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リラクの最低な日々

1 お約束の断罪

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リラクが断罪されたのは、デビュタントの日だった。
いわゆる婚約破棄からの断罪だ。

デビュタントは15歳という成人の儀の催し物で。
「貴方の色に染まりますぅ」とか、
「心も体も真っさらですぅ」とかをアピるために(本当か知らないが)白を着る。

リラクのように、割とガサツで割とお調子者で、脳みそが筋肉よりな(自称)令息でも。
猫可愛がりするじいちゃんから送られて来た、キラキラと粉雪の様に宝石と刺繍に輝く服はテンションが爆上がった。
朝から従者達に洗われ捏ねられて出来上がった自分は、なかなかイケてて。
父上も兄上も『可愛い』と褒め称えてくれた。

しかも久しぶりに婚約者に会う。
今日は婚約者のエスコートだ。

言っとくがあのバカに会えるのを喜んではいない。
奴に会う日は山積みの仕事も、剣の特訓も緩くなるので、ただ嬉しいのだ。
今回はデビュタントという行事なので。
ダンスの特訓はあったけど、この3日ほど仕事も無くてのんびりできた。

成人したと言う事は、結婚が出来ると言う事だ。
結婚秒読みという地獄から、どう逃げ出すか。
最近そればかりを考えている。


奴とは会場で待ち合わせた。
とっとと王宮の大ホールに着いたのに奴はいなかった。だろうね、と思った。
奴はこの世で自分が一番だとおもっている。

リラクは正直、奴が大嫌いだった。

奴は顔はいい。
外ズラもいい。
ただ頭と性格が残念なだけだ。

奴との月一の顔合わせの茶会は地獄だった。
毒も状態異常も無効にする魔道具をこっそり身につけ、旨そうな菓子一つ口に入れず。
互いにアルカイックスマイルで過ごす。

互いに見つめ合う目は
『ばーか!』だの『とっとと帰れ』に始まって
『お願いしますと泣くんなら、キスの一つもしてやるぞ』というアイメッセージに、
『ばっかじゃねぇの!靴底でも舐めてろよ‼︎』
と、返す殺伐としたモノだった。
(勿論、側から見ると仲良し子良しだ)


いつか婚約解消してやる‼︎
と、この三年間腹の中で叫びながら過ごしてきた。
"解消"だ"破棄"ではない。
何故かと言うと奴は第二王子様だからだ。
いくら嫌悪していても、こっちから破棄は出来ない。


そしてようやくやって来た第二王子にエスコートされ、王様に言祝がれた。
……なんだ、第二王子、凄く機嫌が良い。
なんか嫌な予感がする…



ダンスタイムになり、オーケストラがジャンと初音を奏でる前に。
第二王子はずんずんと中央に陣取って、ばっと両腕をひろげた。

「リラク。お前とは婚約破棄をする。」

しんとした会場に声が響いた。

……何故、今?

「お前は私の伴侶になる為の教育を怠ってきた」


【真実の愛】とかでも、無いんかーい‼︎


最近の小説は真実の愛による断罪が流行りだ。
せめてそっちかと思ってたのに。
教育ぅ⁇
しょぼい!
しょぼいぞ王子!
こんな大ホールで盛大に断罪の理由が「教育を、怠っている」とかって、しょぼ過ぎるーっ


言っとくがリラクは出来る子だ。
脳みその六割を筋肉で造られてても(自社比)必死で勉強した。負けたくなくて、弱味を見せたくなくて、そりゃもう頑張った。

第二王子の伴侶だから、やがて臣籍降下なので教育は主に領地経営的なもの。
それをガンガン詰め込まれた。
いつのまにか第二王子宛の書類も回され、仕事ばっかやっていた。

そんなリラクの仕事と教育か怠っているなんて、どの口が言う!
リラクは心底イラッとした。


~~これは大暴れ案件だ。
怒と暴と叩しかない。
無事に破棄は賜った。

リラクはきゅっと握った手を緩めると、大きく息を吐いた。そして、大きく吸う。
そう、体の隅々にエネルギーを行き渡らせるのだ。

ふっふっふ。

言っとくがリラクは強い。
じいちゃん直伝の体術で、とても強い。
それは三年前に身に染みてわかっている筈だ。
だから反撃されないように、人目のあるここでぶち上げたんだろうが甘いです。こちとら淑やかに我慢するタマじゃないですから。
ひっさしぶりに大暴れしてやる。
『動転して、訳がわからなくなってましたぁ』
って看板を押し立ててボコボコにしてやる。

リラクはぎしりと目を上げた。
第二王子の中身スッカスカのイケメン面をロックオンした時、



「お待ち下さい‼︎」


低音イケボが騒めきを両断した。


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