なぜか側妃に就職しました。これは永久就職じゃございません。

たまとら

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そしてリターンする?

68 その頃の祖国

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アドルのいない休日もジュノは忙しい。

王宮からは、街に行く馬車が出ている。
あちこちで声をかけられながら、ジュノはウキウキと王宮の門から出ていく。

『いいのか?』
笑顔で見送る人達は、頭の中で?を育てていた。
"側妃"と言う立場は、もう王宮の全ての人にバレている。
ついでと言うなら頓着しないジュノに忖度して、今まで通りに接している。

『今日はお休みだからお出掛けです♡』

そんな気軽な外出は、正直ちょっと問題だった。
笑顔で見送ってから、警備室へと大急ぎで一報を入れる。
警備の受付は、次から次へと駆け込んでくる人によって大渋滞に陥っていた。

「大丈夫です!侍従から報告があって、手配してます‼︎」
口元に手で輪を作って叫んでも、向こうから新たなる人が駆けてくる。



  〝ジュノ様 本日外出中。
     騒がず目立たず見守り下さい〟



以前、リサ嬢に渡されていた貼紙を慌てて取り出す。
入り口の目立つ所にばんと貼り付けると、
おおぉぉう。と、人は納得して散っていった。






市場にはさまざまな匂いが湧き立っている。
ジュノは真っ先に甘い匂いの店に行った。

「おばちゃーん。ガンコ、100個くださーい」

「おや、ジュノ。久しぶりだね。
 今日は覚え所かい?」

ジャワジャワと油で揚げてたおばさんが、大きな葉っぱを取り出した。
熱でりんごの様な赤いほっぺで、赤いスカーフを頭に巻いている。
丸っちい手で、ころんと甘いガンコを次々とまとめていく。


ガンコは水で溶いた粉と卵と、甘い樹液を混ぜてベーキングパウダーを入れて練り上げた生地を、お玉ですくって揚げたおやつだ。
子供の拳くらいあって、ころんとしている。
それが油の中で表面が弾けて岩の様にゴツゴツする。
○○コロルンとか言う名前がついていたのに、誰もそう呼ばない。
"ガンコ"そう呼ばれて小銅貨で買えるくらいに安い、庶民のおやつだ。

ジュノが頼めば王宮の厨房で素敵なクッキーやマフィンを作ってもらえるのは知ってる。
でも貧乏な子供が、そんな二度と味わえない物を貰うより、馴染みのある甘い物を沢山貰ったほうを喜ぶのを知っている。
それにここで買って、少しでも経済を回すのって大事だし。

市場で惣菜やおやつを買うと、フッキやナババ、ハスイなどの葉で包んでくれる。
ガンコ30個くらいは、特大の葉に乗せて、四方の葉先をあつめて、まとめてくるくると蔦や紐で縛る。取手をつけると、巾着袋のようにぷらんと持てる。
葉の香りを移すことも考えて、いろんな葉で包まれる。

お土産をぷらぷらさせながら、ジュノは歩き出す。

「あっ、ジュノ。久しぶりだなっ!」

果物屋の爺さんが声を掛ける。

「あ、こんにちは。」

「ひひっ。随分と色っぽくなったじゃないか」

爺さんがにやにやしながら寄ってくる。
、いつも人のお尻をぎゅっと掴む。
メロンやオレンジをにぎり慣れてるから、ぎゅっは結構痛いのだ。
逃げようにも両手一杯で、しょうがないのでなんとか隣の店ににじり寄っていく。

かっ?が出来たのか!」

親指を立てながらすかさずガブリ寄る爺さん。

「可愛いがって貰ってんのか、ここ、…うわっ!」

おやっと見ると、爺さんは真っ青な顔で震えていた。

「大丈夫?具合悪い?」

「だ、大丈夫じゃ!じゃあ、なっ‼︎」

「はーい。行ってきます‼︎」

影の護衛の全力殺気に、威圧され、怯んだ爺さんは震えていた。
気が付かず、にこにこしながらジュノは立ち去った。

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