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学園生活

11 シグルド

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とうもろこし畑の中で声をかけたら、新芽の様な目に真っ直ぐ見返された。
自分で切ったのだろう眉の上に一直線の髪は赤銅色で、明るい緑の目の周りにもまつ毛が囲んでいる。
そして何より、そばかす。
日焼けしてのそばかす。
こんな見事なそばかすは、庭師の下働きでしか見たことない。
でもそれが、まるで養分をたっぷり貰って陽にたっぷりあたった艶々な果実のようだった。
ぱつんとしたトマトやきゅうりのように、シャグッと歯をたてたら美味いだろうなと思った自分に愕然とした。

こんな色黒は貴族社会では騎士でしか見たことがない。
あわあわと話すルイン君に、可愛いという感情が湧いてきた。
向こうにいるカラドが呆れた目で見ているが、目が離せなかった。

くるくると表情を変えて作業着で走り回る。両サイドの三つ編みが威嚇するザリガニの尻尾のようにぼわばわして、それがぴょんぴょん跳ねている。
はい!と元気に返事するのも可愛い。

あ、アルヴィン辺境伯との縁組なら何の根回しもいらないなぁ。
ぼんやりそう思って、自分が一番驚いた。

その驚きが何だったのかはっきりわかったのはあの日だ。


ルイン君に風の動かし方を教えていた。
風を幕にするのは、慣れていないと厚くて外の音や気配を消してしまう。
園芸部の表の畑で勝手に収穫している者がいるのに気が付いたのは、風を止めて奴等の笑い声が流れたからだ。

「すごいじゃん。の作るトマト」
「うん。コレなら良い値で売れるね」

喋り方から平民だった。
まぁ貴族は野菜泥棒などしないが。

じゃがいもはルイン君を揶揄する言葉だ。カラドが調べてくれた。
あの仮入部耐久レースの5日目に芋掘りをした。5日まで粘った根性のある令息は土と一緒にイモムシをぶちまけて、ぎょぇぇぇと叫んで逃げ帰った。
「土から出て来たじゃがいも見たいな顔しちゃってさぁ」と一人入部したルイン君を腐したようだった。
以来ルイン君の悪口はじゃがいもになっているという。
言っとくが私はじゃがいもは好きだ。


彼等は笑いながら色黒のじゃがいもの話をした。
高い背丈の野菜の向こうから声が続く
ルイン君の気持ちを慮って止めようと踏み出した時

「でも可愛いよな」と誰かが言った

「だよな。色白の中で浮いてるけど可愛いよな。」

「ちょろちょろ走り回ると三つ編みの尻尾が揺れるのって、すっごくグッとくるよな。」

「わかるぅ。あの三つ編み、解くと赤い滝みたいでスッゲエんだぜ」

「そうそう、白い背中に流れるとゾクっとしちゃうよな」

え?
背中?
シグルドは動きを止めた。

「はぁ?じゃがいもは色黒だろっ⁉︎」

「いや、出てないトコは白いんだぜ。
おまえ見たこと無かったっけ?」

「ナニ?」

「寮に入ったばっかの時。共同浴場で見たんだけどさぁ。もう背中も尻もミルクみたいでさぁ、エロって思った」

息を呑んだのはルインだった。

「解いた髪が波打っててさぁ。なんかオレ達と違うなぁと思った」

「そうそう。慌てて磨かれたオレ達と違って、しっとりツルツルの白い肌なんだぜ。貴族スゲーってマジ思った」

「男でも嫁に出来るって言われてもゲロゲロじゃん。でもオレ、あれならデキるって思ったよ」


シグルドはちらりとルインを見た。
下を向いている。
髪の間から覗くうなじは濃い桃色に染まっている。
……そういえば日に焼けた顔も手もみている。でも隠されたうなじも背中も見たことは無かった。

自分より先に髪を解いた姿を見た
自分より先に白い肢体を見た

アイツら…

息苦しい程の怒りが湧き上がる。



ルインの目がちらりと上目使いで見上げて、目が合うと慌てて下を向いた
真っ赤だ。耳も喉元も真っ赤だ。
どうしよう、可愛い。
……ああ、好きだ。

その耳元に唇を寄せる。

「もう共同浴場はダメだよ」

ルインはびくりと見上げて目をぱちくりとまばたきした。
半開きの唇がにゅっと動いてきゅっと窄まる。
トマトのように赤くなったまま、こくこくとうなずいた。
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