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転んだら立ち上がる

1 リラクと恋バナ

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離れの温室に設えられたテーブルに、レッツェは座っていた。
ミルクティ色の髪を緩く編んで、翡翠の目を祈る様に向けている。
怯えたように縮こまり、胸の前で両手を握ってもみもみする様子は、おこじょの様に可愛いかった。
小柄な身体は筋肉も付いて無さそうだ。
柔らかそうで嫋やかそうでとても可愛い。
リラクは、保護欲を掻き立てられた。

レッツェはリラクの替え玉として、サダムとラブラブデートしていた子だ。

その家柄。家族構成。経済状況。
果てはパン屋への支払い状況まで、デイドが調べてくれた。

密かにと呼び出したリラクに。
『リラク様を救う為に求婚した慈愛に溢れた優しいサダム様』を解放して差し上げて下さい。
と、思い詰めた目をして訴えて来た。
『僕はサダム様をお慕い申し上げまております』と。





ハンターのリラクは見逃さない。
レッツェのきっちりと一番上まで留められたレースの襟に、見え隠れしている擦過傷の青タンを。
いっちゃあ何だがロープの跡がくっきりだ。
カップをもつ細い手首の、袖口からも擦過傷がのぞいている。

いやっ‼︎虐待か⁉︎
と、思ったら。

レッツェの翡翠の目は、熱に浮かされた様にギラギラと愛を語り始めた。

……Mですかっ!

こんな純なおこじょの見た目なのに、倒錯的世界にどハマりですかっ!
ちょっとリラクは引いた。
田舎でデートは
「んじゃ、ローダベアを狩に行こう♡」
「うん♡山二つ分、一緒にいられるんだね♡」
と、おずおずもじもじ手を繋いでいくのが定番だ。
うっかりキスなんかしたら、村に張られた監視の目に見られて
「テメェら若輩者には早い‼︎」
と、叱られる。
罰で走らされると、ヒューヒュー揶揄われて。
もうにっちもさっちも、居た堪れない甘くて酸っぱい上に苦い青い春になるのだ。
そ、それが…緊縛的束縛行為(恥ずかしいので難しい言葉を使った)で愛を確かめ合うってどゆこと。

いっとくがおこじょは肉食獣。
見た目に反して獰猛な獣だ。
呼び出しで、負けないわよ!と毛を逆立てていたレッツェだったが。
あれ?なんか違うかも?と思った。


リラクはデートなる物をした事が無い。
第二王子との殺伐とした会合も。
表面は甘いサダムのガブリ寄りも。
屋敷内で従者に包囲されコントロールされた物だった。
そんな未経験への興味と、恋に生きるレッツェとの波長がピッタリ合った。
そしていつのまにか恋バナが咲いていた。

「うん。辛いよね。秘密なんてやだよね。皆んなに祝福して欲しいよね。」

「そうよね。勝手に側が盛り上がっても心は付いてけないわよね」

「駄目だよぉ。子爵だからって言っても、愛してるんでしょう!」

「うん、あの冷徹さにきゅん♡ときちゃうの。」

「うん。僕にはわからないけど…諦めちゃダメ」

「ああ、諦めたく無い!サダム様と結婚したい!」

「うん。僕も諦めたくない。結婚したく無い!」

「リラクちゃんと替われたらいいのに」

「レッツェと替われたらいいのに」

いつしか二人は潤んだ目で互いを見つめていた。
愛と葛藤と憐憫が互いの傷を舐めていく。
どちらともなく手をとって握り合った。
互いの体温が混ざっていく。

側から見ていると、二匹の小動物が手を取り合って凄く微笑ましい。
なんかなごむ…



「そんなお二人に朗報が御座います。」

盛り上がりをスパッと切って。
怪しい通販の営業のように、デイドがにっこりと笑った。
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