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そしてリターンする?
71 修行の飴と鞭
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国境へと伸びる道は、レンガや石で舗装されていない。
でも人の流れが踏み固めて、かなり平坦で凹凸の無いものになっていた。
だから馬車の中でも振動は少ない。
しかも王家の馬車はサスペンションが良く、内装も極上で、腰とお尻に優しい物だった。
背もたれをリクライニングして、アドルは不貞腐れたように転がっている。
昨夜は怖かった。
十重二十重とゾンビの様に取り囲まれて、鳥肌が立った。
「惚れた相手が男だっただけだ!」
肺活量の全てをかけて叫んだおかげで、会場はし~ん、となった。
あ、やべえ。
やっちまった。
そう思ったときにはもう遅かった。
御老体達は、まごう事なき侮蔑の視線でみていたが、若人達はキラキラと曇りなきまなこで見つめている。
その対極の温度差の中で、どう収めれば良いのかアドルはウゴウゴした。
こんな時は伝家の宝刀だなっ!
とりあえずヤルターシからのブロックサインで、御老体達は心肝を震え上げて、泡を吹くまで威圧でマウントを奪い取った。
若人達へは、味方に付ける様に笑顔を振り撒いた。
~~そうやって、なんとか外交の一ヵ国目は治まった。
そうして、なにやら生温い辞去を繰り広げて今に至る。
こんな時でもヤルターシは、パラパラと書類を捲る手を止めない。
馬車酔いするやんけ。
ぼうっと見てたら目が合った。
あ、叱られる。
と、寝たふりするよりも早く。
はあぁぁぁっ。
と、魂からのため息が吐き出された。
「こんなクッションのいい馬車に野郎二人って、どんだけですかぁ。」
それはこっちのセリフだ。
父上(国王)からは、馬車で使える体位のアレコレを伝授されている。
~~なのに現実はどうだ。
眉間に皺を寄せたワーカーホリックと、閉じ込められているじゃぁないか。
ちらりと窓をみると、外は煌めく日差しが木々に反射してジュノのエメラルドの瞳のようだ。
ジュノと一緒なら、あんな事もこんな事も出来るというのに ……くすん。
何を考えているのか丸わかりなアドルに、ヤルターシは自業自得だと言う言葉を飲み込んだ。
コイツをやる気にさせるのにはコツがいる。
そして、それは。
ひょっとしてそれは。
考えたくも無いけれど。
自分が一番秀でているのではないだろうか。
と、最近うすうす気がついた。
まぁ、だから次期宰相候補で、外交団のまとめ役になってるんだけど。
「なぁ、アドル。知ってるか?」
しぶしぶとヤルターシは言葉を紡いだ。
この馬車は奇襲を防ぐ為に、金属のチェーンで覆われている。
もちろん壁の中で。
重量を減らす為に、ネックレス並みの細さで作られているが強い。
矢だって弾く。
ふうぅん。と生返事をするアドル。
もしもの為に床下には脱出口と収納庫があって、三日分の備蓄がある。
凄いですねぇ。とアドルは答えた。
座面の間にこのテーブルを横にすると、この馬車はフラットになる。
つまりこの馬車が全てベッドになる。
ほえっ⁉︎ とアドルは起き上がった。
ここでヤルターシはにやりと笑った。
さあ、食い付いてこい。
此処からは宰相だけに伝わる、アホな王様をやる気にさせる、秘密を教えちゃうよん。
馬車の周りを馬で走る護衛達に覗かれない様に、カーテンを閉めるとする。
うん。 とアドルは身を乗り出した。
ごほんと咳をして、ヤルターシは横の紐を引く。
天井がゆっくりと開き、日差しが降り注いだ。
ガラスの内部には、奇襲を防ぐ為に細かいチェーンを埋めてある。
それは模様となって浮かんでいた。
つまり、何があっても安全だ。
途中で妨害があってもここには来ない。
つまり。
ぴっ! と、人差し指を立てたヤルターシに、アドルはガッツリと釣り上げられた。
ここは誰の邪魔も入らない、動く愛のベッドルームと言う訳だ。
王と王妃だけの空間。
しがらみのない空間。
誰の邪魔も入らずに……
妄想がアドルの呼吸を止める。
ヤルターシの黒い笑も目に入らずに、アドルはぐんと拳を握った。
でも人の流れが踏み固めて、かなり平坦で凹凸の無いものになっていた。
だから馬車の中でも振動は少ない。
しかも王家の馬車はサスペンションが良く、内装も極上で、腰とお尻に優しい物だった。
背もたれをリクライニングして、アドルは不貞腐れたように転がっている。
昨夜は怖かった。
十重二十重とゾンビの様に取り囲まれて、鳥肌が立った。
「惚れた相手が男だっただけだ!」
肺活量の全てをかけて叫んだおかげで、会場はし~ん、となった。
あ、やべえ。
やっちまった。
そう思ったときにはもう遅かった。
御老体達は、まごう事なき侮蔑の視線でみていたが、若人達はキラキラと曇りなきまなこで見つめている。
その対極の温度差の中で、どう収めれば良いのかアドルはウゴウゴした。
こんな時は伝家の宝刀だなっ!
