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結局、田舎で我に帰る

46 駆けつける。

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赤い。

筋を描いて、血が空中に流れていく。

はじめは一方向へ。
次に重吹くように噴き上がり、視界を赤く染めた。

銀糸の髪にぽつぽつと赤い斑らが降り注ぐ。

ルツは自分が叫んでいるのと。
自分を捕まえていた手を大きく振り払ったのだけを覚えていた。


石畳の床が。ずん。と地鳴りの音で揺れる。
土壁がぼすぼすと弾けていった。
石畳の隙間から、小さな緑が立ち上がった。

「じいサマっ!じいサマぁっ‼︎」

空中を泳ぐ様にもがいたルツが、転がったザナに駆け寄ると。
ルツとザナと村長を守る様に、無数の緑の槍が襖となって伸びて来た。

その木によって持ち上げられた石が弾かれて、ぐわりと放物線を描いて男達を狙う。
青褪めて腰を抜かす役人とは違って、シュベツはその手からナイフを奪い取った。

視界を葉が隠す。
邪魔な木が立ち塞がって見えない。
でもあの小僧の泣き声と、木漏れ日となった回復魔法の光が、どの方向にいるのかを教えてくれる。

逃がさない。
人にやるくらいなら殺してやる。
ズタズタに切り刻んでやる。

シュベツは枝をばきりと踏み折って、隠れた奴等を探した。

伸びた木によって屋根が弾け飛んだ。
おかげで直接日光が降り注ぐ。
家の跡は既に森だ。

手で枝を払うと、まだ柔らかい木々の中で空間が現れた。
そこには倒れた二人と、それに回復を施すルツが見える。
日差しがその姿に、守る様に降り注いでいる。

獲物を見つけて、木々の間に無理矢理体を捩じ込んだ。
バキバキと枝が邪魔をして、あちこちに切り傷が出来る。
服の裾を掴み取る様な枝を叩き折りながら、シュベツはその広場に這い出した。


陽に当たって銀糸がキラキラと輝いている。
エメラルドグリーンのその目が、絶望を映してこっちを見上げていた。

たとえ回復を掛けても、血を流しすぎた村長も死にかけたザナも動けない。
絶望に怯えながら、そんな二人を庇うようにルツは前で立ち塞がった。

ああ、小僧は天使にみえる。

その天使を蹂躙する。
ザナの目の前で蹂躙する。
その昂ぶりでシュベツはほとんど達しかかった。
考えただけでいきそうだ。
絶望で震える顔が愛おしくて、愛おしくてたまらない。



「ルツッ‼︎伏せろぉ!」


慣れた声が耳を打って。
ルツは反射的に二人を抱えて地面に伏せた。


ごぶっごぶっごぶっ!

ぎぎぎぎぎ…

頭の上を何かが通っていく。
ばらけた木屑が、背中にも頭にも降り注ぎぱちぱちと弾けていく。

ルツは耐えた。
頭の上をガガガと音が通っていく。
ぎゅっと二人を抱きしめて耐えた。

ぐげっ。と声が聞こえたが。
必死で下を向いて伏せたまま。


やがて音が通り過ぎた時。
真っ白く見えるほどに光が当たる。
肌に暖かく当たって注意を促してくる。
その眩しさに何度か瞬きをして、視線を上げた。

目の前に、ナイフを持っている男の身体がある。
首から上が無い。

その高さで隣の木も、周りの木も切り取られている。
まるで丸い空間のように。
何かがその高さで木々を切り離して、ぽっかりと青空が見えた。

ほへっと顔を上げる。

男の首から上のものは何一つ残っていない。
何かが一気に通り過ぎたのがわかった。


「ルツ!」

懐かしい声が自分を探して読んでいる。

「どこだっ?」

助かった…

安堵と脱力がふるふると湧いてくる。
返事をしようとしたが、喉は震えて声にならない…

ルツは二人を見た。
二人は目元を綻ばせて顎をしゃくる。
うん。
呼ばれてるんだ。

ルツはにっこり笑うと立ち上がった。




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