隣の家の幼馴染は学園一の美少女だが、ぼっちの僕が好きらしい

四乃森ゆいな

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第九部

第74話「幼馴染は、告白する。①」

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「いらっしゃいませ。2名様でよろしいでしょうか?」

「あ、はい」

「ではこちらへどうぞ」

 店員さんに連れられ、僕と渚は水族館の中にあるカフェへと足を運んでいた。

 真ん中にそびえ立つ煙突状の水槽には、海の魚(主に熱帯魚)が鮮やかで機敏な泳ぎを披露している。水槽が近くにあることもあり、かなり有名なカフェのようだがお客さんや近くにショーの施設があることから人の声が途絶えることは無い。
 これなら、人目を気にせずに話が出来るかもと思ったのだが。

「…………」

「…………」

 ここに来るまでの間、僕達の間には会話の1つも入ってこなかった。

 理由など単純明快。お互い、自然と家族連れや友達のような間柄ではなく、昨日のことで視野が狭くなっている。現に渚は僕に目線すら合わせない。
 お陰でまともな会話をするにも至っていないというわけだ。

 佐倉さんがヤバいと言っていた理由が、ここにきて初めて理解したように思える。

 彼女と話す前の僕は自分のことしか頭に無くて、あいつのことを考えるような余裕なんてほとんど残ってなくて……どうしようって右往左往していた。

 ……確かにな。あいつらが言っていたことも自然と納得出来てしまう。
 自分のことで頭がいっぱいいっぱいで……こんなんじゃ、渚が不安を抱えてしまうのも無理ない。こうなってしまったのは、自分の落ち度した結果だ。
 だったら僕自身で、何とかしないとだよな。

「──渚」

「は、はい……っ!!」

 いきなり声をかけられた影響だろうか。渚は途端に顔を赤らめすぐさま塞ぎ込んでしまった。そんな反応を見た僕は……、

「……今日、ずっとおかしいだろ。それってもしかしなくても、昨日のせいか?」

「……っ!! ……気づいてたんだね」

「当たり前だろ。何年幼馴染やってると思う。……あのときはごめん。僕も、どうするべきだったのかわからなくて、あんな態度取ったんだ」

「…………そっか」

 納得したように呟いた彼女だったが、下に俯いた時点で納得していないに等しい。
 現に渚は先程から1回も僕と目線が合っていない。……こんな風にしてるのが自分なのだと、改めて思い知らされる。

「……何でさっきから顔をそむける」

「………………」

「言ってくれないとわからないことだってあるんだ。幼馴染でも僕は、お前の全部を知ってるわけじゃない。だから──」

「──じゃあ……教えてよ。私のこの気持ちを……知りもしないでっ!! この間の放課後から晴斗明らかに様子が変じゃない! 今まで私の隠し事には気づいて……何でも、お見通ししてたくせに……。……何で、自分のことになると教えてくれないの? ねぇ、どうしてよ! ──ねぇどうしてっ!!」

 目袋に溜まった涙が遂に我慢の限界を迎えたように、彼女の濁った瞳から次々と涙が零れてくる。……僕って、本当にわかってないよな。お前のことなんて。幼馴染だ何だと言っても、結局1番わかってないのは──いつも、僕だけ。

 こんなにも伝わってくる渚の罵声は……初めてだ。
 心に響く。もう隠すことは不可能だと、同時に再認識させられたような気分になった。

 真剣な目付きで睨んでくる幼馴染にまた「何でもない」と言えるほど、僕はド畜生じゃない。おそらく彼女が納得出来るような説明をする必要もあるだろう。

「……どうしても、知りたいか?」

「誤魔化さないでよっ!」

「そんなつもりじゃない。ただ……今回のことは、僕の完全なエゴだ。僕が自分で考えて、行動して──その結果が、お前をそこまで追い込んでる。でも、お前には……お前だから、話すと決めた。だから、これを聞いても渚には、きちんと受け止めてほしいんだ。……それでもいいか?」

「…………わかった。晴斗も、覚悟を決めてきた、ってことでしょ? ……なら聞く」

 じっと睨む目付きで了承をされ、僕は少しビクついてしまう。──だからと言って、ひるむことは、何もない。

 信用性が無かったわけじゃない。
 かと言って、信頼性が欠けていたわけでもない。

 お前だったから……好きな人になってしまったから、言いたくなくて……必然的に避けてしまったけれど。けどこれはもう──自白するしかない。
 何より、渚の決意を否定しているようでは、幼馴染さえ失格だ。

 一旦ゆっくりと深呼吸を繰り返し、僕は気持ちを落ち着かせる。そして僕はそのまま、鞄の中に仕舞っていた──例の『ラブレター』を取り出した。

「~~~~~っ!?」

 それを見せた途端、渚の身体は突然硬直してしまった。……やはり、いきなりこれを見せるのはまずかっただろうか。だが、これが無いと渚の求める『答え』とやらに応えられないのもまた事実だ。

「…………何、これ」

 冷徹かつトーンの下がった声音。いつもの清楚可憐な“学園一の美少女”という名が似合わないと確信出来るほど、彼女が動揺しているのは明白だった。

「……これが、僕の隠し事の『核』だ。そしてあの日、お前を佐倉さんと帰らせた要因のものでもある。……確認したければ中身だって読んでもいい」

「いい。……そんなの、見たくもないし読みたくもない」

 当然と言えば当然の反応だった。

 僕がこれを何と言う前からわかった風でいる渚は、おそらく察したのだろう。中学時代のあるとき──体育館裏で告白されたところを、渚に聞かれていた。

 人目を気にするようになってから、どうやら人の気配にも敏感になってしまったらしい。
 そのせいなのかは検討も付かないが、誰かに見られたことだけはわかった。そして、その相手が渚なのだということを後に気づいた。

 だからこいつには言わなくても通じてしまう。
 これがラブレターであることも。──僕があの日、告白されたという事実も。
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