上 下
82 / 87
第九部

第80話「幼馴染たちは、恋の現に身を投じる③」

しおりを挟む
「べ、別に、緊張してるとかそういうわけじゃ……」

「明らかに挙動不審だったけどな。夕飯作ってるときなんか、ほぼほぼ意識飛んでた状態だったし、風呂場で何かに衝突したみたいな音したし」

「ゔっ……」

 な、何も言い返せない……事実だからこそ、尚更だった。

「それにだ。上がってるのは結局幼馴染の家なわけだし、関係が少し変わったぐらいで力むことは無いと思うが?」

「私、晴斗じゃないもん……」

「おいそれどういう意味だこら」

 晴斗が私を『挙動不審だ』と豪語するように、私も実際自身をそう思っている。
 私は晴斗みたいに、物事を冷静に受け止めるような性格なんてしてないし、緊張も、驚きさえもする。

 もちろん、こんなこと根拠が無ければ思ったりしない。
 数週間前の出来事──晴斗は、藤崎君と佐倉さんが『恋人関係』であるということを知っても驚いた素振りすら見せなかった。けれどあの口振りからすれば、私と同様、2人の関係性について何も知らなかったはずなのだ。

 最早表情筋が死んでるんじゃないだろうか? と、本気で心配になるレベルだ。
 咄嗟の不意打ちとかを喰らったときとかに晴斗の表情筋は非常に役立つ能力かもしれないけど、普段使いにはあまり特化してほしくない。

 だって──1人だけ平気そうな顔して、少しズルいと思わない?
 本当、その体質というより耐性、やっぱり欲しいです……。

「……ったく。とりあえずその緊張、どうにかならないのか? 見ててこっちまで不安というか心配になってくるんだけど……」

「……出来てたら当の昔にやってる」

「だよな。……あんまり気乗りはしないが。渚、少しこっちに来い」

「ん? ……何?」

 言い回しから若干やけになったような雰囲気を醸し出しながらも、晴斗は自分のいるベッドの方へと手招きをした。
 何だろう……と、疑問を抱えながら私はその場を立ち上がり晴斗へと近寄った。

 ……何するつもりなんだろう?

「ねぇ、一体何し──」

「──ちょっと黙ってろ」

 私が近づいてきたのと同時に晴斗はベッドから腰を上げ、耳元で小声で囁いた。

 うぅぅ……っと、吐息がぁ、吐息がかかってるぅぅ……!! い、いきなり何!? 何が何どうなって──というか、私……今何されたの……?

 私は思わず目を閉じてしまった。
 それが、運がいいのか悪かったのか、思考がオーバーヒートしかけていた私に更なる追い打ちをかけるが如く、それは迫ってきた。

 そして次に意識がはっきりしたとき、私は晴斗に──

 少し触れただけ。時間にしてたった数秒の出来事だった。
 だが私にとってはそれはこの部屋ごと世界の時間が止まったようにさえ思わされる、そんな出来事と言っても過言ではなくて……。

 頭の整理が完全に追いつく前にそれは離れていってしまった。
 晴斗はまたベッドに腰を掛け、枕元に置いてあった再びラノベを読み始めた。まるで自分がしたことが何事も無いとでも言うかのように──。

「……少しは、取れたか?」

「は、はる……と!? い、一体何を──っ!?」

「緊張を和らげるテクニックだって、昔母さんが言ってた。だから実行してみたんだけど……意外と緊張するんだな、キスって」

「~~~~~~っ!!」

 先程まで考えさえまとまらなかった脳みそが、更に再起不能と化してしまった。思考が全て吹き飛んでしまった。いや寧ろ、最早何を考えていたのかすら覚えていないほどに――。

 彼から貰った『ファースト・キス』は、余計に私の心臓が高鳴っただけだった。
 いや違う。……最早、過呼吸にすら襲われているのではないかと。この異様なまでの高鳴りと、身体を熱くするこの熱には、そんなレベルが到達するのかすら怪しい。

 ……もう。一体どこでそんな技を……っ!
 この子、本当に恐ろしい。──そう思わずにはいられない、私であった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした

黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。 日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。 ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。 人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。 そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。 太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。 青春インターネットラブコメ! ここに開幕! ※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。

怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う

もぐのすけ
青春
神童と言われた天才サッカー少年は中学時代、日本クラブユースサッカー選手権、高円宮杯においてクラブを二連覇させる大活躍を見せた。 将来はプロ確実と言われていた彼だったが中学3年のクラブユース選手権の予選において、選手生命が絶たれる程の大怪我を負ってしまう。 サッカーが出来なくなることで激しく落ち込む彼だったが、幼馴染の手助けを得て立ち上がり、高校生活という新しい未来に向かって歩き出す。 そんな中、高校で中学時代の高坂修斗を知る人達がここぞとばかりに部活や生徒会へ勧誘し始める。 サッカーを辞めても一部の人からは依然として評価の高い彼と、人気な彼の姿にヤキモキする幼馴染、それを取り巻く友人達との刺激的な高校生活が始まる。

処理中です...