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1 "しり"との遭遇

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リィ…ン リィ…ン
と、遠くからか細い虫の音が聞こえてくる。
静かな室内には、ペンが紙を引っ掻くシャカシャカと言う音だけが聞こえていた。

耳を澄ませば遠くの虫は、
ガチャガチャやリーリーと、いろんな音がする。

冬はダイレクトに寒さが来るが。
このコンサバトリーを執務室にして正解だった。
何より煩わしさが無い。
この屋敷の端っこに来るのは、執事のジャスと従者くらいだ。
おかげで仕事が捗る。

イースタンは領地からの陳情書を隅から隅まで読んで、[可]とサインした。
このまま今夜は溜まった書類の山を削るつもりだ。


机に俯いた顔。
落ちた髪に閉ざされた額に、なんとなく灯りが透けて見えた。
ほのかで薄い灯りは、ちかちかと微かに点滅している。
いつもなら気付かないほどに小さな灯りだ。

蛍か?

庭の水場まで遠いのに。
そろそろ季節は晩夏。
名残の蛍だな。

微笑ましくて口の端を上げたまま顔をあげて。
イースタンはげっ!と、舌を噛んだ。



庭に抜ける掃き出し窓に。
その灯りは挟まっていた。

窓に挟まってわたわたともがいている。
って、室内から逃亡を図って挟まったようだ。


イースタンはポロリとペンを落とした。
書類にバウンドして転がるペンが、黒インクを水玉模様のように付けていく。


イースタンは乾く程に目を見開いた。


ソレは蛍では無かった。

窓に挟まってばたばたするもの…。

イースタンは自分の頭を疑って、何度もがん見した。

ソレはつるりとしたたぶに室内の灯りを反射させただった。
ズボンもパンツも遮るものは無い。
まっぱの、裸の、だった。


イースタンの息は止まっている。

窓に挟まったは。
左右にぷるぷると揺れて、窓を開けようとしている。
ゆるゆると上下に揺れながら、なんとか隙間からでようとしていた。


「はあぁぁぁぁっ‼︎」

止まった息は吐き出される。
気の抜けた大声と一緒に吐き出された息に。
はびくっと飛び上がった。


多分こっち見た!

普通、当然、しりの前面はナニだ。
他人のナニは見たくない。

思いっきり眉を顰めてその衝撃を待ったが。
そこは宇宙のように暗く透けた銀河があった。
つまり、はっきりくっきりナニは見えなかった。

だけがはっきり見える。
後の全身は薄ぼんやりした煙のような、影に見える。
ありがたい事に前面はモヤっとした影で、ナニもはっきりは見えなかった。

夜。
離れの執務室。
摩訶不思議な

その人型の影に対峙する焦りよりも。
人のナニを見なかった事に、イースタンは心底安堵した。
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