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シーシャ・ヴェルバック

11 そして救出

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「ファーブ・グラディスは愚かだな。」

ズボンの裾を掴むと、一気に引かれた。
ズボンの抵抗で脚ががたがた揺れる。
引き剥がされたズボンは脇に投げ捨てられ、自由になった脚はどしゃりと床に落ちた。

感覚は無い。

擦れて傷や痣が出来てるだろうから、痛みは後から来るんだろう。
そう、この薬が抜けた時に。

「お前の友達と名乗る初めて会う奴に、喜んで手紙を託すなんて馬鹿だろうが。」

うるさい。
それが兄上の美点だ!
人を信じるという無垢な尊さだ!

リラクはファーブが第二王子と一緒に自分を引き込んだ訳じゃ無かった事に、心底安堵した。

「貴族として疑わないなど、どうかしてると思うぞ。
あれで俺より年下なら、可愛いと娶ってやってもいいがな」

そう言って、うっひっひと笑う第二王子はリラクのシャツに手を掛けた。
喉も痺れていて、嫌だとも止めろとも声が出ない。
全身が痺れて、脚はぐにゃりとした肉の塊でしか無い。

動かない人体は重い。
脱がせる難しさに剛を煮やした第二王子は、ナイフを握った。

「暴れると傷がつくぞぉ。
まぁ、暴れられないけどな。」

笑いと布が裂けるぴーっという音が合わさって、上着が切り剥がされていく。
冷たさも痛さも無いが、ぐっと押される感じが腹や脇に生まれるので、多分刃が当たって少し切れているらしい。

ちくしょう!
ちくしょう‼︎
怒りと情け無さが腹の中で渦巻いている。
血の匂いがふわりと匂ってきて
第二王子の碧い目が嗤いながら歪んでいて
叫び出したい程にいたたまれなかった。

膝を掴んで開脚された。
床の冷たさも痛さも感じない。
屈辱だけが頭の中でぐつぐつと怨嗟を湧いている。
舐めるような目が気持ち悪い。
眼球をなんとか動かして辺りを見ると、部屋の中の護衛は二人で、ニヤニヤと笑っていた。

第二王子が手を離して立ち上がると、自分の脚がずばんと床に転がる。
身体はもうただの重い物体でしかなかった。

ゆっくりと胸の上に足を乗せられる。
靴底を見せつけるように掲げてから、ゆっくりとだ。
ぐうという肺の圧迫に、リラクはかっと息を吐いた。
それを見下ろす第二王子は愉しそうだ。

「お前に突っ込んでやりたいが、俺はシーシャを待つ身だ。
お前の無事をぶら下げたら、あいつは脚を開くだろう。」

うっひっひ。
靴のままぎゅっと乳首を捻ってくる。

「安心しろ。俺があいつと寝室に消えたら、お前はそこの二人が可愛がってくれるからな」

下衆がっ‼︎
声は出ないけれど、ありったけで睨んだ。
そんな事をしてみろっ!
一生、夜道を歩けないようにしてやる‼︎

リラクの睨みは涙の膜が張っていて、さらに情欲を沸かせた。

リラクの視界には見下ろす第二王子がいる。
シーシャ様を逃さなければ!
シーシャ様が危ない‼︎
その焦りが噴火して意識を埋める。



ふわっ。

隙間風が、床に転がるリラクの頬を撫でた。

ぐぇっ。

向こうから微かな破裂音がする。

ガタッ。
バタッ‼︎

靴底の擦れる音がして、
引き摺る音とドアの閉まる音が同時にした。
「どうした⁉︎」と振り仰ぐ第二王子の顎が鮮やかに見える。

ウ”ゥゥゥ…ン

空気が変わった。

胸の上の足がどかされ、第二王子の影が動く。
丸い視界の端には遠くなった第二王子の顔があって、それが目を見開いて頬を染めた。
「シーシャ!」
声と共に全身から甘いマナが立ち昇る。


第二王子の意識がズレたその隙に、誰かがリラクをさっと抱き上げた。マントに包んでソファに横たえる。
広くなった視界の中に、シーシャ様と第二王子がいた。


シーシャ様が来た。
結界が張られた。
多分護衛は外に捨てられた。
先輩達は容赦なく殲滅しただろう。
でも、何より……

視界の中で第二王子は蕩ける目をしていた。
愛おしい。嬉しい。
全身が、マナが、そう叫んでいる。
下衆でも、マジ恋だったんだ…

リラクはちょっとチリっとした。
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