36 / 48
結果オーライで帳尻が合う
36 意地っ張り同士
しおりを挟む
「…あ、あの…」
馬車の中で何度か声を掛けようとして、冷たい拒絶に玉砕する。
取り憑く間もない雰囲氣で。
ラッシュはぐっと前を見て、視線を揺らす事も無かった。
学園の馬車溜まりに着いた時も。
ラッシュは声も掛けずにさっさと降りた。
着いてくるのが当たり前だと思う思ってる…
ルツは早くケーナに行きたかった。
でもそれを言い出せる状況じゃ無い事をわかっている。
ポケットの中の金貨が溶岩の様に熱くて。
存在を主張するこの金貨を、どうやって返済していけばいいのか見当もつかない。
ラッシュは基本、横柄で俺様だったが、こんなに怒っているのは初めてで。
どうしていいのかわからなかった。
しおしおと後に付いていく。
とりあえずお礼を言って。
返済の話をして。
それからケーナに向かおう。
~~そう決意はしているけれど。
ラッシュが怖くて足取りが重い。
遅れがちなルツに、振り向くと。
その手首を掴んでラッシュはずんずんと歩いた。
「…あ、あの…」
言い出しかねる言葉が、ただの音となって唇を動かす。
それは出ては消える泡の様に、単語になってはいかない。
「…なんで俺に言わなかった。」
その、低い。地を這うような呟きに、なかなか意味を理解出来なかった。
「なんで俺を頼らなかったんだ。」
「…え?」
「ここでの主は俺だぞ。何故俺に聞かない?」
そう言われて唇を噛んだ。
だって、助けてくれるなんて思ってもいなかった。
それが表向き。
でも本当は。
主という立場を踏んでても、言いたい事の言える同等な立場だと思ってた。
頼る事でソレが崩れて。
言いたい事も言えない関係になるのが嫌だった…
でもラッシュの横顔は、怒っているというよりも苦しそうで。
…今まで考えた事も無かったけど。
自分はラッシュを傷つけたのかもしれない。
ラッシュは深く、深く傷ついてるようだ。
ルツは申し訳ないという自責が一杯に溢れてきた。
寮に着いて。
習慣でさっと立ち回ってドアを開ける。
無言でラッシュが入る。
自分も入って、ラッシュの背中に向かって真っ直ぐ頭を下げた。
「すいません。」
「あのまま店に連れ込まれたら。
どうなってたかわかってるのか⁉︎」
部屋というテリトリーに帰り着いたからか。
ラッシュの声に再び怒りが戻ってきた。
天秤の針がぐらぐら揺れるように。
やるせなさと怒りの間をぐらぐら揺れている。
ルツはそんなラッシュに黙って頭を下げていた。
ーー本当に。
感謝と申し訳なさが入り混じってた。
ごめんね、と思ってた。
ありがとう、って思ってた。
「アメデオが村に何かあったんだと俺を探した。
だいたい、お前みたいなちょろい田舎者があんな店にいったら、あっという間に奥に連れ込まれてやられてちまうんだぞ。」
でもね。
ちょろい田舎者って、ないんじゃないっ⁉︎
かっと火が付いた。
「もうっ!わかってるよ、それくらい‼︎
でもソレくらいでお金が手に入るならいいって思ってんだよっ!」
「はあっ?お前、金の為にあの糸目とか知らない奴にヤられてもよかったのかっ⁉︎」
「そうだよっ!自分を売ろうと思って行ったんだよ‼︎あんたみたいな金持ちにはわかんないよっ‼︎」
ラッシュの紫紺の目が大きく見開かれた。
言い捨てたルツと、ラッシュの目がかっちり合う。
ラッシュの目がただただじっとルツを見ている。
ルツは正直、やべっ。と、思った。
つい我を張った。
『売り言葉に買い言葉』って奴だ。
~~本当はごめんね。僕が悪かった。って言おうとしていた、のに。
居心地の悪さにルツは目を伏せた。
"ありがとう"ソレが喉の奥に閊えている。
その言葉を絞り出そうと目を上げた時。
ルツの頭はラッシュに捕まっていた。
頬というより両側を挟んだ手は、片側がするりと後ろに移動した。
同時にラッシュの顔が寄せられる。
「えっ? …んんっ…」
唇が重なった。
ルツは固まった。
どうしようと思った。
これはナニ?
