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結婚への道  レイト

7 行き着くとこに行っちゃった訳

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レイトのぐらつきを見とって、クレスト兄様はテーブルの上に地図を広げた。

「婿殿はこのたびグランハルトを拝領なさる。
今なら好きな所を選べるからね。」

王国の北側のグランハルトは公爵領だ。
端っこに稜線と湖がある。
あ、ここ絵本でも有名な妖精伝説のタニーア湖畔だ。
そんなレイトの視線は丸わかりの見え見えで、クレストはずばんと指差した。
その湖畔には避暑地として山荘の絵が書いてある。

「ここなら人も少ないし妖精も野良でフラフラしてるだろう。
この土地を頂くと契約すれば後はのんびりゆったりだねぇ。」

うん。そうかも。
それ、いいかもしれない。

そんなぐらついて横倒しになった心を立ち直す暇も与えず、呼び鈴が押された。
きゃーと待ちかねた母様が雪崩れ込んできて淑女らしからぬヒールでぴょんぴょんしてレイトに飛び付いてきた。

「お嫁さんなのねっ!結婚式なのねっ!
いやぁん、デザインを決めなくちゃあ‼︎」

「母様、明日契約書にサインしますが、先方の都合で多分結婚式は一週間後です。
すみませんが時間はあまり御座いません。」

え?
"うん"はそうだねの"うん"であって、了承の"うん"じゃ無いんですけど。

「何ですって、一週間⁉︎そんな馬鹿な!」

そうです母様。
言ってやって下さい。
そんなわけのわからんちんで末っ子を売り飛ばすのかって言ってやって下さい。

「一週間じゃ素敵なお衣装が出来ないわっ
ベールも領地から持って来れないじゃないのっ!
あのウェディングベールは代々引き継いできた幸せのベールなのよっ!」

なんか違う。
それでもいい。物言いをつけてくれ



「待ちなさいシャリーン。ベールはあるよ」

おっと。トランク片手に父様が乱入だ。

もあろうかと、持ってきてたんだよ。」

トランクの中には、引きずる事推定30メートルの雲のように美しいウェディングベールがあった。
ちょっと待て。
ってナニ⁉︎

「今でも目に浮かぶよ。花嫁の君は女神の様だった」
「あなたこそまるで王子様のようでしたわ。跪かれてどんなにときめいたか。
わたくしのドキドキが聴こえたらと震えてましたのよぉ」
「今でも綺麗だよシャリーン」
「あなたも素敵よぉ」
♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡

あかん。二人の世界に突入してる。
いや、ほんと待って。
領地出る時から決まってたの?

リアルドナドナにレイトは震えた。

一週間って何でそんなに切羽詰まってるの。
なんてこんなに推してくるの。
クレスト兄様、自分は結婚まだなのにどうして逃げ道埋めてくるの!


オロオロするレイトは、コツコツと窓を突く音に気がついた。
鳥。
伝書鳥!
慌てて窓を開けると、バサバサとクレスト兄様に飛んでいく。

色は野バトと同じ青みがかった灰色。
マル秘や緊急では無い。
クレストはすぐに魔力を流した。


「有給休暇中に申し訳御座いませぇん」

裏返った中年の声が流れた。

「クレスト様の休暇中に、長官は真面目にEDの魔道具を改良されまして『今日も元気に勃ったくん』を4号まで作られました。もう商業ギルドに渡せるまでになったと思って職員一同目を離してしまいました。
そしたら昨夜抜け出して泥酔なさったようで、今朝になって警らに捕獲されて帰って来て『ねぇゲロって見かけと臭いが悪いよね』と言い出したんですぅ」

レイトの頭の中にストレスで薄毛になった中年がオロオロする姿が浮かんだ。

「『口からキラキラくん』を作るよっ!と宣言されましてぇ。
職員は王都を巡って吐瀉物を採集させられています。
研究所は目に染みる臭いで溢れて、もぉもぉ大変なんですう。
お願いです‼︎長官を止めてください!
もう、クレスト様だけが頼りなんですう」

その後、鳥からは録音が切れるまで嗚咽が続いた。

クレスト兄様の眉間にマリアナ海溝よりも深い一本皺が縦に完成した。

「明日は一人で行けるかな?」

え、今から行って始まる説教が明日をも蹂躙するってことですかぁ?

クレスト兄様の笑顔の圧に頷いてしまったレイトだった。
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