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17 初任務は失敗のようです。
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盲滅法走って。
低い灌木に囲まれた迷路の中に、四つん這いになって入り込んだ。
しばらく後ろで呼ぶ声がしたけど、ここなら見つからないだろうし…。
厚みのある垣根の隙間に座り込むと、ほっと安堵の息を吐いた。
やってしまった。
嫌いな奴に、嫌いと言ってしまった。
もう、お茶会は出なくていいと言ってしまった。
これ幸いと、あいつは出席したりしないだろう。
膝を抱えて座る。
手にした紙片はくちゃくちゃのブロマイドで。
~~ごめんね宰相閣下。
俺、ダメだったよ。
右の頬がジンジンして、その熱さが左の瞼にも喉にも広がって、涙がぽろぽろと溢れてくる。
喉から嗚咽がぐふっぐふっと湧き上がって、もうこれまでにない程に泣いた。
誰にも見られてないから大丈夫。
もうとにかく泣いた。
なんか最近よく泣いてる気がする。
そのうち水分が無くなって、干からびちゃうんだろうか。
右頬がビリビリ痛くなってきて、くちゃくちゃなブロマイドをなんとか手で伸ばしてポケットに入れた。
冷やさないと。
明日は酷いことになっちゃうんだろうな…。
投げやりな気持ちで、膝の上に頬を擦り付けていたら、足音が聞こえた。
「どうしました?具合でも悪いのですか?」
あ、夜間巡回の人だ。
いけない。
これじゃ、不審者だ。
「何でもありません。大丈夫です。」
よれよれの涙声で答えたら、相手が近寄って来た。
だよね。
しっかりしろ、俺!
深呼吸をする。
別の隠れ家を見つけなきゃ。
「ありがとうございます。大丈夫です。」
そう言って降り仰いだら、ヤルターシ様がいた。
そうか、今夜は当番だったんだ。
ジュノのえへらっとした顔を見て、ヤルターシが息を飲む。
「ちょっと待ってて下さい。いいですね。」
そう言うと踵を返して走り去った。
ああ、大ごとになっちゃうかも。
とりあえず隠れなきゃ。
でも、どこに。
後宮は……王子がまだいるかも知れないし。
恥を偲んで宰相の執務室に行くか。
仮眠所も併設されてるし。
意識を飛ばしていたら、ヤルターシが戻って来た。
そっと濡れた布を頬に当ててくれる。
ひんやりして、気持ちいい。
よっこいしょ、と。
垣根の隙間から引き抜かれ、近くの四阿に座らされた。
寝衣で薄着のジュノを、マントを脱いで包んでくれてる。
……騎士様だ。
お話しにある、正義の味方だ!
そんな優しさにほろっとなって、
どうしたの?
と言う言葉に、側妃になった事からお茶会のことまで。
はては宰相閣下のブロマイドに至るまで、洗いざらい吐いていた。
「そいつは……」
と、語尾を濁しながら、大変だったな。
よく頑張った。
と、ヤルターシは誉めてくれた。
「体も打ったんなら休んだ方がいい。
夜は物騒だから送るよ。何処に行く?」
そう聞かれると、すっかり冷静に戻ったジュノは恥ずかしさに赤くなった。
「宰相閣下の執務室へ。仮眠所に行きます。
明日朝一番に、任務を失敗した事を報告しないといけませんから。」
ヤルターシにマントごと抱き上げられて、ジュノは驚いた。
これ、世で言うお姫様抱っこでは…
恥ずかしい…
でも、打ちつけた体がどんどんぎしぎし痛くなって来て、とてもありがたい。
「頬は出来るだけ冷やして下さいね。」
ヤルターシは柔らかく言った。
そして薬を取り出した。
騎士の打ち身の薬だと言う。
「腫れは残りますが、痛みはマシになりますから。」
ああ、この抱擁力。
宰相閣下がいなかったら、惚れてしまいそうなくらい素敵です。
ジュノはありがたさにまた少し泣いた。
低い灌木に囲まれた迷路の中に、四つん這いになって入り込んだ。
しばらく後ろで呼ぶ声がしたけど、ここなら見つからないだろうし…。
厚みのある垣根の隙間に座り込むと、ほっと安堵の息を吐いた。
やってしまった。
嫌いな奴に、嫌いと言ってしまった。
もう、お茶会は出なくていいと言ってしまった。
これ幸いと、あいつは出席したりしないだろう。
膝を抱えて座る。
手にした紙片はくちゃくちゃのブロマイドで。
~~ごめんね宰相閣下。
俺、ダメだったよ。
右の頬がジンジンして、その熱さが左の瞼にも喉にも広がって、涙がぽろぽろと溢れてくる。
喉から嗚咽がぐふっぐふっと湧き上がって、もうこれまでにない程に泣いた。
誰にも見られてないから大丈夫。
もうとにかく泣いた。
なんか最近よく泣いてる気がする。
そのうち水分が無くなって、干からびちゃうんだろうか。
右頬がビリビリ痛くなってきて、くちゃくちゃなブロマイドをなんとか手で伸ばしてポケットに入れた。
冷やさないと。
明日は酷いことになっちゃうんだろうな…。
投げやりな気持ちで、膝の上に頬を擦り付けていたら、足音が聞こえた。
「どうしました?具合でも悪いのですか?」
あ、夜間巡回の人だ。
いけない。
これじゃ、不審者だ。
「何でもありません。大丈夫です。」
よれよれの涙声で答えたら、相手が近寄って来た。
だよね。
しっかりしろ、俺!
深呼吸をする。
別の隠れ家を見つけなきゃ。
「ありがとうございます。大丈夫です。」
そう言って降り仰いだら、ヤルターシ様がいた。
そうか、今夜は当番だったんだ。
ジュノのえへらっとした顔を見て、ヤルターシが息を飲む。
「ちょっと待ってて下さい。いいですね。」
そう言うと踵を返して走り去った。
ああ、大ごとになっちゃうかも。
とりあえず隠れなきゃ。
でも、どこに。
後宮は……王子がまだいるかも知れないし。
恥を偲んで宰相の執務室に行くか。
仮眠所も併設されてるし。
意識を飛ばしていたら、ヤルターシが戻って来た。
そっと濡れた布を頬に当ててくれる。
ひんやりして、気持ちいい。
よっこいしょ、と。
垣根の隙間から引き抜かれ、近くの四阿に座らされた。
寝衣で薄着のジュノを、マントを脱いで包んでくれてる。
……騎士様だ。
お話しにある、正義の味方だ!
そんな優しさにほろっとなって、
どうしたの?
と言う言葉に、側妃になった事からお茶会のことまで。
はては宰相閣下のブロマイドに至るまで、洗いざらい吐いていた。
「そいつは……」
と、語尾を濁しながら、大変だったな。
よく頑張った。
と、ヤルターシは誉めてくれた。
「体も打ったんなら休んだ方がいい。
夜は物騒だから送るよ。何処に行く?」
そう聞かれると、すっかり冷静に戻ったジュノは恥ずかしさに赤くなった。
「宰相閣下の執務室へ。仮眠所に行きます。
明日朝一番に、任務を失敗した事を報告しないといけませんから。」
ヤルターシにマントごと抱き上げられて、ジュノは驚いた。
これ、世で言うお姫様抱っこでは…
恥ずかしい…
でも、打ちつけた体がどんどんぎしぎし痛くなって来て、とてもありがたい。
「頬は出来るだけ冷やして下さいね。」
ヤルターシは柔らかく言った。
そして薬を取り出した。
騎士の打ち身の薬だと言う。
「腫れは残りますが、痛みはマシになりますから。」
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