おもったけど何も出来ない。
人の唇って柔らかいんだ。
ちゅっと啄む音がする。
泣きそうだ。
なんでキスされてるんだ。
強引に唇を割って舌が入ってきた。
ルツは身体をひこうとしたけれどぴくりともしない。
ラッシュの舌が温い。
クチュという音がルツの中で響いた。
逃げたくても逃げれない。
舌に絡んだ舌が動いた。
ルツの身体に震えが走る。
「ん、ぅん、んん…」
籠った声しか出ない。
ラッシュの指が、シャツと隙間から立った乳首をゆるゆると扱く。
擦れて感じたものが身体中に広がった。
奥の方からじわじわと熱が滲んでくる。
それと同時に涙が溢れた。
ラッシュの舌が退いてルツの口が自由になった。
ルツは息を継いだ。
苦しい。
「俺は金貨10枚でお前を買った。
その分をこれで払ってもらう。」
ラッシュの紫紺の目は、氷の様に冷たく光っていた。
「誰でもよかったのなら、俺が買ってやる。
わかったな。」
馬車の中で何度か声を掛けようとして、冷たい拒絶に玉砕する。
取り憑く間もない雰囲氣で。
ラッシュはぐっと前を見て、視線を揺らす事も無かった。
学園の馬車溜まりに着いた時も。
ラッシュは声も掛けずにさっさと降りた。
着いてくるのが当たり前だと思う思ってる…
ルツは早くケーナに行きたかった。
でもそれを言い出せる状況じゃ無い事をわかっている。
ポケットの中の金貨が溶岩の様に熱くて。
存在を主張するこの金貨を、どうやって返済していけばいいのか見当もつかない。
ラッシュは基本、横柄で俺様だったが、こんなに怒っているのは初めてで。
どうしていいのかわからなかった。
しおしおと後に付いていく。
とりあえずお礼を言って。
返済の話をして。
それからケーナに向かおう。
~~そう決意はしているけれど。
ラッシュが怖くて足取りが重い。
遅れがちなルツに、振り向くと。
その手首を掴んでラッシュはずんずんと歩いた。
「…あ、あの…」
言い出しかねる言葉が、ただの音となって唇を動かす。
それは出ては消える泡の様に、単語になってはいかない。
「…なんで俺に言わなかった。」
その、低い。地を這うような呟きに、なかなか意味を理解出来なかった。
「なんで俺を頼らなかったんだ。」
「…え?」
「ここでの主は俺だぞ。何故俺に聞かない?」
そう言われて唇を噛んだ。
だって、助けてくれるなんて思ってもいなかった。
それが表向き。
でも本当は。
主という立場を踏んでても、言いたい事の言える同等な立場だと思ってた。
頼る事でソレが崩れて。
言いたい事も言えない関係になるのが嫌だった…
でもラッシュの横顔は、怒っているというよりも苦しそうで。
…今まで考えた事も無かったけど。
自分はラッシュを傷つけたのかもしれない。
ラッシュは深く、深く傷ついてるようだ。
ルツは申し訳ないという自責が一杯に溢れてきた。
寮に着いて。
習慣でさっと立ち回ってドアを開ける。
無言でラッシュが入る。
自分も入って、ラッシュの背中に向かって真っ直ぐ頭を下げた。
「すいません。」
「あのまま店に連れ込まれたら。
どうなってたかわかってるのか⁉︎」
部屋というテリトリーに帰り着いたからか。
ラッシュの声に再び怒りが戻ってきた。
天秤の針がぐらぐら揺れるように。
やるせなさと怒りの間をぐらぐら揺れている。
ルツはそんなラッシュに黙って頭を下げていた。
ーー本当に。
感謝と申し訳なさが入り混じってた。
ごめんね、と思ってた。
ありがとう、って思ってた。
「アメデオが村に何かあったんだと俺を探した。
だいたい、お前みたいなちょろい田舎者があんな店にいったら、あっという間に奥に連れ込まれてやられてちまうんだぞ。」
でもね。
ちょろい田舎者って、ないんじゃないっ⁉︎
かっと火が付いた。
「もうっ!わかってるよ、それくらい‼︎
でもソレくらいでお金が手に入るならいいって思ってんだよっ!」
「はあっ?お前、金の為にあの糸目とか知らない奴にヤられてもよかったのかっ⁉︎」
「そうだよっ!自分を売ろうと思って行ったんだよ‼︎あんたみたいな金持ちにはわかんないよっ‼︎」
ラッシュの紫紺の目が大きく見開かれた。
言い捨てたルツと、ラッシュの目がかっちり合う。
ラッシュの目がただただじっとルツを見ている。
ルツは正直、やべっ。と、思った。
つい我を張った。
『売り言葉に買い言葉』って奴だ。
~~本当はごめんね。僕が悪かった。って言おうとしていた、のに。
居心地の悪さにルツは目を伏せた。
"ありがとう"ソレが喉の奥に閊えている。
その言葉を絞り出そうと目を上げた時。
ルツの頭はラッシュに捕まっていた。
頬というより両側を挟んだ手は、片側がするりと後ろに移動した。
同時にラッシュの顔が寄せられる。
「えっ? …んんっ…」
唇が重なった。
ルツは固まった。
どうしようと思った。
これはナニ?
おもったけど何も出来ない。
人の唇って柔らかいんだ。
ちゅっと啄む音がする。
泣きそうだ。
なんでキスされてるんだ。
強引に唇を割って舌が入ってきた。
ルツは身体をひこうとしたけれどぴくりともしない。
ラッシュの舌が温い。
クチュという音がルツの中で響いた。
逃げたくても逃げれない。
舌に絡んだ舌が動いた。
ルツの身体に震えが走る。
「ん、ぅん、んん…」
籠った声しか出ない。
ラッシュの指が、シャツと隙間から立った乳首をゆるゆると扱く。
擦れて感じたものが身体中に広がった。
奥の方からじわじわと熱が滲んでくる。
それと同時に涙が溢れた。
ラッシュの舌が退いてルツの口が自由になった。
ルツは息を継いだ。
苦しい。
「俺は金貨10枚でお前を買った。
その分をこれで払ってもらう。」
ラッシュの紫紺の目は、氷の様に冷たく光っていた。
「誰でもよかったのなら、俺が買ってやる。
わかったな。」
10
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?
王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
君と秘密の部屋
325号室の住人
BL
☆全3話 完結致しました。
「いつから知っていたの?」
今、廊下の突き当りにある第3書庫準備室で僕を壁ドンしてる1歳年上の先輩は、乙女ゲームの攻略対象者の1人だ。
対して僕はただのモブ。
この世界があのゲームの舞台であると知ってしまった僕は、この第3書庫準備室の片隅でこっそりと2次創作のBLを書いていた。
それが、この目の前の人に、主人公のモデルが彼であるとバレてしまったのだ。
筆頭攻略対象者第2王子✕モブヲタ腐男子
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる