうるうるさせていた。
勿論、職業柄表情筋は動かさない。
「かしこまりました」と礼をしただけだ。
召使達も良く躾けられて、態度も表情も崩れない。
でも、"やったー♡"というウェルカム感が一気に空気中に放出された。
もちろん、領主様良かったね♡とは思っているだろうけど。人間、自分が一番ね。
確実に就職事情が解決した喜びが一番だと思う。
やべぇ、うがってるかなぁ、僕。
でも、ここで
「アルベルト様、慕われてるんだぁ♡」
と、きゅんとするほど甘く無い。
王様が推してる婚姻事案なのに。
今まで二桁が流れた事実。
そんな訳で、伴侶も後継もいなかったら、将来の不安はいかばかりか。
それが無事に解決したのだ。
もう空気は薄いピンク色にけむっている。
その熱烈歓迎の空気に、猫を被らなくても自然と笑顔が溢れる。
「じゃっ!」
どさくさに紛れて、有耶無耶に立ち去ろうとするアルベルトを鋭く静止する。
「お待ち下さい。
僕はまだ、お子様の名前もお歳も存じません。
紹介して頂けないのでしょうか。」
やべ。
逃げそびれた。
と、いいたげなアルベルト。
「あ、俺はすぐに契約書の草案を起こします!」
エルダスはうまうまと逃げていく。
「あ~~名前はルーアだ。歳は…
バスチャン、幾つだったか?」
「ルーア様は二歳と八ヶ月でございます」
「そうだ。二歳だ。幼い‼︎」
……バカベルト……
年齢把握もしとらんのかい‼︎
じっとりとした目にアルベルトが慌てる。
「い、いや。これは、その…
月の内、城に帰れるのは5日も無いのだ…
全てこのバスチャンに任せている。
今回はキリル殿の為に帰城したのだが、契約書を交わしたら直ぐに巡回に出るから…」
もごもごと言い訳してやがる。
いや、年齢を知らないのはしょうがない。
でも幼いなら保護者が必要だろうがっ!
使用人では保護者にならない。
愛してくれても、将来を見据えた一貫した世話が出来ないからな。
コイツ、さしずめ仕事人間って奴か!
仕事してればなんとかなると思ってるよね。
今回もとっととキリルを帰る方向にして、自分は領地巡回に出るつもりだった、と。
でも領主が自らウロウロするなんて非効率だよな。
ついでと言うなら付き従う兵達も、休日あんのか
仕事の効率は睡眠と心のゆとりが必要なんだぞ!
そんな事を頭の中で絶叫し、キリルはドスの効いた笑顔になった。
「後継という事は養子にするという事ですよね。
……わかりました。
ルーア様は僕がお世話致します。
契約に口出ししないという一文を付けて下さい」
「わかった‼︎すぐにエルダスに作らせる!」
見るからに、ラッキーと言いたげにアルベルトは逃げ出した。
後ろ姿すら見えなくなった。
そのあまりにも速い逃げ足に、ふぅと溜息が出る。
領地巡回に出る為に、契約書はすぐさま立案されるだろう。
面倒くさいので、飲み込めるようならとっととサインしてしまおう。
部屋で専属の従者に挨拶を受けながら、心は既にルーアに向かう。
なんと二歳。
僕が初めてアレルに会った歳と同じだ。
(弟が生まれた時ともいう)
僕が初めて赤い糸を見た時と同じだ。
そんなに幼いのに両親を亡くしたなんて…
ルーアは馬車の音がしたら隠れるそうだ。
敵襲の時、母親に隠された様に隠れるそうだ。
正門の橋を下げる音と、馬車の音で、ルーアは泣きながら逃げたらしい。
健気さにきゅんとなる。
執事長と従者に案内されて、キリルとガルゼは子供部屋に行く。
勿論そっと足音をころして。
従者達はさささと動き、黙って指差す。
部屋には生まれる時に揃えられた可愛いモビールや、ぬいぐるみ達がいる。
赤ちゃんの部屋みたいだ。
二歳のやんちゃ盛りの部屋じゃない。
そっと開けられたワードローブを覗く。
白いチェストの後ろに、服と布でこんもりしている山がある。
小動物の巣のようだ。
微笑みながら、膝をついてそ~っと覗く。
金色の中から青空色の瞳が見上げていた。
きひゅっぅぉぉぉぉつ。
キリルの心が変な声で鳴いた。
そこには天使がいた。
437
お気に入りに追加
676
あなたにおすすめの小説

愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。


愛する人
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」
応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。
三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。
『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。


僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜
明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。
その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。
ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。
しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。
そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。
婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと?
シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。
※小説家になろうにも掲載しております。


狂わせたのは君なのに
白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。
完結保証
番外編あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる