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その後のリラク

3 楽観的出発

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「よろしいでしょう。」

デイド先生が溜め息をつく様にそう言ったので。
リラクもはぁうっと息を吐いて力を抜いた。
(デイド先生は厳しいので)

事は強みにもなります。あの第二王子は、自分を虚仮にした者を一生許しはしないでしょうしね。」

そんな何とも煮え切らない毒のある言葉を言いながら、デイドは眉を下げてリラクを見つめた。

「彼はシーシャ・ヴェルバック様。
王都の西門から馬車で約半日というところに暮らしてらっしゃいます。その屋敷の中に入り込めたら、確かにもう物理攻撃を仕掛けるバカはいなくなります。でも…下男ですか…」

心配がひしひしと伝わってくる。
そりゃ昨日まで貴族の令息として、爪先から足運びまで気を使っていたのがいきなり平民になるのだ。
言葉使いも習慣も、食事内容すら180度変わる。


リラクはちぎった固いパンを、しょっぱいスープにふやかしてからもしもしと飲み込んで、にっかりと笑った。

「大丈夫‼︎そりゃこの2年で鈍ったけど。
掃除も野営料理もバッチリだし、気配も殺せるから。
やばいと思ったら直ぐにトンズラしてくるよ。」

あっけらかんとしたリラクに、デイドは力の無い笑を浮かべた。
その生暖かい目とすくめた肩に。あ、お小言が始まる。
危険察知したリラクは、先手必須で髪を掴んでナイフで威勢よく切り落とした。
ひいっ。とデイドの喉が鳴る。
ほら、美髪は貴族の象徴だからね。

後戻り出来ないように髪を切ってみると、晒された首筋はすうすうした。
意気消沈したデイドに、そのままショリショリとナイフで整えてもらう。
切り離した馬の尻尾のような髪は、記念にじいちゃんに届けてね、と頼んだ。

「大丈夫。ほとぼりが冷めたら挨拶にいくって言っといて」

あくまでもお気楽な言葉に、デイドは酸っぱい顔をした。



念の為、東門から乗り合い馬車で街道に出る。
馬車が二つ目に停まった場所で降りて王都に引き返す。
そして外壁の外をぐるりと沿って西門を目指した。

王都の外壁は白壁だ。
壁の周りには馬車程の道が沿っていて、その周りには獣避けのブリゴザラが腰ほどに茂り、デイシスも蔓延っている。

巨大な都を抱く壮太な壁。
東西南北の門があって、侵入者を拒む壁。
これは中で護られている各街が、きちんと手入れと補修を決められている。その仕事は貧民窟の住人にも僅かに日銭を与えてくれる。
ブリゴザラやデイシスは、その子供が採取して売る。
そのおかげで餓死者は出ずに、王族は民衆に支持されている。


門は番兵が入る者を精査するが、結界魔法が掛けてある。
害意のある者は弾かれる。

そういえば。
2年前はありがたいお貴族様と言う立場と、じいちゃんの威光で馬車から降りる事も覗かれる事が無かった。
ましてや止まる事も無く門を駆け抜けた。
だから、知らない。
その十人がかりで開閉する巨大な門に、どんな魔道具が設置されているのか知らない。
そんな事を考えながら、リラクは西門へと歩いた。
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