15 / 29
15、仮面冒険者、家電になる
しおりを挟む
若手冒険者の街――原宿。
一獲千金を夢見た若者たちで喧騒に包まれていた原宿は今、政府調査によるダンジョン封鎖により閑散としつつあったのだが、今朝はいつもと違う物々しい光景となっている。
「――燃えてるアルパカ、見れんのかな?」
現在日本のSNSで一番バズっているといっても過言ではない仮面冒険者アルパカを一目見ようと朝早くから若者たちが原宿ダンジョンの入り口前に集まっている。
若者たちの好奇の視線を一身に受けているのはまだ現れていない話題の仮面冒険者ではなく『政府のどちゃくそエロいお姉さん』として定着してしまった桂城和奏だった。
(こんな衆人環視の中で本当に現れるのかしら?)
桂城和奏はそのダンジョンスーツから溢れんばかりの胸を野次馬からの視線から守るように腕を組み、そう思案する。
そろそろ約束の9時になる。
防衛省ダンジョン対策支部局の職員に合図してライブ配信を始める。
『――この配信をご覧になってる日本国民の皆様、改めまして私、防衛省ダンジョン対策支部大将補佐官桂城和奏と申します』
『仮面冒険者アルパカ氏はまだこの原宿ダンジョン前に姿を見せていません。今しばらくお待ちください』
:和奏ちゃん今日もエロくて助かる
そういったコメントは配信担当者がブロックし続けた結果、今回の調査配信に対する真面目なコメントで埋め尽くされた。
:今日はどんな姿で来るかな?
:燃えてる状態で街歩いたら大騒ぎだろ。だから鳥で上空からだな
:かなりまともな推理きたな
このコメントが目に留まった配信担当者は和奏に『空』と口の動きと目線で伝える。
1時間以上も前、朝7時から現場待機していた和奏は完全に意識の外だった上空を見やる。
遥か上空にたしかに炎らしき何かに視認できてしまった事に和奏は驚く。
9時になったその瞬間、小さな炎が徐々に大きくなり、地上へ急降下する。
ダンジョン対策支部所属の自衛隊員らが上空を意識し始めた事で野次馬たちも空の異変に気づき始める。
「おいおいなんだあれ?」
「仮面冒険者炎きたあああああ!!!」
そして騒ぎ始めた群衆は徐々に仮面冒険者の姿を把握し困惑する。
地上着地で寸前で落下速度が緩み、ふわりと原宿ダンジョンの入り口前に降り立ったのは――。
(((((――なんで冷蔵庫????))))))
ライブ配信の画面にも燃えてる冷蔵庫の姿が映し出され、視聴者たちのコメントが殺到する。
:ちょwなんで冷蔵庫ww
:家電できたかw
:冷蔵庫燃えてて草
:食料保存機能完全に失ってて草
:朝っぱらから空から燃えてる冷蔵庫が降ってくる衝撃映像
:初手から笑わせに来てるじゃんこの仮面冒険者
和奏は目の前に現れた炎揺らめく冷蔵庫を見て、目を閉じ一度深呼吸をした後、そのルージュで潤った紅色の唇を開いた。
「おはようございます」
「おはようございます」
「何故?今回は冷蔵庫なのかお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「SNSでアルパカがドナドナされてる画像を見て凹んだんで今日は家電がいいかなって」
:またエゴサして凹んでて草
:このドラゴンスレイヤー、メンタルが課題なり
:冷蔵庫に話しかけなきゃいけない桂城さんが不憫シュール
「……防衛省ダンジョン対策支部といたしましては貴方を酷使し続けるような腹積もりはございませんので。政府と提携している冒険者クランと同様に適切な協力関係を築いていきたいと思っています」
「とりあえず土日は休みたいです。あと朝は推しのVライバーの子に『おはよう。いってらっしゃい』って言ってもらえる時間は欲しいです」
:配信が日常になりすぎてて草
:完全に配信が心の支えの社畜生活送ってた人やん
:夜は晩酌配信5窓してそう
:もっと早く冒険者になってれば良かったんじゃないの?
:いやまあ冒険者はリスク高いから躊躇する奴もいるよ
「現時点の話になりますが今回の原宿ダンジョンの異変調査に御協力いただいた後に更に何かを要請する予定はありませんので」
「ひとついいですか?」
「なんでしょう?」
「政府は今回の異変の原因を突き止めた後、場合によってはこの原宿ダンジョンを潰してもいいと思ってますか?」
「――ッ!」
冷蔵庫のナリをした仮面冒険者からの言葉に現場に緊張が走る。
そしてその言葉の真意を知る視聴者もコメント欄を爆発させる。
:うおおおおおおおおオオオオ!!
:原宿ダンジョン潰す発言=100層完全踏破きたああああああああ!!!
:冷蔵庫にトドメを刺されそうな原宿ダンジョンさんご愁傷様です
「あ、貴方はこのダンジョンの100層踏破が可能なのですかッ!?」
和奏も声を上ずらせながら仮面冒険者に問う。
『――ダンジョン100層踏破は日本人にとって積年の悲願』
国民を守る為、仲間を喪う事も多々あった防衛省の人間であれば尚更である。
「今は異変が起きていて、その時とは条件が異なるので確実に出来るとは言えないですけど……。100層踏破した事はあります」
朝の原宿で燃え盛る冷蔵庫はそう断言してみせた。
一獲千金を夢見た若者たちで喧騒に包まれていた原宿は今、政府調査によるダンジョン封鎖により閑散としつつあったのだが、今朝はいつもと違う物々しい光景となっている。
「――燃えてるアルパカ、見れんのかな?」
現在日本のSNSで一番バズっているといっても過言ではない仮面冒険者アルパカを一目見ようと朝早くから若者たちが原宿ダンジョンの入り口前に集まっている。
若者たちの好奇の視線を一身に受けているのはまだ現れていない話題の仮面冒険者ではなく『政府のどちゃくそエロいお姉さん』として定着してしまった桂城和奏だった。
(こんな衆人環視の中で本当に現れるのかしら?)
桂城和奏はそのダンジョンスーツから溢れんばかりの胸を野次馬からの視線から守るように腕を組み、そう思案する。
そろそろ約束の9時になる。
防衛省ダンジョン対策支部局の職員に合図してライブ配信を始める。
『――この配信をご覧になってる日本国民の皆様、改めまして私、防衛省ダンジョン対策支部大将補佐官桂城和奏と申します』
『仮面冒険者アルパカ氏はまだこの原宿ダンジョン前に姿を見せていません。今しばらくお待ちください』
:和奏ちゃん今日もエロくて助かる
そういったコメントは配信担当者がブロックし続けた結果、今回の調査配信に対する真面目なコメントで埋め尽くされた。
:今日はどんな姿で来るかな?
:燃えてる状態で街歩いたら大騒ぎだろ。だから鳥で上空からだな
:かなりまともな推理きたな
このコメントが目に留まった配信担当者は和奏に『空』と口の動きと目線で伝える。
1時間以上も前、朝7時から現場待機していた和奏は完全に意識の外だった上空を見やる。
遥か上空にたしかに炎らしき何かに視認できてしまった事に和奏は驚く。
9時になったその瞬間、小さな炎が徐々に大きくなり、地上へ急降下する。
ダンジョン対策支部所属の自衛隊員らが上空を意識し始めた事で野次馬たちも空の異変に気づき始める。
「おいおいなんだあれ?」
「仮面冒険者炎きたあああああ!!!」
そして騒ぎ始めた群衆は徐々に仮面冒険者の姿を把握し困惑する。
地上着地で寸前で落下速度が緩み、ふわりと原宿ダンジョンの入り口前に降り立ったのは――。
(((((――なんで冷蔵庫????))))))
ライブ配信の画面にも燃えてる冷蔵庫の姿が映し出され、視聴者たちのコメントが殺到する。
:ちょwなんで冷蔵庫ww
:家電できたかw
:冷蔵庫燃えてて草
:食料保存機能完全に失ってて草
:朝っぱらから空から燃えてる冷蔵庫が降ってくる衝撃映像
:初手から笑わせに来てるじゃんこの仮面冒険者
和奏は目の前に現れた炎揺らめく冷蔵庫を見て、目を閉じ一度深呼吸をした後、そのルージュで潤った紅色の唇を開いた。
「おはようございます」
「おはようございます」
「何故?今回は冷蔵庫なのかお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「SNSでアルパカがドナドナされてる画像を見て凹んだんで今日は家電がいいかなって」
:またエゴサして凹んでて草
:このドラゴンスレイヤー、メンタルが課題なり
:冷蔵庫に話しかけなきゃいけない桂城さんが不憫シュール
「……防衛省ダンジョン対策支部といたしましては貴方を酷使し続けるような腹積もりはございませんので。政府と提携している冒険者クランと同様に適切な協力関係を築いていきたいと思っています」
「とりあえず土日は休みたいです。あと朝は推しのVライバーの子に『おはよう。いってらっしゃい』って言ってもらえる時間は欲しいです」
:配信が日常になりすぎてて草
:完全に配信が心の支えの社畜生活送ってた人やん
:夜は晩酌配信5窓してそう
:もっと早く冒険者になってれば良かったんじゃないの?
:いやまあ冒険者はリスク高いから躊躇する奴もいるよ
「現時点の話になりますが今回の原宿ダンジョンの異変調査に御協力いただいた後に更に何かを要請する予定はありませんので」
「ひとついいですか?」
「なんでしょう?」
「政府は今回の異変の原因を突き止めた後、場合によってはこの原宿ダンジョンを潰してもいいと思ってますか?」
「――ッ!」
冷蔵庫のナリをした仮面冒険者からの言葉に現場に緊張が走る。
そしてその言葉の真意を知る視聴者もコメント欄を爆発させる。
:うおおおおおおおおオオオオ!!
:原宿ダンジョン潰す発言=100層完全踏破きたああああああああ!!!
:冷蔵庫にトドメを刺されそうな原宿ダンジョンさんご愁傷様です
「あ、貴方はこのダンジョンの100層踏破が可能なのですかッ!?」
和奏も声を上ずらせながら仮面冒険者に問う。
『――ダンジョン100層踏破は日本人にとって積年の悲願』
国民を守る為、仲間を喪う事も多々あった防衛省の人間であれば尚更である。
「今は異変が起きていて、その時とは条件が異なるので確実に出来るとは言えないですけど……。100層踏破した事はあります」
朝の原宿で燃え盛る冷蔵庫はそう断言してみせた。
217
お気に入りに追加
628
あなたにおすすめの小説
錆びた剣(鈴木さん)と少年
へたまろ
ファンタジー
鈴木は気が付いたら剣だった。
誰にも気づかれず何十年……いや、何百年土の中に。
そこに、偶然通りかかった不運な少年ニコに拾われて、異世界で諸国漫遊の旅に。
剣になった鈴木が、気弱なニコに憑依してあれこれする話です。
そして、鈴木はなんと! 斬った相手の血からスキルを習得する魔剣だった。
チートキタコレ!
いや、錆びた鉄のような剣ですが
ちょっとアレな性格で、愉快な鈴木。
不幸な生い立ちで、対人恐怖症発症中のニコ。
凸凹コンビの珍道中。
お楽しみください。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう
果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。
名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。
日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。
ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。
この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。
しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて――
しかも、その一部始終は生放送されていて――!?
《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》
《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》
SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!?
暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する!
※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。
※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
身バレしないように奴隷少女を買ってダンジョン配信させるが全部バレて俺がバズる
ぐうのすけ
ファンタジー
呪いを受けて冒険者を休業した俺は閃いた。
安い少女奴隷を購入し冒険者としてダンジョンに送り込みその様子を配信する。
そう、数年で美女になるであろう奴隷は配信で人気が出るはずだ。
もしそうならなくともダンジョンで魔物を狩らせれば稼ぎになる。
俺は偽装の仮面を持っている。
この魔道具があれば顔の認識を阻害し更に女の声に変える事が出来る。
身バレ対策しつつ収入を得られる。
だが現実は違った。
「ご主人様は男の人の匂いがします」
「こいつ面倒見良すぎじゃねwwwお母さんかよwwww」
俺の性別がバレ、身バレし、更には俺が金に困っていない事もバレて元英雄な事もバレた。
面倒見が良いためお母さんと呼ばれてネタにされるようになった。
おかしい、俺はそこまで配信していないのに奴隷より登録者数が伸びている。
思っていたのと違う!
俺の計画は破綻しバズっていく。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる