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結果オーライで帳尻が合う

36 意地っ張り同士

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「…あ、あの…」

馬車の中で何度か声を掛けようとして、冷たい拒絶に玉砕する。
取り憑く間もない雰囲氣で。
ラッシュはぐっと前を見て、視線を揺らす事も無かった。

学園の馬車溜まりに着いた時も。
ラッシュは声も掛けずにさっさと降りた。
着いてくるのが当たり前だと思う思ってる…

ルツは早くケーナに行きたかった。
でもそれを言い出せる状況じゃ無い事をわかっている。

ポケットの中の金貨が溶岩の様に熱くて。
存在を主張するこの金貨を、どうやって返済していけばいいのか見当もつかない。

ラッシュは基本、横柄で俺様だったが、こんなに怒っているのは初めてで。
どうしていいのかわからなかった。

しおしおと後に付いていく。

とりあえずお礼を言って。
返済の話をして。
それからケーナに向かおう。
~~そう決意はしているけれど。
ラッシュが怖くて足取りが重い。

遅れがちなルツに、振り向くと。
その手首を掴んでラッシュはずんずんと歩いた。

「…あ、あの…」

言い出しかねる言葉が、ただの音となって唇を動かす。
それは出ては消える泡の様に、単語になってはいかない。



「…なんで俺に言わなかった。」

その、低い。地を這うような呟きに、なかなか意味を理解出来なかった。

「なんで俺を頼らなかったんだ。」

「…え?」

「ここでの主は俺だぞ。何故俺に聞かない?」

そう言われて唇を噛んだ。

だって、助けてくれるなんて思ってもいなかった。
それが表向き。
でも本当は。
主という立場を踏んでても、言いたい事の言える同等な立場だと思ってた。
頼る事でソレが崩れて。
言いたい事も言えない関係になるのが嫌だった…

でもラッシュの横顔は、怒っているというよりも苦しそうで。
…今まで考えた事も無かったけど。
自分はラッシュを傷つけたのかもしれない。
ラッシュは深く、深く傷ついてるようだ。
ルツは申し訳ないという自責が一杯に溢れてきた。


寮に着いて。

習慣でさっと立ち回ってドアを開ける。
無言でラッシュが入る。
自分も入って、ラッシュの背中に向かって真っ直ぐ頭を下げた。

「すいません。」


「あのまま店に連れ込まれたら。
どうなってたかわかってるのか⁉︎」

部屋というテリトリーに帰り着いたからか。
ラッシュの声に再び怒りが戻ってきた。
天秤の針がぐらぐら揺れるように。
やるせなさと怒りの間をぐらぐら揺れている。

ルツはそんなラッシュに黙って頭を下げていた。


ーー本当に。
感謝と申し訳なさが入り混じってた。
ごめんね、と思ってた。
ありがとう、って思ってた。


「アメデオが村に何かあったんだと俺を探した。
だいたい、お前みたいながあんな店にいったら、あっという間に奥に連れ込まれてやられてちまうんだぞ。」


でもね。

って、ないんじゃないっ⁉︎
かっと火が付いた。

「もうっ!わかってるよ、それくらい‼︎
でもソレくらいでお金が手に入るならいいって思ってんだよっ!」

「はあっ?お前、金の為にあの糸目とか知らない奴にヤられてもよかったのかっ⁉︎」

「そうだよっ!自分を売ろうと思って行ったんだよ‼︎あんたみたいな金持ちにはわかんないよっ‼︎」

ラッシュの紫紺の目が大きく見開かれた。
言い捨てたルツと、ラッシュの目がかっちり合う。
ラッシュの目がただただじっとルツを見ている。

ルツは正直、やべっ。と、思った。
つい我を張った。
『売り言葉に買い言葉』って奴だ。
~~本当はごめんね。僕が悪かった。って言おうとしていた、のに。

居心地の悪さにルツは目を伏せた。
"ありがとう"ソレが喉の奥に閊えている。
その言葉を絞り出そうと目を上げた時。
ルツの頭はラッシュに捕まっていた。

頬というより両側を挟んだ手は、片側がするりと後ろに移動した。
同時にラッシュの顔が寄せられる。


「えっ? …んんっ…」

唇が重なった。
ルツは固まった。
どうしようと思った。

これはナニ?

おもったけど何も出来ない。

人の唇って柔らかいんだ。

ちゅっと啄む音がする。

泣きそうだ。

なんでキスされてるんだ。

強引に唇を割って舌が入ってきた。
ルツは身体をひこうとしたけれどぴくりともしない。

ラッシュの舌が温い。
クチュという音がルツの中で響いた。

逃げたくても逃げれない。

舌に絡んだ舌が動いた。
ルツの身体に震えが走る。

「ん、ぅん、んん…」

籠った声しか出ない。

ラッシュの指が、シャツと隙間から立った乳首をゆるゆると扱く。
擦れて感じたものが身体中に広がった。
奥の方からじわじわと熱が滲んでくる。
それと同時に涙が溢れた。

ラッシュの舌が退いてルツの口が自由になった。
ルツは息を継いだ。

苦しい。


「俺は金貨10枚でお前を買った。
その分をこれで払ってもらう。」

ラッシュの紫紺の目は、氷の様に冷たく光っていた。

「誰でもよかったのなら、俺が買ってやる。
わかったな。」

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