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8.罰
罰※2
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「西園寺さん」
床から跳ね起きる。
気がつけば洋館の広間にいた。
戻ってこられたのだ。
ハッとするが見渡しても誰もいない。
見知ったこの部屋の主人も。
いない。
どこにもいない。
その時、廊下から誰かが入ってきた。
「お目覚めかい助手くん」
その姿に目を丸くする。
「か、烏丸さん?」
「馬鹿みたいに寝てたね」
ニヤニヤと笑いながら俺を見下ろしている。
いつもの黒い制服に帽子、眼帯をしてなぜかその手には珈琲カップを持っている。
「なんでここにいるんですか?」
「なんでだろうねえ。誰かさんがここで助手くんを待ってろとか言ったからかな」
意味深に言って珈琲を口に運ぶ。
ハツが部屋に入ってきた。
すかさず、烏丸がレコードプレーヤーを操作する。
『ご無事でしたか』
なんとなく安堵したようなハツの顔に泣きつきそうになる。
そんな気分を叱咤して、言った。
「はい。ご心配おかけしました」
『病院に入ってお目覚めにならないと聞いたもので。……そのままだったらどうしようかと』
なんでそこまで知っているんだ。
隣に目をやると烏丸がウインクしている。
なるほど、全て筒抜けというわけか。
「あの……」
俺はなんとか声を絞り出す。
「……西園寺さんは」
『行方がわからないとお聞きしています』
ハツは俺の言葉を引き継いでくれた。
比較的落ち着いて見えるのはいつもの無表情のためか。
ドンと何かが机の上に置かれた。
青紫色の花が鉢植えにささっている。
「俺からのお見舞いの品だよ」
空気を読まず烏丸が言う。
「二人ともそんなシケた顔しなさんなって。西園寺さんがそんなすぐ死ぬと思ってんの?」
「そう……ですよね……」
普通なら苛立つ無神経さも気づかってくれているのだとするとありがたいことだ。
『この花は造花ですね』
鉢植えを見てハツが言う。
「そう。偽物だけど綺麗でしょ」
「何の花ですか?」
初めて見た。
俺も鉢植えを覗きこむ。
「竜胆だよ。ほら」
カードが刺さっていた。ギフト用のようだ。
俺のほうを見て言う。
「一人で帰ってくるかどうかで西園寺さんと賭けをしたんだ」
またか。
「前は西園寺さんの勝ちだったけど今度は俺の勝ちだよ」
俺は目を伏せる。
そうだ。俺は一人で帰ってきてしまったのだ。
烏丸がハツにカップを手渡した。
「ありがとう。美味しい珈琲だね」
入れ替わりのようにハツはそっと俺に別のカップを渡してくれる。
「ありがとうございます」
俺のは紅茶だった。
病み上がりだからか、ほのかな蜂蜜の味がしてほっとする。
いつか話した西園寺の言葉がふと思い出された。
「紅茶と緑茶と烏龍茶はすべて同じ茶葉なんだよ」
「えっそうなんですか?」
俺は驚く。味も見た目も全く違うので別物だと思っていたからだ。
「発酵度合いの差でそうなるんだ。今どき小学生でも知っていることだと思うけど」
なぜこんな会話を今思い出したんだろう。
見た目が違っても本質的には同じ……。
ふと、鉢植えのギフトカードに目がいく。
竜胆の花言葉、と書いてあった。
目を見開いて俺は烏丸さんを見る。
ハツさんが持っていたお盆にカップを返して俺は言った。
「あのハツさん電話の使い方教えてもらっていいですか?あと番号も」
そう言われるのがわかっていたかのようにハツは手際よく教えてくれる。
俺がかけようとしていた人物の番号もどこからか取り出してきてくれた。
「ありがとうございます」
俺は電話をかけて目的の人を呼び出す。
すぐに会ってくれることになって、約束を取りつけると俺は電話をきった。
「ハツさん、ちょっと出てきます」
俺を思わしげにジッと見た後、ペコリと頭を下げる。
『お気をつけて。件さん』
俺は微笑んだ。
「すぐ帰ってくるので、またお茶飲ませてください」
ハツは頷く。
玄関から出ると烏丸が待ち受けていた。
「どちらまで行きます?お客さん」
床から跳ね起きる。
気がつけば洋館の広間にいた。
戻ってこられたのだ。
ハッとするが見渡しても誰もいない。
見知ったこの部屋の主人も。
いない。
どこにもいない。
その時、廊下から誰かが入ってきた。
「お目覚めかい助手くん」
その姿に目を丸くする。
「か、烏丸さん?」
「馬鹿みたいに寝てたね」
ニヤニヤと笑いながら俺を見下ろしている。
いつもの黒い制服に帽子、眼帯をしてなぜかその手には珈琲カップを持っている。
「なんでここにいるんですか?」
「なんでだろうねえ。誰かさんがここで助手くんを待ってろとか言ったからかな」
意味深に言って珈琲を口に運ぶ。
ハツが部屋に入ってきた。
すかさず、烏丸がレコードプレーヤーを操作する。
『ご無事でしたか』
なんとなく安堵したようなハツの顔に泣きつきそうになる。
そんな気分を叱咤して、言った。
「はい。ご心配おかけしました」
『病院に入ってお目覚めにならないと聞いたもので。……そのままだったらどうしようかと』
なんでそこまで知っているんだ。
隣に目をやると烏丸がウインクしている。
なるほど、全て筒抜けというわけか。
「あの……」
俺はなんとか声を絞り出す。
「……西園寺さんは」
『行方がわからないとお聞きしています』
ハツは俺の言葉を引き継いでくれた。
比較的落ち着いて見えるのはいつもの無表情のためか。
ドンと何かが机の上に置かれた。
青紫色の花が鉢植えにささっている。
「俺からのお見舞いの品だよ」
空気を読まず烏丸が言う。
「二人ともそんなシケた顔しなさんなって。西園寺さんがそんなすぐ死ぬと思ってんの?」
「そう……ですよね……」
普通なら苛立つ無神経さも気づかってくれているのだとするとありがたいことだ。
『この花は造花ですね』
鉢植えを見てハツが言う。
「そう。偽物だけど綺麗でしょ」
「何の花ですか?」
初めて見た。
俺も鉢植えを覗きこむ。
「竜胆だよ。ほら」
カードが刺さっていた。ギフト用のようだ。
俺のほうを見て言う。
「一人で帰ってくるかどうかで西園寺さんと賭けをしたんだ」
またか。
「前は西園寺さんの勝ちだったけど今度は俺の勝ちだよ」
俺は目を伏せる。
そうだ。俺は一人で帰ってきてしまったのだ。
烏丸がハツにカップを手渡した。
「ありがとう。美味しい珈琲だね」
入れ替わりのようにハツはそっと俺に別のカップを渡してくれる。
「ありがとうございます」
俺のは紅茶だった。
病み上がりだからか、ほのかな蜂蜜の味がしてほっとする。
いつか話した西園寺の言葉がふと思い出された。
「紅茶と緑茶と烏龍茶はすべて同じ茶葉なんだよ」
「えっそうなんですか?」
俺は驚く。味も見た目も全く違うので別物だと思っていたからだ。
「発酵度合いの差でそうなるんだ。今どき小学生でも知っていることだと思うけど」
なぜこんな会話を今思い出したんだろう。
見た目が違っても本質的には同じ……。
ふと、鉢植えのギフトカードに目がいく。
竜胆の花言葉、と書いてあった。
目を見開いて俺は烏丸さんを見る。
ハツさんが持っていたお盆にカップを返して俺は言った。
「あのハツさん電話の使い方教えてもらっていいですか?あと番号も」
そう言われるのがわかっていたかのようにハツは手際よく教えてくれる。
俺がかけようとしていた人物の番号もどこからか取り出してきてくれた。
「ありがとうございます」
俺は電話をかけて目的の人を呼び出す。
すぐに会ってくれることになって、約束を取りつけると俺は電話をきった。
「ハツさん、ちょっと出てきます」
俺を思わしげにジッと見た後、ペコリと頭を下げる。
『お気をつけて。件さん』
俺は微笑んだ。
「すぐ帰ってくるので、またお茶飲ませてください」
ハツは頷く。
玄関から出ると烏丸が待ち受けていた。
「どちらまで行きます?お客さん」
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