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そしてリターンする?
69 市場で
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「ジュノ。覚え処かい?」
きっぷのいいおばさんが声をかける。
「そうです。今は何人くらい?」
「ん~20人くらいかねぇ。」
「じゃ、先生の分もいれてパリッシュを30個。お願いします。」
もぞもぞとポケットから財布を出す。
パリッシュは硬いパンを水平に切って、野菜と肉をめっきりこんと挟んだお昼の定番だ。
安くて美味い。
置いとけるから、夕方の子供も食べられる。
「毎度あり。日替わりで届けとくよ。お金が残ったらいつものように募金箱に入れとくからね。」
おばさんの声に送られて歩いていく。
ここは学園時代にバイトしていたから馴染みの場所だ。
そして"覚え処"がある。
識字率の向上のために、国の政策として教え処は以前からあった。
でも貧乏な家で子供は大事な働き手で。
そうじゃ無くても貴族のように丸一日をつかって学ぶ事は普通の平民には出来ない。
子供は小さくて力も弱いので体を使う仕事しか出来ない。
そういう仕事は低賃金でキツイ。
だから勉強する時間は取れない。
そういう負のスパイラルで、だいたいの教え処はただの箱物になっていた。
『教えてもらうんじゃ無くて覚えていこう!』
意識改革の為に"覚え処"と名前を変えたのはそう、五年程前。
とにかくまずは字が読めること。
数を読んで足し算と引き算ができること。
それを目標にした。
バイトで知った子供の実情を聞いたリサ嬢達が、市場のお姉様方と話し合った。
難しい学問は本人がのぞめば学べるけれど、まずは字を読もう。
そうすれば怪しい書類にサインする事もない。
算数が出来れば店での働き方も変わる。
その事に市場の母親達は歓迎してくれた。
びっしり毎日とか、一日とかでは無く。
早朝の人手のいる時間は仕事して、人手の足りてる昼前後に授業に出る。
食堂の子供はその反対の時間を組む。
時間と曜日で四コースをつくる。
教師は二人。
習得に合わせて机を変えていく。
教師の補佐をする為に、将来に教員希望の学園の生徒が何人か来てくれた。
こうやって市場の覚え処は、なかなかに上手く進んでいる。
ジュノも休みの日には、ここにやって来る。
慣れた場所だから気楽に歩いているが、実はすんごく目立っている。
服は以前からの服だ。
物持ちのいいジュノは、学園時代から量販店で買ったシャツとズボンを愛用している。
成長してないという現実が、ちらりと頭を掠めるけれど気にしない。
だってムダが無いって事だから。
服は確かに質素だ。
そして丁寧に洗っても着古した感がある。
でもジュノは、いまや侍従の愛で日々磨きあげられている。
艶々の髪は天使の輪っかを浮かばせているし。
市場の串焼きや惣菜から立ち込める煙の中で、足取りは軽く、もうまさに光を反射している。
瞳は昔からキラキラと楽しそうなエメラルドだけど。
それを縁取る頬も唇も、艶々にぷるぷるなのだ。
……思いっきし目立ってるやん。
影で付いてる護衛達は、内心ほあぁと、息を吐いた。
全く。
完全に"お忍び"がバレバレじゃん。
もっとも市場のお姉様方は創立時からJMD。
不埒者は寄せ付けない。
たまに、その輝きに目を止めた柄の悪い兄ちゃんが足早に近寄る。
「おい♡ ちょっっっっ~~~………」
声を発しながらじゅっ! と消える。
振り向いたジュノには、買い物客の流れしか見えない。
あれ、なんか呼ばれたと思ったけどなぁ。
そうやって歩くジュノの後ろには、
括られて『ちょっと根性を叩き直す為に、鉱山に行こうね♡ツアー』
の招待客が増えていくのだった。
きっぷのいいおばさんが声をかける。
「そうです。今は何人くらい?」
「ん~20人くらいかねぇ。」
「じゃ、先生の分もいれてパリッシュを30個。お願いします。」
もぞもぞとポケットから財布を出す。
パリッシュは硬いパンを水平に切って、野菜と肉をめっきりこんと挟んだお昼の定番だ。
安くて美味い。
置いとけるから、夕方の子供も食べられる。
「毎度あり。日替わりで届けとくよ。お金が残ったらいつものように募金箱に入れとくからね。」
おばさんの声に送られて歩いていく。
ここは学園時代にバイトしていたから馴染みの場所だ。
そして"覚え処"がある。
識字率の向上のために、国の政策として教え処は以前からあった。
でも貧乏な家で子供は大事な働き手で。
そうじゃ無くても貴族のように丸一日をつかって学ぶ事は普通の平民には出来ない。
子供は小さくて力も弱いので体を使う仕事しか出来ない。
そういう仕事は低賃金でキツイ。
だから勉強する時間は取れない。
そういう負のスパイラルで、だいたいの教え処はただの箱物になっていた。
『教えてもらうんじゃ無くて覚えていこう!』
意識改革の為に"覚え処"と名前を変えたのはそう、五年程前。
とにかくまずは字が読めること。
数を読んで足し算と引き算ができること。
それを目標にした。
バイトで知った子供の実情を聞いたリサ嬢達が、市場のお姉様方と話し合った。
難しい学問は本人がのぞめば学べるけれど、まずは字を読もう。
そうすれば怪しい書類にサインする事もない。
算数が出来れば店での働き方も変わる。
その事に市場の母親達は歓迎してくれた。
びっしり毎日とか、一日とかでは無く。
早朝の人手のいる時間は仕事して、人手の足りてる昼前後に授業に出る。
食堂の子供はその反対の時間を組む。
時間と曜日で四コースをつくる。
教師は二人。
習得に合わせて机を変えていく。
教師の補佐をする為に、将来に教員希望の学園の生徒が何人か来てくれた。
こうやって市場の覚え処は、なかなかに上手く進んでいる。
ジュノも休みの日には、ここにやって来る。
慣れた場所だから気楽に歩いているが、実はすんごく目立っている。
服は以前からの服だ。
物持ちのいいジュノは、学園時代から量販店で買ったシャツとズボンを愛用している。
成長してないという現実が、ちらりと頭を掠めるけれど気にしない。
だってムダが無いって事だから。
服は確かに質素だ。
そして丁寧に洗っても着古した感がある。
でもジュノは、いまや侍従の愛で日々磨きあげられている。
艶々の髪は天使の輪っかを浮かばせているし。
市場の串焼きや惣菜から立ち込める煙の中で、足取りは軽く、もうまさに光を反射している。
瞳は昔からキラキラと楽しそうなエメラルドだけど。
それを縁取る頬も唇も、艶々にぷるぷるなのだ。
……思いっきし目立ってるやん。
影で付いてる護衛達は、内心ほあぁと、息を吐いた。
全く。
完全に"お忍び"がバレバレじゃん。
もっとも市場のお姉様方は創立時からJMD。
不埒者は寄せ付けない。
たまに、その輝きに目を止めた柄の悪い兄ちゃんが足早に近寄る。
「おい♡ ちょっっっっ~~~………」
声を発しながらじゅっ! と消える。
振り向いたジュノには、買い物客の流れしか見えない。
あれ、なんか呼ばれたと思ったけどなぁ。
そうやって歩くジュノの後ろには、
括られて『ちょっと根性を叩き直す為に、鉱山に行こうね♡ツアー』
の招待客が増えていくのだった。
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