恋するじゃがいもと、先輩とボケナス

たまとら

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プロローグ

2 先輩

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ルインがシグルド先輩と会ったのは、とうもろこし畑の中だった。
自分の背より高いとうもろこしの壁の中で途方に暮れていたら現れたのだ。

とうもろこしの緑を背に陽を受けるシグルド先輩は、その黄金色の髪がとうもろこしの髭より眩くて、無茶苦茶存在感があった。

「こんな所に何の用かな?」

先輩は完璧な笑顔のまま尋ねた。
その青空の目は、嘘は一つも許しませんでと言っている。

デジャヴだ。
ルインはふと我に返った。

コレは去年野菜泥棒を取り囲んだ時に、ケニーおじさんが言ったセリフと目つきがまんま同じだ。
つまり僕は今、野菜泥棒の現行犯としてしょっ引かれる瀬戸際って事だ。


ルインは昨日、田舎の領地から王都にやって来た。
ローラレイト王立学園に入学するためだ。荷馬車と定期馬車を乗り継いで到着すると、とっとと寮の手続きをした。
寮のコンパクトな部屋に荷物をつめると、途端に暇になった。
なんせ右も左も分からない田舎者だ。
知ってる顔も無いし、人を誘うノウハウも無い。
とにかく手持ち無沙汰にヘキヘキした。

そんな訳で朝っぱらから学園の敷地をぶらついていたら見つけたのだ。
朝露に煌めくトマト達を。
それも出荷できそうにご立派で美味しそうなトマトを。

ふらふら近づいたらそこは畑だった。
ちゃんと支柱を立てたトマトに感心して、ああそこに茄子がある。あそこはオクラだぞ。と歩いていたら、定置網の様に奥へ奥へと誘い込まれてやがてとうもろこしに行き着いた。
360°とうもろこし畑という牧歌満載の真ん中で、ああ実家みたいだなぁとらしくも無いおセンチな気分でいたら、シグルド先輩が現れたのだ。

「すいません!トマトが立派だったから」

とうもろこしの真ん中でトマトを叫んで頭を下げる。


シグルドはルインの足跡が畝間だけを通っているのをさりげなくチェックした。
そして何より日に焼けてそばかすだらけの顔を見て、ああなるほどと笑った。

「ごめんね、最近荒らされる事があったから」

シグルド先輩の目は今度は優しい笑顔で細められた。


田舎から一人で馬車を乗り継いだ。
手続きも一人でした。
そんな緊張続きだったルインの心は田舎の空の様な先輩の目をみて、どっきん♡と不正脈が打ち付けた。
何度もどっきん♡どっきん♡と打ち付ける。
毛根がひうっと逆立って、両脇の三つ編みがびったんと跳ね上がった。


決してシグルド先輩がグッドルッキングなパーフェクト王子様風だったからでは無い。
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