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第九部
第72話「幼馴染は、覚悟を決める」
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『いやぁ~。無駄に壮大なストーリーを語ってたみたいだけど、私からしてみれば時間を無駄にした──っていう考えに近いかな?』
「ズバズバ言うね……」
『言わなきゃ、凪宮君みたいな神経質なタイプには伝わらないでしょ? でもまぁ、私がアグレッシブなタイプだからそう思っちゃうだけなのかもしれないけど。思いついたら即行動! みたいなところあるし。真面目が性に合ってる凪宮君からすれば、私の思考回路がアバウトなのかもね』
「わかってくれて何よりです……」
『いえいえ~。んで、話し戻すけど。──どうしてそう思うのか、だっけ?』
僕の質問に答えてくれようとしているのか、佐倉さんの声のトーンが少し低くなった。
意識しなければわからない程度だが、散々周りの視線やら何やらを気にする生活を送ってきた僕からすれば造作もないことだ。
『……1つだけ言えることがあるとすれば、凪宮君らしくなかったから、かな?』
「僕らしくない……?」
『そう。凪宮君らしくない。私はついこの間から関わり始めたけど、凪宮君個人のことに関して言えば、透から耳にタコが出来るほど聞かされたしある程度の人物像は浮かんでた。で、会ってみたら実際その通りだった。──自分の目標のために、わざと裏方に回る。行動も、渚ちゃんと関わってるときの言動もその通りでビックリした』
高校生になってからの目標も、中学生のときに立てた目標も、何1つ変わっていない。
それは──『静かに過ごすこと』。
何事も穏便に済まし、表へは顔を見せない。
目立つのは陽キャ達の役割で、元々人相もあまり良くないと自負している僕が先陣を切る必要なんぞどこにもない。だから立てた目標だ。
ただただ静かに過ごし、理想に近い緩やかな青春を送る。──それだけだった。
……だが今の僕は違う。
穏便に物事を進ませる方法なんぞいくらでもあった。今回のことも、デートでの会話だって。幼馴染として過ごしてきた時間は、誰にも負けないのだから。
『……こんなこと言ってる私だけど、実際ね、透に想いをぶつけるだけっていうことも結構悩んだりしたんだ。誰だって迷うし、わからなくなるよ。そんなのは当たり前。──でも、自分の思ってることを言わないのは、違うと思う』
「……っ!?」
『渚ちゃんはさ。きっと、幼馴染っていう関係が変わることも承知の上で全てを伝えたんだと思う。隠し事なく、全部をさ』
「……怖くなかったのかな、あいつは」
『自分の想いを伝えることに恐怖を感じないっていう人は、まずいないと思うよ。凪宮君が渚ちゃんを巻き込みたくないって始めたことでも、結局はそれで、渚ちゃんを不安にさせてる。それはずばり──凪宮君が、想いをぶつけないから。幼馴染だからって、わからないと感じたことがあるだけで、怖いものだよ?』
「…………」
『――幼馴染ってさ、難しいと思うの。でも、過ごした時間も築いてきた関係も嘘じゃない。渚ちゃんが告白してくれた前と変わってなかった時期があったのと同じように、2人の間の関係に大きな磁場が起こることも無い。──なら、凪宮君にはもうわかるんじゃない?』
「………………」
佐倉さんはきっと、あの春休みのことを透から聞いていたのだろう。他にも何か知ってそうな話し方だし……。あいつ、個人のプライバシーって言葉を知っているのだろうか。
けど……今だけはあいつに感謝したい。
いい幼馴染を持ったんだなと、少しだけあいつに褒め言葉を与えたい。
僕は扉に背中を預けながら、すぅーっと力が抜けていく感覚に流された。まるで、荷が重いと感じていた『何か』を背負っていたものが、一気に無くなった気分だった。
……きっと僕は、どこかで「怖い」と思っていたのだろう。
あいつは大切な幼馴染で、これからも隣に居てほしくて──でも、僕の力じゃ渚の全てを守ってやれる自信が無くて。……怖気づいていただけなのかもしれない。
──幼馴染として過ごしてきた時間。
──幼馴染として狭い部屋で趣味を共有した時間。
──幼馴染としてお互いに好きになってしまった時間。
そのどれもが、僕にとってはかけがえのない大事な時間で……そしてそれは、これからも変わることはないのだと。
大事に、大切にしてきた関係性も信頼も──何1つだって崩れることは無いのだと。
全てが無下になるわけじゃない。寧ろこれから新しい『何か』を2人で作っていく。
もう僕達は──何も出来なくて、耐えることしか、避けることでしか守れなかったあの頃とは違うのだと。……それだけのことなのだと、佐倉さんはきっとそう言っているんだ。
『幼馴染である関係は消えたりしない。幼馴染のまま、そのままで新しい関係性を繋げられる。どちらかを捨てる必要なんて、どこにもない。幼馴染の凪宮君だから出来ること、あるんじゃないのかな?』
「……受け入れてくれるかな。傲慢だった自分の行いも……それに関連した自分の本当の想いも――」
『寧ろ泣いて喜びそうだけどねぇ。念願叶った恋が実るのって……スっゴい嬉しいんだから!』
「……ありがとう、佐倉さん。お陰でなんか、ちょっと吹っ切れた気分」
『それは何よりだよ。それに、お礼を言うのは私もかな。透ってチャラいけど、意外と頭いいからさ。私の周りって『賢い奴』しかいないわけよ。偶には優等生に、ビシッと何かを言ってやりたいと思ってたからさ~! ありがとう!』
感謝の方向性が180度回転してる気がするのは気のせいでしょうか……?
