なぜか側妃に就職しました。これは永久就職じゃございません。

たまとら

文字の大きさ
上 下
21 / 77

21 動乱のお茶会  下

しおりを挟む

ひいっ‼︎

令嬢達が息を詰めた。
その場がパリンと凍りついた。

~~見てしまいましたね、この顔を…

ジュノは凍り付いた令嬢達を見渡した。

ああ、何という事でしょう…。
ジュノの頭の中では、鯛やヒラメの舞踊りのように、自分がくるくると回りながらあ~れ~と崩れ落ちていくのが見えた。

アドル王子に"ダラけた不良債権"という称号の上に"DV野郎"という最低な呼び名が付いてしまった。
この場のご令嬢の引き攣った顔を見れば、正妃という金看板はもう、もう、この中の誰も背負ってはくれないだろう…。


ジュノの頬はだ。
もう、殴られましたしか無い主張具合だ。
ちょいとあどけな系の顔が、さらに残念さを引き立てている。


「あ、あの…これ、転んで…」

ベールを直してくれながら、いいのよ。
いいのよ。と、令嬢達は頷いた。

「人生、山あり谷あり。愛もいろいろよね。」

うんうんと頷かれるけど意味がわからない。

「いや、本当に転んで…」

言い訳を重ねようとしたら、背後がざわりとどよめいた。

振り返るとアドル王子がやって来る。


きちんとした正装をした王子は。
もう王子はかくあるべし!
という見本のようだ。
さらに最終奥義ロイヤルスマイルが炸裂している。

~~眩しい!

王子は美しい顔に笑顔を浮かべたまま、ジュノの腰に手を回し、(きゃーと声が上がった)
そっと椅子へとエスコートする。
今日の空のような青い瞳がキラキラとジュノを見ている。

「遅くなって、すまない。」

そう言って手をとると、その指先に唇をつけた。
(きゃー きゃーと声が半端ない。)
ちらりと令嬢達を見渡すと、その目は♡だ。

なるほど。
"最低DV野郎"から、"溺愛による痴話喧嘩の挙句のアザ"にシフト変更する気だな。
流石にダラけてても王子。
臨機応変の強かさは感嘆ですわ!

~~こうなったら、この場を収めるには乗るしか無いぞっ!


ジュノはうるうると目を潤ませ
(最近、涙系はベテランだ。)
数秒、アドル王子の目をみつめる。
それから目を逸らし、

「来てくれないかと思った…」
と、つぶやいた。
(くーっ♡と、引いた声が聞こえる、)

「馬鹿だなぁ。そんな訳無いだろう。」

正しく理解した王子が耳元で囁く。
ほんのり目元を、染めながら、甘えるように

「…嬉しい…」
(令嬢達の頭がプルプルしている。)


~~でも、俺。
ナニをやってるんだろう。
ちょっと意識を飛ばしながら三文芝居を続けていく。
ちらりと王妃様に目を向けると、王妃様も頬を染めて口元を扇で隠しておられた。
……何故に。



王子は無駄に良いこの顔で、周りに笑みを向ける。
令嬢達はでれりとスライムの様に崩れ溶けた。

グッジョブです王子。
あんたはやれば出来る子だったんやね。

「大丈夫か。疲れただろう。
しばらくそうしていなさい。」

ロイヤルスマイルを波動砲の様に振り撒いて、王子は令嬢達に向き合った。
一人一人の手をとって、挨拶を交わしている。
きやあぁぁぁ~♡
と小さな声が、花咲く様にあちこちで上がる。


ああ、あの笑顔でDV野郎のイメージが上書きされたに違いない。

ありがとう王子。
頑張れ王子。
やれば出来る。
そうして正妃をゲットしてくれ。


ホッとしてダラけそうな自分を鞭打って、なんとか背筋を伸ばす。
乗り切るんだ。
このお茶会。
なんとか乗り切るんだ。


気がつくと、隣に王妃様が座って、
ジュノの手を両手でぎゅっと握っていた。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話

鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。 この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。 俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。 我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。 そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

第二王子の僕は総受けってやつらしい

もずく
BL
ファンタジーな世界で第二王子が総受けな話。 ボーイズラブ BL 趣味詰め込みました。 苦手な方はブラウザバックでお願いします。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

処理中です...