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テミスの日常

2 タイナ兄ちゃん

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剣で生きようと決意したタイナ兄ちゃんは、隣の領地に盗賊討伐に来た騎士団に直訴した。
そして見事に腕を認められて、王都に連れて行かれた。

もう少しで"厄介叔父"という立場を回避した兄ちゃんは、家族全員に万歳三勝で見送られた。

神様みたいに綺麗で優しいアフロディ兄ちゃんは。
父親がハスの糸程の伝手をたぐって、王都の夜会に出たら、そりゃもう大激震で。ワキワキした貴族の坊ちゃん達にまとわりつかれた。
そのうちの伯爵家の後継に、縋られ、泣かれ、懇願されて、嫁に行った。

玉の輿って奴だ。
持参金なんて目じゃ無い金持ちで、むしろ支度金をどどーんとよこした。


父親に、子供が金になる事をわかってしまった。
家には後、四・五・六といる。
一度美味しい思いを味わった父親は止まらなかった。

で、いつのまにか四男が嫁に行ってた。
いや、売られてた。

嫁にとか政略結婚とかって、聞こえはいいけどさ。
布団をあっためる、SEX可能な労働力だからね。

そう嗤ったのは五男の兄ちゃん。

四・五と父親に呼ばれてた兄ちゃん達は、綺麗だしかっこよかった。
でもタイナ兄ちゃんとアフロディ兄ちゃんに比べたら。
そりゃ、神様と人くらい違う。
銀貨と鐚銭程に違う。
二人がすんごく抜きん出てたんだけど、小さい頃から比べられて来た四・五男の兄ちゃんは、心が折れて諦めていたんだと思う。

五男の兄ちゃんも抵抗もせずに嫁に行った。



テミスは毎日ドキドキしていた。
残るのは僕だけ。
長兄にもう直ぐ嫁が来る。
そしたら成人した途端、売られるんだ。
なまじっか勉強してたから、不安が湧いてくる。


そんな時。
王宮の侍従募集ポスターの噂を聞いた。

隣の領地で行われる試験に、一か八かで駆け付けた。

アフロディ兄ちゃんは、筋肉の育たないテミスが嫁にいけるように勉強以外にもマナーや刺繍を教えてくれてた。
そして自習出来るように、ノートを残してくれてた。

そんな訳で貴族としての最低知識とマナーはある!多分、きっと。
あとは度胸と愛想だ!

と、望んで。
無事に一発逆転ホームランを果たした。


既にテミスの嫁ぎ先を交渉していた父親は、渋い顔をしたが。
合格証書の王家の紋章に逆らえなかった。
だって王様のおかげで領地も爵位も貰ってるからね

テミスにとって王家の紋章が、あれほど有り難かった事は無かった。

ケチな父親は、
「旅費も支度金も無いからな。」
「育ててやったんだ。給料から仕送りしろ。」
と、ぶつぶつ言ってたがこっちのもんだ。


"仕送り"
タイナ兄ちゃんが出てくとなった時。
「財産分けずに出てってくれるなんて、ラッキー☆」って立ち位置で。
仕送りなんてこれっぽっちも言わなかったのに。
長兄も剣で強いタイナ兄ちゃんにびびってたから
「領地を分けなくて良かったラッキー☆」
って喜んでた。
だからタイナ兄ちゃんは
「実家と縁を切りました」って家名も名乗らず。
王都で伸び伸びと暮らしてた。



テミスはタイナ兄ちゃんに、薄給じゃいけないようなレストランに連れて行って貰った。
マナーの練習だよ。
と言いながら、にこにこしている。
おしめを替えてくれてた兄ちゃんは、テミスに甘い。

タイナ兄ちゃんは今や第三騎士団の副団長にまでなっている。
つまり高級とりの出世頭で、肉食獣の羨望の的だ。

一緒に歩いていると、沢山の視線がグサグサ刺さる。
でも、無視だもんね。


なんか体の関係のある騎士達は、相手を兄弟と呼び合うそうだ。
『兄ちゃん♡』と読んだ事で周りは誤解しちゃったらしい。

タイナ兄ちゃんはモノホンの兄ちゃんだけどね。
家名を上司以外に公開してない兄ちゃんは、表向きテミスとは関係ない。
似てないし、もろ恋人同士に見える訳。


でもまぁ。
そういう誤解をしてもらおうと、大声で兄ちゃんと呼んだ訳なんだけどね。


筋肉があるのに、賢くて堅実なタイナ兄ちゃんは、給料をきっちりと貯金している。

「お前の面倒くらいみてやるからな。」

なんて言われちゃって。
ほろりとどきゅん♡で、

兄ちゃんって、やっぱサイコー♡
と、テミスは思ってた。

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