なぜか側妃に就職しました。これは永久就職じゃございません。

たまとら

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56 何度でも初恋

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なんか、やたらとお土産を貰って、おいとまする。
未だ話があると言うリサ様に見送られて門に行く。
待っててくれた侍従ちゃんとヤルターシ様を見て、ホッとした。

緊張してたんだと思う。



学園時代からのアレやコレやを知っているヤルターシ様は、申し訳ないけれどもう"心の友"ポジションなのだ。

なんか激励されたと話すと、
でしょうね。
と、返された。



少し茜色をおびてきた空を見上げる。
夕暮れを目指して青空が透き通り始めて、遥か向こうが青紫に染まり始めている。
青空を見ると王子を思い出す。
今日は執務室お休みしちゃったし、昨日の夜から会ってない…。
どうしてるんだろう。


そんなジュノの横顔を見ながら、ヤルターシは尋ねた。

「ジュノは、アドルをどう思ってる?」

わかってるよ。
この、チラリと覗く鬱血痕キスマークを見てるよね。

「前ほど嫌悪感は無さそうだし。
 物凄いアプローチだし。絆された?」

ジュノは黙って歩く。
絆された。
うん。
絆されてる。
嫌悪感は無い。
キスも好き。
抱き合うのも好き。
~~でも…

「アドルはマジだよ。マジでジュノが好きだよ。」

「…うん。」

わかってる。
わかってるけど…。



巣に帰る鳥が鳴いているのが聞こえる。
向こうの執務棟や騎士棟から、ざわざわと賑やかな声が流れてくる。

此処は静かだ。
後宮の道は人影が無くて。
俺達のレンガ道を歩く足音が、音楽のように響いてくる。

だんだんジュノの歩みは遅くなる。
頭と身体は直結だ。
少し前になったヤルターシ様を、迷うように見つめる。
こんな事、言っちゃってもいいんだろうか。
言っちゃうのはありなんだろうか…。



「怖くて…」

ジュノはぽつんと呟いた。

「俺を好きだと言ってくれる。
 本気なのはわかる。 でも……」

思わず立ち止まると、少し前を歩いていたヤルターシ様が振り返った。
ん?と、聞いてるようで、黙って待っててくれる。
ああ、心の友よ!
ジュノはほおっと息を吐いた。

「記憶がもどったら忘れてしまうかもしれない。俺が好きになってから、お前なんか知らないって言われたら…」

ぶるっと想像して震えた。
もしそんな事言われたら…

立ち直れないよぉ!

項垂れるジュノ。
背後で侍従がちょっと目を見開いている。
ヤルターシは少し顎を捻った。


「~~羨ましいよな。」

「えっ?」

弾かれたように見上げると、笑顔のヤルターシがいる。

「奴は認めなかったが、学園時代はジュノに惚れてた。惚れてたから意地悪してたんだぜ。」

「はあっ?」

「記憶を無くしてからも一目惚れしたんだ。
 そりゃもう、凄く口説いてただろ。」

「ま、まぁ。」

「今度ジュノを忘れても、またやっぱりジュノに恋をするさ。」

棒立ちになったジュノに、畳み掛けるようにヤルターシは笑う。

「同じ人に何度も恋をする。
 何度もドキドキして、ワクワクして、ソワソ    ワするんだ。
 羨ましいだろう!」


その力技な答えに、成る程と押し切られて。
ソレもいいかもね。
と、ジュノはようやく心の底から納得した。
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