16 / 77
16 後宮から逃げ出しました。
しおりを挟む
今日もぐるぐる走り回っちゃった。
あの王子、なかなか受け取ってくれないし。
ジュノは脚を揉んで貰った。
これが仕事。
という侍従のプライドを傷付けない為に、お世話してもらっている。
マッサージやブラッシング。
ああ、極楽♡
そうしてお世話して貰ってから、お休みなさい。と、去っていった。
さあ、これからがお楽しみの時間だ。
お楽しみなんて、
ちょっと言い方がやらしいかも♡
ウキウキとベッド横のサイドテーブルから、ブロマイドを取り出す。
アッシュグレーの髪。
こっちを真っ直ぐ見詰める紺色の瞳。
左の口角近くのえくぼ……
素敵♡
でも実物の方がもっと素敵♡
いい匂いがするし、背も高いし、がっしりしてるし。
俺の頬を両手でガッと掴んだときの、あのアップときたら…
うっふぅ~♡
妄想の中に浸っていたジュノは、ドアの開閉音は意識の圏外だった。
「ほぉ。俺の後宮の中で他の男の写真とは。
いい度胸だなぁ……。」
地を這うような低音が、ぶつりと妄想を断ち切った。
はぅっ?と、幸せの国に彷徨っていたジュノがその上気した顔を向けた時、アドル王子は肩をピクリと揺らした。
アドルの眉を顰めた三白眼を認めて、ジュノは飛び上がる。
「アドル様!な、なんでここに⁉︎」
「ここは俺の後宮だ。
いつ来てもいいだろうが。」
不機嫌そうな顔ですツカツカと近寄ってくる。
咄嗟にジュノはブロマイドを胸に抱き込んだ。
「誰の写真でシてたんだ。」
「シてません‼︎」
そう、妄想だけだ。
愛する宰相閣下を汚すなんて‼︎
ふん。
と、アドルは鼻で笑った。
「可愛い子ぶったってもう遅いぜ。この淫乱。」
「い、淫乱…」
びっくりして飛び上がりそうな肩をぐっと片手で押して、抱えた写真を掴む。
「寄越せ。見てやる。」
「嫌です。止めて下さい。」
ぎゅっと抱き抱えても力が違う。
直ぐに手を押されて奪い取られた。
「やめて!返して下さい!」
手を伸ばすジュノをいなしてアドルはブロマイドを見る。
ーーー宰相!
「返してください!」
その手に飛び付いたジュノを払い除けた時、拳が右頬にクリーンヒットした。
ジュノの目の中で星が散った。
「あっ」と何処かで声がした。
浮遊感にのまれながら、ジュノは壁に激突していった。
多分、一瞬気を失っていたのだろう。
ずきんずきんとする熱さに、そっと目を開けると右の視界が小さい。
ゆるゆる動くと、背中がズキンとした。
「だ、大丈夫か?」
どこかで声がする。
あれ?誰の声だっけ?
俺、どうしたんだろう。
右の顔が、なんか分厚いみたいな…
ずるずると起き上がると、床の上にくちゃくちゃになった宰相閣下のブロマイドがあった。
ふるふると拾い上げる。
ああ、宰相閣下が。
宰相閣下の顔に縦線が。
宰相閣下の顔に汚れが。
………。
堰を切ったように、涙が湧いて来た。
熱い涙がぽろぽろ溢れる。
でも右からは出口が小さくて、なかなか流れていかない……。
「大丈夫か?」
再び声がした。
見上げるとアドル様がいた。
ちょっと見たことない顔している。
……でも。
…でも……
「お、俺だって、あんたのこと大っ嫌いだよっ‼︎ 俺が嫌いだからって、こんな事しなくてもいいじゃないかっ!」
真っ直ぐ怒鳴ってやりたいのに、喉が震えて声が出ない。
「もう、お茶会はいい。もう、いい…。
……もう、知らない……」
よろよろと立ち上がる。
部屋から出ると、廊下で騒ぎを聞きつけた侍従達がオロオロしていた。
「ジュノ様……お顔が……」
「腫れ、て……」
「しばらく放っておいて。お願いします。」
それだけ言うと、ジュノは後宮から逃げ出していた。
あの王子、なかなか受け取ってくれないし。
ジュノは脚を揉んで貰った。
これが仕事。
という侍従のプライドを傷付けない為に、お世話してもらっている。
マッサージやブラッシング。
ああ、極楽♡
そうしてお世話して貰ってから、お休みなさい。と、去っていった。
さあ、これからがお楽しみの時間だ。
お楽しみなんて、
