なぜか側妃に就職しました。これは永久就職じゃございません。

たまとら

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65 プロポーズ

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「おっはよぅございまぁーす‼︎」

今朝も元気な声がする。
厨房の扉の脇の椅子の上に陣取っていたキジトラはひくっと頭を上げた。

あの声が合図の様に、自分達の1日が始まる。
にゃーとミケ姐が隠れ家から出て来た。
ちゃんと黒助もブチ夫も一緒だ。

厨房からひと段落ついた料理人のサイラスが、鍋を片手に出てくる。

賑やかな挨拶を交わす声が近づいてくる。

鍋にはご飯が一杯。
器に盛られてあぐあぐ食べる。
優しいサイラスは、ちゃんと水も脇に置いてくれてる。
今日のご飯は肉の切れっぱなしが一杯入ってて嬉しい♡

「あ、とらさんおはよう♡
サイラスさん、おはようございます!」

ジュノこの人間は"大好き♡"の熱をいつも放射している。
見ているだけで幸せになる。

「ケーキの試食があるから帰りに寄ってけ。」

「うわぁ♡ありがとう。楽しみ!」

弾む様な足取りだ。
あっちからもこっちからも声が掛かる。

「お使いかい?」

「うん。定例会の議事録まとめたのを配ってるんだ。」

にこにこと去って行くジュノに、みんな笑顔で手を振る。

「……なんか色っぽくなったよね。」

「うん。まぁ~~、だよね。」

王子の帰還のべろちゅうは、なかなか衝撃的だった。
皆んなの可愛い子ちゃん。
の、立ち位置が、ちょっと変化した。
でもジュノはやっぱり元気で可愛いくて。
皆んなのアイドルだ。





王宮のど真ん中には庭園がある。
ほとんど芝生で広い。
これは外交によるガーデンパーティーを開いたり、騎士戦などのイベントの為のものだ。

今日そこに、なぜかずらりと端に寄せてテーブルと椅子が並んでいる。
王妃までもがそこの四阿で、陽を遮りながらお茶を飲んでいる。
脇にはアドル王子が緊張で固まっていた。

王子はほぼ正装のフロックコートを着ている。
白いそれに、袖口や襟元にびっしりと刺繍がされている。
金色の髪がより引き立って、美しい。

ほんと、黙って居れば理想の王子様だわ。
王妃は扇で口元を隠して、くすりと笑った。

ありがたくも、アドルとジュノは両想いになった。
人目も憚らずいちゃいちゃして、もうお肌はプリプリの艶々だ。

考えてみるに、ジュノが側妃になったのはただの就職だった。
本音を言えば、もうそろそろ外交を代わって欲しいのだ。
長期の移動が、どんどん腰にクル様になって来た。

そりゃ王家の馬車はクッションがいい。
横になれる様にリクライニングも出来るし、侍従のマッサージだって受けられる。
でもね、もう、辛いのよ。

もう年なのよっ‼︎
と、アドルに泣きついて世代交代を約束させた。

という事は、あとはもうジュノの立場よね。
外交で諸外国を訪問する為には、やっぱ正妃でしょう。
正妃がいないとちゃうし。

そうなると、やっぱプロポーズだわ。
なし崩しで側妃になって、♡になったけどね。
でも、乙女心はやっぱりプロポーズよね。
王妃はリサ嬢と宰相閣下に力説した。



~~と、いう訳で今日がある。


もうJMDの会員も非会員も。
騎士団員も下働き達も。
あらゆる人が遠巻きにして見ている。
これはもう一大イベントなのだ。

アドルはお約束の薔薇の花束を持っている。

知らないのはジュノだけ。

でも、侍従に朝から磨かれて。
ちょっと改まった服は王子の瞳の青空色で。
銀と金の刺繍までされている。


届けて来てね。

と、言われた書類をもって、なんか変だと思いながら、おずおずと庭にくる。
周りのモブ群衆にビクッとなり、ど真ん中に立つアドルにホッとした様に笑った。
笑うとそのエメラルド色の瞳がキラキラして、ほぉんっとに可愛い!

王妃に言い含められていた手順も打っちゃって、アドルは足早にジュノのもとに駆け寄って膝を付いた。


ばさっと顔の前に薔薇を突きつける。
あまりに勢いが良くて、花弁が散った。
王子の白い衣に真紅の花弁は凄く映える。
それに目を奪われて、周りのモブは掻き消された。

「ジュノ。愛してる。結婚してくれ!」

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