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いきなり辺境

1 ファイティングポーズ

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「おまえを愛するつもりは無いっ‼︎」

ば、ばーんと、効果音を背負った感じでアルベルト様はドヤ顔をした。
うん。
男くさ系のイケメンのドヤ顔はかなりイイ♡


部屋の中を沈黙が流れる。

沈黙が流れる。



アルベルト様は、ふふふん♡ と、その形のいい鼻で嗤った。

「返す言葉もないのなら、とっとと帰ってはどうだ。」


あ、今は僕のターンだったのか。
まだまだ喋ると思って、黙って拝聴しちゃってた。
失敗。
失敗。


キリルはこの訪問について、せっついてきた王様からの手紙(直筆!)と、
『そんな訳で行きますから』という手紙を、ファンドール家の紋章入りの便箋と封筒と、ご丁寧に封蝋を使った。
さらにファンドール公爵家からの早馬で、有無を言わさず届けてやった。

バックに王家と公爵家を背負ったおかげで、アルベルト様は無視出来なくなったようだ。

それでも有り難がって城の門を開くわけでもなく。
領地に入った途端に案内人が待ち構えてて。
城下の一番上等とはいえ宿屋に案内した事に、侍従のガルゼは怒りを青白く燃やしていた。

「まず長旅の埃を落とす為に入浴を。
お疲れになった身体を解します。
お艶を取り戻すためにマッサージを念入りにいたしましょう。」


宿屋の部屋に押し込んだ途端にやって来たアルベルト様御一行は、ガルゼによってあっという間に追い返された。

ガルゼは小柄な中年で。
筋肉も無さそうだ。
これと言った特徴も無いその容姿は、執事の手本として教本に載っていそうだ。

ガルゼのその一歩引いた様なおとなしげな姿に、だいたい誰もが騙される。

脳の栄養が筋肉に回ってるようなカリヴァンス領の兵士達は、さすがに力量を把握できるのか笑顔の威圧にナニが縮み上がっていた。

「お帰りはこちらでございます。
お待ちになられるのでしたら、宿のロビーでお願いいたします。」

丁寧な言葉に、おずおずと出て行く。
さすが辺境のカリヴァンス家。
強者つわもの達だ。
相手の力量を察すれるのはたいしたものだ。
面倒がなくってとてもいい。


そうやって埃も疲れも流し去ったキリルは、ピカピカに磨き上げられ、ガルゼはようやく満足した。


キリルはファンドール公爵家の長子だった。
そのダークグレーというよりも鈍色な艶やかな髪は、光によって黒にも見える。
その左耳の上には白金の塊が、天使の後光のように輝いている。
このメッシュは、ファンドールの血筋に現れるものだ。

昔、神話のころ。
ファンドール家の先祖は白金の髪だった。
闇の神に懸想されたが、求愛を手酷く
断って呪いを投げつけられた。
咄嗟に顔を背けて手を翳したが、髪は呪いで黒くそまった。
手を翳したところだけが、元の白金が残ったのだ
と、噂されている。

ばっかみたい。

そして菫色の澄んだ紫の瞳と、整った顔。
キリルと弟のアレルは、王都で"天使"という小っ恥ずかしい呼び方をされていた。



まぁ、そんな天使が。
こんな馬車で一ヶ月も掛かる辺境の領地にやって来たのは。
ある日の王様のお願いのせいだった。

急転直下。

もしくは寝耳に水。

王様による『婚姻』というお願い。
~~断れる奴がいたら見てみたい‼︎

そんな訳で今まで見たことも聞いたこともなかったこんな辺境にきたわけで。

…ずっと続く馬車の振動で、腰も尻もじんじん無感覚の鈍痛だ。
気力が0にちかいこの時に、このまま初顔合わせしたら負けが確実だと内心焦っていた時に。
(初顔合わせはまずマウント取りが大事だ)
ガルゼのおかげでようやくファイティングポーズが取れる様になった。



そうして御一行様とお会いした時に。


アルベルト様が挨拶もそこそこに、まずかまして来たというわけだ。
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