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過疎地は牧歌的では無い

29 行商人 シュベツ

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僅かな利の為に、ガタガタと馬車を駆って村を廻る。
村はあちこちに点在しているので、時間がかかる。
雨なんか降りやがったら、最悪だ。

てめぇらの為にこんなに苦労してやってるのによぉ。と、思うと。
倍の値段を付けてもまだ足りない。

この鈍重で薄汚い奴らに商品を売り付ける。
そして次の村にまわる。

こいつらはウスノロで、この俺様に来てもらえる事を喜んでいる。
どうせ塩だの布だのと、しけたものを買っていくしみったれた奴らだ。


次はケーナだと思うと眠気が醒めた。
馬をおとなしくする為に、飼葉に黒糖を与えて。
音がしないように注意して近づく…

考えたら行商人の訪れを広める為に、馬にも馬車にも鈴を付けていた。
おかげで村の入り口で待ち構えられてしまった。



ザナは森人だ。
小さくて干し椎茸の様にカサカサで。
全く魅力が無い。

干からびたような老人で、
『森人と言っても先祖なので、もう薄まっとります』
と、ヘコヘコ卑屈に頭をさげる。

……騙されるものか。

ザナは魔女だ。
ザナの薬を遠くの街で鑑定した。
"純粋な森人が作った物"と、出た。

やっぱり。な。



俺は貴族の三男だった。
幼い時、避暑地にいく途中にケーナを通った。
小便にと森に入った俺は、そこでザナを見た。


確かに誰も居なかったのに。
人影が森から湧いて出た。
銀の髪を煌めかせて、新緑の目をした。
凄く、凄く美しい男だった。

少し尖った耳が、絵本に出てくる"森人"だとわかった。
俺は直ぐに木の影に隠れた。
彼は引き締まって、スラリとした体の美しい男だった。
その、絵本より綺麗な姿にぽおっとなった俺は。
彼が森の外からの呼び声に、老人に変わったのに仰天した。

「ザナ様。熱冷ましの草は見つかりましたかい」

野太い声が森の向こうから聞こえて、老人になったその森人が、

「あいよ。たっぷり採れましたわい。」

と、声を返すのを聞いた。
俺はこの事を誰にも話さなかった。
でも"ザナ"という名前だけは覚えていた。



俺は楽しい事が好きだ。
街の外れの賭博場や酒場が大好きで、肩っ苦しい学園や作法が大嫌いだった。
ケチな親は、たかだか俺の遊び金も惜しんで俺を除籍しやがった。
兄達も、孕んだ平民が押しかけただの。
奴隷で売っぱらった奴の家族が押し掛けて来ただのと煩く言ってたが。
まぁ、除籍されたのなら知ったこっちゃ無い。

げんきんなもので。
俺に擦り寄っていた者もいなくなり。
どうしようか、と考えた時。

そうだ。
ひとつ所に居て恨みのある奴に見つかるより。
あちこち彷徨う行商人になろう‼︎
と、考えた。


そしてケーナ村に行った時。
俺は驚いた。


ザナがいた。
あの時見た、老人そのままのザナがいた。

考えたら森人は長寿だ。
300を超えても若いという噂がある。
~~って事は。
あのザナの中身はあの美青年ってことだ。

あいつを売ればとんでもない金になる。
森人を奴隷にしたい貴族は山の様にいる。

孫はぼんやりと黄色い地味な子供だった。
こんなガキ要らないな。
そう思ったが。
ザナも見てくれを誤魔化しているから、このガキも…

それに森人の血は若返りの薬になる。と聞いた事がある。
なら、このガキも一緒に。

と、思っていたら姿が見えなくなった。

「薬師になる為に王都の学園に行きました」

と、きたもんだ。

薬師なんぞになられたら。
この村に手が出せなくなる。

ザナを借金奴隷にする為に商品を高く買わせたり
買い上げる薬草や素材を買い叩いたりしている
あんな貧しい村なのに。
それでもきちんと金を払ってくる。

だから徴税役人と仲良くなった。
なに、簡単だ。
賭博場にいた奴に、金を回してやっただけだ。
どうせ馬鹿な村から搾り取った金だ。
せいぜい楽しく使ってやるさ。

こうしてじわじわと追い詰めて。
ザナが村の為に奴隷になると言い出すように追い詰める。

森人のおかしな魔力を縛る首輪を裏で頼んでいる。
早くソレが届けば良い。
そしたらザナを捕まえて。
本来の姿にもどすんだ。
飽きる程に愉しんでから、売っぱらってやる。
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