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21 動乱のお茶会 下
しおりを挟むひいっ‼︎
令嬢達が息を詰めた。
その場がパリンと凍りついた。
~~見てしまいましたね、この顔を…
ジュノは凍り付いた令嬢達を見渡した。
ああ、何という事でしょう…。
ジュノの頭の中では、鯛やヒラメの舞踊りのように、自分がくるくると回りながらあ~れ~と崩れ落ちていくのが見えた。
アドル王子に"ダラけた不良債権"という称号の上に"DV野郎"という最低な呼び名が付いてしまった。
この場のご令嬢の引き攣った顔を見れば、正妃という金看板はもう、もう、この中の誰も背負ってはくれないだろう…。
ジュノの頬はまだらだ。
もう、殴られましたしか無い主張具合だ。
ちょいとあどけな系の顔が、さらに残念さを引き立てている。
「あ、あの…これ、転んで…」
ベールを直してくれながら、いいのよ。
いいのよ。と、令嬢達は頷いた。
「人生、山あり谷あり。愛もいろいろよね。」
うんうんと頷かれるけど意味がわからない。
「いや、本当に転んで…」
言い訳を重ねようとしたら、背後がざわりとどよめいた。
振り返るとアドル王子がやって来る。
きちんとした正装をした王子は。
もう王子はかくあるべし!
という見本のようだ。
さらに最終奥義ロイヤルスマイルが炸裂している。
~~眩しい!
王子は美しい顔に笑顔を浮かべたまま、ジュノの腰に手を回し、(きゃーと声が上がった)
そっと椅子へとエスコートする。
今日の空のような青い瞳がキラキラとジュノを見ている。
「遅くなって、すまない。」
そう言って手をとると、その指先に唇をつけた。
(きゃー きゃーと声が半端ない。)
ちらりと令嬢達を見渡すと、その目は♡だ。
なるほど。
"最低DV野郎"から、"溺愛による痴話喧嘩の挙句のアザ"にシフト変更する気だな。
流石にダラけてても王子。
臨機応変の強かさは感嘆ですわ!
~~こうなったら、この場を収めるには乗るしか無いぞっ!
ジュノはうるうると目を潤ませ
(最近、涙系はベテランだ。)
数秒、アドル王子の目をみつめる。
それからさりげなく目を逸らし、
「来てくれないかと思った…」
と、つぶやいた。
(くーっ♡と、引いた声が聞こえる、)
「馬鹿だなぁ。そんな訳無いだろう。」
正しく理解した王子が耳元で囁く。
ほんのり目元を、染めながら、甘えるように
「…嬉しい…」
(令嬢達の頭がプルプルしている。)
~~でも、俺。
ナニをやってるんだろう。
ちょっと意識を飛ばしながら三文芝居を続けていく。
ちらりと王妃様に目を向けると、王妃様も頬を染めて口元を扇で隠しておられた。
……何故に。
王子は無駄に良いこの顔で、周りに笑みを向ける。
令嬢達はでれりとスライムの様に崩れ溶けた。
グッジョブです王子。
あんたはやれば出来る子だったんやね。
「大丈夫か。疲れただろう。
しばらくそうしていなさい。」
ロイヤルスマイルを波動砲の様に振り撒いて、王子は令嬢達に向き合った。
一人一人の手をとって、挨拶を交わしている。
きやあぁぁぁ~♡
と小さな声が、花咲く様にあちこちで上がる。
ああ、あの笑顔でDV野郎のイメージが上書きされたに違いない。
ありがとう王子。
頑張れ王子。
やれば出来る。
そうして正妃をゲットしてくれ。
ホッとしてダラけそうな自分を鞭打って、なんとか背筋を伸ばす。
乗り切るんだ。
このお茶会。
なんとか乗り切るんだ。
気がつくと、隣に王妃様が座って、
ジュノの手を両手でぎゅっと握っていた。
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