王宮侍従テミスの、愛と欲望のサスペンスな日常

たまとら

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テミスの日々

1 仕送りの愉しみ

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 王宮の送達部門の建物に行く。
 そのまま一般向けの受付に並ぶ。

「おや、テミスちゃん。今月も送るのかい?」

顔馴染みになった窓口の文官のおじさんが、にこにこと声を掛けてきた。

「はい。お願いしますね♡」

テミスは猫被りの可愛い笑顔で封筒を差し出した。


 パン‼︎
 パン‼︎

手のひらくらいのハンコが押される。
ハンコの色は赤。
着払いだ。


テミスの口元はによによして。
今、猫を被ってるわけでもないのに、幸せオーラが溢れたらしく。隣の窓口のおじさんからお菓子を貰ってしまった。

お菓子なんて贅沢品。
自分じゃ買ったり出来ないから、
すんごく、すんごく嬉しくて。
全力きゅるん♡と、お礼を言ったら、照れて赤くなっていた。



 手紙を送る相手は父親。
 今日は給料日の翌日。
 まぁ、『仕送り』って奴ですよ。

 送達の方々は
「なんてええ子や」
「あんな子供が欲しい」
 と、仕送る僕にメロメロだ。



 チョロい。


 考えて欲しい。
 スタンプは赤。
 つまり着払いだ。

まぁ、男爵家へ送ってる訳だし。
所詮新米侍従の給料。薄給だよね。

「え、仕送りしたい?パパ感動しちゃう♡
 良いよ良いよ。パパが送料払うから♡」
ってドラマが、頭の中で繰り広がってるのに違い無い。

 ついでに
「お前の嫁入り道具に揃える為に貯めとくからね」
と、妄想が広がってるんだろう。



 はっはっは。
 甘いね。


あれは初給料の日。
初めて貰った給料を握りしめて感動した。
寮も食堂も制服もある。
つまりこの給料は、自分の服や美味しいモノを買ってもいいんだね♡
今まで家では現物支給(野菜や木ノ実)で、小遣いなんて無かった。

初めて手にするお金にるんるんしながら、送達部門の建物に行った。
そして実家への送料を見たら、血の気が引いた。

ほぼ銀貨一枚!
コレで仕送りを入れたら、金が無くなる‼︎


そりゃ、実家は僻地。
しがない男爵くらいしか、貰ってくれないような僻地が領地だ。
猫の額のような領地に、周りは険しい山ばかり。

 ……送料があったら。
美味しいお菓子が10個は買える。
薄くなった靴下も三足セットで買えるのに。



そしてがっくりと肩を落としてたら、めざとくハウスさんに捕獲されたのだ。


嫁に売られるのが嫌で侍従試験を受けた事。
一発逆転ホームランだったこと。
バックが王宮なので、父親が引いたこと。
その代わり仕送りしろ。って言われた事。

ずびずび泣いてそう言ってたら、トットさんがにやりと笑った。

「いくら送れって言われて無いんだから、銀貨一枚を着払いにしてやんな。」

銀貨一枚から送料を引いたら銅貨が数枚しか残らない。



 休憩所で車座になっていた大先輩達は、人の悪い顔でうっひっひと笑った。


 いつの間にかテーブルにはお茶とお菓子が溢れてて、「いっぱい食べな。」と頭を撫でられた。




 わくわくと封筒を受け取って。
残った小銭に歯軋りする父親の顔が浮かぶ。


はっはっはっ!

ざまぁみろっ‼︎


コレはもう戦いだ。
何回分の銅貨を貯めて、文句の手紙を送ってくるか。
赤字のまま怒りの手紙を送ってくるか。
もう諦めると思って、受取拒否をしてくるか。


そんな事を笑い合ううちに。

僕はこの日がちょっと愉しみになった。
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