とりあえずヤルターシからのブロックサインで、御老体達は心肝を震え上げて、泡を吹くまで威圧でマウントを奪い取った。
若人達へは、味方に付ける様に笑顔を振り撒いた。
~~そうやって、なんとか外交の一ヵ国目は治まった。
そうして、なにやら生温い辞去を繰り広げて今に至る。
こんな時でもヤルターシは、パラパラと書類を捲る手を止めない。
馬車酔いするやんけ。
ぼうっと見てたら目が合った。
あ、叱られる。
と、寝たふりするよりも早く。
はあぁぁぁっ。
と、魂からのため息が吐き出された。
「こんなクッションのいい馬車に野郎二人って、どんだけですかぁ。」
それはこっちのセリフだ。
父上(国王)からは、馬車で使える体位のアレコレを伝授されている。
~~なのに現実はどうだ。
眉間に皺を寄せたワーカーホリックと、閉じ込められているじゃぁないか。
ちらりと窓をみると、外は煌めく日差しが木々に反射してジュノのエメラルドの瞳のようだ。
ジュノと一緒なら、あんな事もこんな事も出来るというのに ……くすん。
何を考えているのか丸わかりなアドルに、ヤルターシは自業自得だと言う言葉を飲み込んだ。
コイツをやる気にさせるのにはコツがいる。
そして、それは。
ひょっとしてそれは。
考えたくも無いけれど。
自分が一番秀でているのではないだろうか。
と、最近うすうす気がついた。
まぁ、だから次期宰相候補で、外交団のまとめ役になってるんだけど。
「なぁ、アドル。知ってるか?」
しぶしぶとヤルターシは言葉を紡いだ。
この馬車は奇襲を防ぐ為に、金属のチェーンで覆われている。
もちろん壁の中で。
重量を減らす為に、ネックレス並みの細さで作られているが強い。
矢だって弾く。
ふうぅん。と生返事をするアドル。
もしもの為に床下には脱出口と収納庫があって、三日分の備蓄がある。
凄いですねぇ。とアドルは答えた。
座面の間にこのテーブルを横にすると、この馬車はフラットになる。
つまりこの馬車が全てベッドになる。
ほえっ⁉︎ とアドルは起き上がった。
ここでヤルターシはにやりと笑った。
さあ、食い付いてこい。
此処からは宰相だけに伝わる、アホな王様をやる気にさせる、秘密を教えちゃうよん。
馬車の周りを馬で走る護衛達に覗かれない様に、カーテンを閉めるとする。
うん。 とアドルは身を乗り出した。
ごほんと咳をして、ヤルターシは横の紐を引く。
天井がゆっくりと開き、日差しが降り注いだ。
ガラスの内部には、奇襲を防ぐ為に細かいチェーンを埋めてある。
それは模様となって浮かんでいた。
つまり、何があっても安全だ。
途中で妨害があってもここには来ない。
つまり。
ぴっ! と、人差し指を立てたヤルターシに、アドルはガッツリと釣り上げられた。
ここは誰の邪魔も入らない、動く愛のベッドルームと言う訳だ。
王と王妃だけの空間。
しがらみのない空間。
誰の邪魔も入らずに……
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