ちょっと言い方がやらしいかも♡
ウキウキとベッド横のサイドテーブルから、ブロマイドを取り出す。
アッシュグレーの髪。
こっちを真っ直ぐ見詰める紺色の瞳。
左の口角近くのえくぼ……
素敵♡
でも実物の方がもっと素敵♡
いい匂いがするし、背も高いし、がっしりしてるし。
俺の頬を両手でガッと掴んだときの、あのアップときたら…
うっふぅ~♡
妄想の中に浸っていたジュノは、ドアの開閉音は意識の圏外だった。
「ほぉ。俺の後宮の中で他の男の写真とは。
いい度胸だなぁ……。」
地を這うような低音が、ぶつりと妄想を断ち切った。
はぅっ?と、幸せの国に彷徨っていたジュノがその上気した顔を向けた時、アドル王子は肩をピクリと揺らした。
アドルの眉を顰めた三白眼を認めて、ジュノは飛び上がる。
「アドル様!な、なんでここに⁉︎」
「ここは俺の後宮だ。
いつ来てもいいだろうが。」
不機嫌そうな顔ですツカツカと近寄ってくる。
咄嗟にジュノはブロマイドを胸に抱き込んだ。
「誰の写真でシてたんだ。」
「シてません‼︎」
そう、妄想だけだ。
愛する宰相閣下を汚すなんて‼︎
ふん。
と、アドルは鼻で笑った。
「可愛い子ぶったってもう遅いぜ。この淫乱。」
「い、淫乱…」
びっくりして飛び上がりそうな肩をぐっと片手で押して、抱えた写真を掴む。
「寄越せ。見てやる。」
「嫌です。止めて下さい。」
ぎゅっと抱き抱えても力が違う。
直ぐに手を押されて奪い取られた。
「やめて!返して下さい!」
手を伸ばすジュノをいなしてアドルはブロマイドを見る。
ーーー宰相!
「返してください!」
その手に飛び付いたジュノを払い除けた時、拳が右頬にクリーンヒットした。
ジュノの目の中で星が散った。
「あっ」と何処かで声がした。
浮遊感にのまれながら、ジュノは壁に激突していった。
多分、一瞬気を失っていたのだろう。
ずきんずきんとする熱さに、そっと目を開けると右の視界が小さい。
ゆるゆる動くと、背中がズキンとした。
「だ、大丈夫か?」
どこかで声がする。
あれ?誰の声だっけ?
俺、どうしたんだろう。
右の顔が、なんか分厚いみたいな…
ずるずると起き上がると、床の上にくちゃくちゃになった宰相閣下のブロマイドがあった。
ふるふると拾い上げる。
ああ、宰相閣下が。
宰相閣下の顔に縦線が。
宰相閣下の顔に汚れが。
………。
堰を切ったように、涙が湧いて来た。
熱い涙がぽろぽろ溢れる。
でも右からは出口が小さくて、なかなか流れていかない……。
「大丈夫か?」
再び声がした。
見上げるとアドル様がいた。
ちょっと見たことない顔している。
……でも。
…でも……
「お、俺だって、あんたのこと大っ嫌いだよっ‼︎ 俺が嫌いだからって、こんな事しなくてもいいじゃないかっ!」
真っ直ぐ怒鳴ってやりたいのに、喉が震えて声が出ない。
「もう、お茶会はいい。もう、いい…。
……もう、知らない……」
よろよろと立ち上がる。
部屋から出ると、廊下で騒ぎを聞きつけた侍従達がオロオロしていた。
「ジュノ様……お顔が……」
「腫れ、て……」
「しばらく放っておいて。お願いします。」
それだけ言うと、ジュノは後宮から逃げ出していた。
27
お気に入りに追加
1,770
あなたにおすすめの小説

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話
鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。
この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。
俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。
我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。
そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる