隣の家の幼馴染は学園一の美少女だが、ぼっちの僕が好きらしい

四乃森ゆいな

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第九部

第77話「幼馴染たちは、恋焦がれに心至る」

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 現実のようでどこか現実味が無い話だと思った。
 あそこで告白をしたことも、あいつとお互いに──互いをかばいすぎた結果言えなかった、秘めてきた心の内側を初めて暴露したことも。

 溜めてきた15年間の想いというのは非常に重い。

 そんな実感を感じていたあの瞬間。今までの僕であれば、決して到達し得なかった。
 覚悟を決めて、友人に叱られを繰り返して……僕はやっと自分の気持ちを知った。

 渚に我慢させた1ヵ月。幼馴染以上の『好き』なんて、まだわからないところも多いけれど──この気持ちはもう、幼馴染以上なのだということはとっくに理解している。
 本当、渚にあんだけの辛さを味合わせるとか、どれだけヘタレなんだと。そう思い知らされたのも、またどこか現実味の無い話だ。

「………………」

「………………」

 あれから数時間、僕達は水族館からの帰路に着いていたのだが。
 何故か僕達の間には妙な緊張感と気まづさが生まれていた。

 …………あれれ、おかしいぞ? 今までこれだけ気まづくなることなんて無かった影響か、僕は普段より思考が働いていなかった。

 というか、あれだ。──僕、今までどうやってこの幼馴染と接してたんだっけ? 本当、まずそこからだった。そしてそんなことを思うのは僕だけでなく、僕の後ろをまるで産まれたての雛のように着いてくる渚もだった。

 ……おかしい、どうしてこうなったんだ?
 水族館内では何やかんやありつつも、幼馴染として関わってきた今までと何も変わらない感じでそれなりに楽しめたというのに……。

 だというのに──2人きりになった途端この有様だ。

 会話のネタが無いだとかそういう次元の話ではない。そんな友人との間に出来た溝とは違い相手は家族ぐるみの付き合いでもある渚だぞ。取り巻く空気は常に一定。一度だけ空気が重くなったことはあったが、こんなに気まづく何か会話のネタをと思考するのは初めての体験だ。

「…………は、晴斗」

「……っ!!」

 突如無言だった空気に聞き慣れた渚の声が耳に入る。
 いつもであれば何も焦る様子もない幼馴染の声だったが、あの出来事の後に久しぶりに名前を呼ばれたことに少しだけ動悸が激しく高鳴った。

 後ろに着いて歩いていたこと、そして真っ暗で涼しい空気の中ということもあり、彼女の表情を伺うことは困難だ。だが逆にそれは、彼女も同じ条件だ。少し焦っていたのは、どうにかバレないで欲しい……。

「今日、さ……晴斗の家に、泊まってもいい?」

「えっ……別にいいけど。おばさん達、遅いのか?」

 突然のお泊り宣言にも驚かされるが、つい最近にも似たようなケースがあったのを思い出し、渚に返しで質問した。

「…………、泊まっちゃダメなの?」

 その瞬間、涼しい春の風が通り抜け、長く綺麗に手入れされた煌びやかな黒髪は風によってなびく。その光景は街灯がいとうでもはっきりとは視認出来ない暗闇だとしても、とても幻想的な風貌であった。──まさに、無敵である。

 ……あんな立ち姿が出来るとか、本っっ当に反則だろ!!

「……お前、それわざとか」

「……ふぇ? わざ、と……って?」

 ──やっぱりタチ悪すぎるだろ!!

 普通の、ただの、在り来たりの幼馴染を送ってきた僕達にとってこのような距離感は、今日1日を通していく中で確実にズレていく序章にすぎないのだろう。

 今のお互いの距離感がわからない……というのもあるかもしれないが、まだお互いの気持ちを本当に汲み取れていないというのを物語ってもいるわけで──。

 そう思う要因は、今日一日の『デート』を通してもわかり合えたりするのだが、それだけじゃない。
 その考えを促されたのは、あのカフェテラスでのこと──


 ✻


 人生でこんなにも深い経験をすることなど、もう一生無いと確信出来る。今後の長い人生の中で、僕は2度としないであろう一世一代の大告白をした。あのときの渚と同じ言葉を、全く違うシチュエーションで僕なりの間を持って告げた。

 ずっとあいつが欲しがっていた言葉……もう2度と言いたくないと思えてしまうほど、思ったよりも恥ずかしい言葉だった。羞恥プレイですか、あれ……!!

 まだ1ヵ月前とは言え、高校生というリア充期に入る前によくあんなこと言えたな……すげぇ尊敬するわ、さすがだよ渚パイセン。

 ……何て、心身不安定な状態を保ちながらも羞恥心を抱えながら渚に思いを伝えきった僕に、この容姿端麗の美少女様は、一体何て言ったと思う?


『――晴斗が私のことを好きって……これ、何か都合のいい夢、なの?』


 はっ??

 おい、人が散々悩んだ挙句に過去の事件を解決させる前に告げた僕の想いを何で白昼夢で済ませようとしてんだこの女!! 僕も僕で、大概な断り方をしてしまった気もするが、絶対こいつの方がタチが悪いだろ! はいそこ、同族嫌悪とか思わないの!

 いやいやまぁまぁ、確かに僕だってこれに関しては前科者なわけだし反論権は無い。

 それに、彼女から疑い深い声が上がってしまったのは元々、過去の僕の行いに非があるのだ。だから僕は“本当の気持ち”を告げたのだ。過去のことを振り切る一歩として。

 ……でもよ。どうして次から次へと問題が大きくなるんだよ。どうしてこんな謂れも無い勘違いされてんだ。どうしてこんなにも問題ごとが増えるんだ……。

『……あのさ。お前は今日という日が夢でもいいと?』

『そ、そういうんじゃ! た、ただ、その……混乱してる、というか何というか……』

 目線を逸らしながらも僕の問い掛けを返答する渚。
 とはいえ、僕は自分の想いは伝えた。これが僕の答えであり結論であると。

 受け入れる受け入れないは、彼女の自由。たとえ渚が僕に告げてくれたときのように振ったとしても、それが原因で避けるなんて繰り返しはしないつもりでいる。気まづさは残るかもしれないが、幼馴染に戻れるよう全力を尽くすつもりだ。

 報われなかったら……多少落ち込むかもだが、彼女に対しての気持ちが変わることは無いと思う。一度自覚してしまったら、それはもう──呪いに近いモノになる。

 恋愛が二度と出来なくても、それでも構わない。
 あいつが再び好きな人を見つけるまで僕は、あいつの幼馴染でいるつもりでいるしな。その後は……どうなるだろうか。

 ──とまぁそんな複雑な気持ちになりつつも、僕は彼女に本音を言えたことに満足していた。

 後は渚からの返事次第。だがそれを催促するつもりはない。きっと渚の心の中は、一度振られた男から告白されたという、大変複雑な心境になってるだろうしな。

 今回の出来事は、渚の心境が落ち着くまで暫く待ってあげることにした。春休みのときは突拍子も無く振ってしまったのだから、今回のことは全て渚に一任する。

『……そろそろ行こっか。続き見に行こう』

 そう決断し、僕はその席をすっと立ち上がろうとしたとき──、

『──待って!』

 と、立ち去ろうとした僕の服の裾を渚はテーブルを乗り越えて掴んできた。
 熟した林檎のように真っ赤な顔をした渚の顔は、それだけである1つの真実を物語っているに等しかった。

 彼女は言った。
 数分前──僕が君に出した本当の答えに、……。

 僕は決して後悔しない。躊躇ったり、右往左往はしてしまうかもしれないけど──それでも僕は渚という『幼馴染』が出来たことを、決して恨みはしないし後悔もしない。

 優柔不断もいいところだ。
 けどこれが癖になってしまっている以上、すぐに修復することは出来ないしあのときのことが解決した何て言うこともない。

 だが、これから彼女との関係が百から零にリターンするわけではない。関係の修復から……何て、そんな面倒な作業をする必要もない。

 ──僕達は僕達のペースで進んでいけばいいだけなのだ。

『……本当に、いいのか?』

『……後悔なんて、私がすると思うの? 言っておくけど、晴斗より私の方が晴斗のこといっぱい知ってるんだからね? ……今でも信じられないんだからね、バカ』

『何を張り合ってんだよ……。……いいんだな?』

『……うん!』

 彼女の瞳からは、薄っすらと涙が零れ落ちた。

 綺麗な肌をすぅーっと伝い落ちる透明の水が、何故か今の僕にも出てきそうな気がした。こんな心が浮かれるような気持ちになったのは、一体いつ振りだろうか? 昔にはいっぱいあったはずのものを、いつの間にか無くしていて──。

 けど今は、少しだけこの気持ちに物思いが耽っている。
 だから、以前のような最下層とトップカーストが争う競争はよそうと思う。けれどそれが可能になるのは、先の話だと思うけれど。


『──私と、お付き合いしてください。ずっと……好きだったんだからね!』


 多分僕はこの先、この言葉を忘れることはない。
 それだけは──確実に今、言えることだと思った。
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