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過疎地は牧歌的では無い

26 行商人のプライド

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ちゃっちゃっと片手で使える小鎌もいい。
狭い場所や繊細な薬草を上手く刈り取れる。

でも、握りのついた刃渡り40㎝以上の大鎌は
両手で持って、立った姿勢で広い範囲を払い刈りできるのだ。
村の腰の痛い御老体でも、牧草なんかをザックザクだ。
それに、ちょっと死神みたいでビジュアル的にもカッコいいのだ!

そう解説するルツに。
アメデオは言葉を無くした。
遠慮会釈も無く、奔流のように自分の知らない知識が流れ込んでくる。
当たり前だが、貴族に"鎌"の知識なぞない。


「行商人が持ってくるんだけど。大鎌は高級品だから金貨3枚はするし。小鎌も小金貨一枚はするんだよねー 手がでなくってさ」

「うん。予算があるから、安請け合いは出来かねるけどね。」

その値段を聞いて、アメデオは困ったように笑った。いや、予算はそんなに無いと思う…

とりあえず。調べてみるよ。と答えた。



自分の知識の欠けた部分が満たされていく。
自分の興味が満たされていく。
自分の知識の中に、農業系が増える…,。
その事にワクワクして。
アメデオは直ぐに家の家令に連絡した。


~~その結果。

王都では大鎌は小金貨一枚。
小鎌に至っては小銀貨一枚で売っていた。

その報告を聞いた時。
『レプリカじゃ無くて実用だろうなっ⁉︎』
と、叫んだほどに値段が違う。

ルツに告げると
「まぁ、僻地だから?」
と、答えた。

……いくら僻地で運送費が掛かるとはいえ。
コレは無いだろう‼︎
そう思ったアメデオはオベリオ商会にアポを取った

オベリオ商会は王国をまるで網の目のように網羅して、行商人を派遣している商会だ。
その会長は、かつて自分が身一つで行商していたことのあるごっつい老人で。
宰相というバックを出さずに出した面会要請に、嫌な顔一つせずに歓迎してくれた。

オベリオ商会の本店は、それとわからないくらいに小さな店だった。
その応接間に案内されたアメデオは、自分の護衛を廊下に立たせて、ソファに座った。


オベリオ老は"過疎地で僻地"というルツの村がケーナだと言うと直ぐにどこの領地が理解した。
ツーと言えばカーである!
そして帳簿を持って来させると、直ぐに開いて説明をする。

「ケーナは遠いので季節ごと。せやねぇ三ヶ月に一度の頻度でウチのものが行ってまさぁ。」

鎌でっか?
なんせ荷物は馬車一つに詰めるもんやさかい
運送費もあって高くなりまさぁ。
なんせ僻地やさかい。
大鎌は金貨一枚。
小鎌は銀貨一枚。
うん。せやから、あんまり売れませんわ。


話の齟齬に、アメデオはぴくりと眉を上げた

「あん村は、何の特産もあらしませんし。
細々と野菜と。魔獣の毛皮と素材くらいかなぁ。
まぁ、カツカツに生きてる寒村ですわなぁ。」

そう言うオベリオ老に。
ルツから貰った特産というアンティーカを乾燥させた小瓶を見せた。
そして"森人"が魔女として薬を作っている話をした


オベリオ老の老人らしいふさふさの眉が、ぴくりと持ち上がった。
森人は絶滅危惧種だ。
それが魔女として薬を作っている。
その意味は商人なら誰もがわかる事だ。

老の雰囲気が剣呑なモノに変わった。
商人にとってコケにされる。面子を潰される。
それは命よりも大事な事だ。

「……ちょっと調べさせてもろぅてええですか?」


ぎらりと光を弾くオベリオ老の目は怖かった。
行商人は時に原野を彷徨い、盗賊達とも戦う。
オベリオ老は長くそうやって生きてきた。
硬派でハードな老人な訳で。

アメデオなど、ぬるくてちょろいお坊ちゃんにしか見えないだろう。
でもアメデオの心臓も、ちょっとなかなかなものだった。


「頭の黒い鼠は、一匹だけとは限らないですよね。領地に帰られるヘルシュベル伯に荷物をお願いしようと思ってますが。
~ちょっとゆすってみてもいいでしょうか、ね?」

互いの目が探るように見合わされ。
やがて納得してHAHAHAと笑い合った。

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