でもまぁ……賢い奴にビシッと言う、か。
そう思いたくなる気持ちは、わからないでもないな。何しろ僕の家族の中には、モノホンの『天才』が紛れ込んでいるのでね……っ! 今度一発蹴りでも入れておこう。
「随分傲慢なんだな……」
『それ、凪宮君が言うとブーメランに聞こえるんだけど?』
うぐっ……。鋭い刃が僕の身体を貫通したような痛み(心の)が全身を襲う。
そんなにストレスが溜まっていたのだろうか……透よ。無事に天国へ逝けるよう、願っているぞ。
「ズバズバ言うね……」
『言わなきゃ、凪宮君みたいな神経質なタイプには伝わらないでしょ? でもまぁ、私がアグレッシブなタイプだからそう思っちゃうだけなのかもしれないけど。思いついたら即行動! みたいなところあるし。真面目が性に合ってる凪宮君からすれば、私の思考回路がアバウトなのかもね』
「わかってくれて何よりです……」
『いえいえ~。んで、話し戻すけど。──どうしてそう思うのか、だっけ?』
僕の質問に答えてくれようとしているのか、佐倉さんの声のトーンが少し低くなった。
意識しなければわからない程度だが、散々周りの視線やら何やらを気にする生活を送ってきた僕からすれば造作もないことだ。
『……1つだけ言えることがあるとすれば、凪宮君らしくなかったから、かな?』
「僕らしくない……?」
『そう。凪宮君らしくない。私はついこの間から関わり始めたけど、凪宮君個人のことに関して言えば、透から耳にタコが出来るほど聞かされたしある程度の人物像は浮かんでた。で、会ってみたら実際その通りだった。──自分の目標のために、わざと裏方に回る。行動も、渚ちゃんと関わってるときの言動もその通りでビックリした』
高校生になってからの目標も、中学生のときに立てた目標も、何1つ変わっていない。
それは──『静かに過ごすこと』。
何事も穏便に済まし、表へは顔を見せない。
目立つのは陽キャ達の役割で、元々人相もあまり良くないと自負している僕が先陣を切る必要なんぞどこにもない。だから立てた目標だ。
ただただ静かに過ごし、理想に近い緩やかな青春を送る。──それだけだった。
……だが今の僕は違う。
穏便に物事を進ませる方法なんぞいくらでもあった。今回のことも、デートでの会話だって。幼馴染として過ごしてきた時間は、誰にも負けないのだから。
『……こんなこと言ってる私だけど、実際ね、透に想いをぶつけるだけっていうことも結構悩んだりしたんだ。誰だって迷うし、わからなくなるよ。そんなのは当たり前。──でも、自分の思ってることを言わないのは、違うと思う』
「……っ!?」
『渚ちゃんはさ。きっと、幼馴染っていう関係が変わることも承知の上で全てを伝えたんだと思う。隠し事なく、全部をさ』
「……怖くなかったのかな、あいつは」
『自分の想いを伝えることに恐怖を感じないっていう人は、まずいないと思うよ。凪宮君が渚ちゃんを巻き込みたくないって始めたことでも、結局はそれで、渚ちゃんを不安にさせてる。それはずばり──凪宮君が、想いをぶつけないから。幼馴染だからって、わからないと感じたことがあるだけで、怖いものだよ?』
「…………」
『――幼馴染ってさ、難しいと思うの。でも、過ごした時間も築いてきた関係も嘘じゃない。渚ちゃんが告白してくれた前と変わってなかった時期があったのと同じように、2人の間の関係に大きな磁場が起こることも無い。──なら、凪宮君にはもうわかるんじゃない?』
「………………」
佐倉さんはきっと、あの春休みのことを透から聞いていたのだろう。他にも何か知ってそうな話し方だし……。あいつ、個人のプライバシーって言葉を知っているのだろうか。
けど……今だけはあいつに感謝したい。
いい幼馴染を持ったんだなと、少しだけあいつに褒め言葉を与えたい。
僕は扉に背中を預けながら、すぅーっと力が抜けていく感覚に流された。まるで、荷が重いと感じていた『何か』を背負っていたものが、一気に無くなった気分だった。
……きっと僕は、どこかで「怖い」と思っていたのだろう。
あいつは大切な幼馴染で、これからも隣に居てほしくて──でも、僕の力じゃ渚の全てを守ってやれる自信が無くて。……怖気づいていただけなのかもしれない。
──幼馴染として過ごしてきた時間。
──幼馴染として狭い部屋で趣味を共有した時間。
──幼馴染としてお互いに好きになってしまった時間。
そのどれもが、僕にとってはかけがえのない大事な時間で……そしてそれは、これからも変わることはないのだと。
大事に、大切にしてきた関係性も信頼も──何1つだって崩れることは無いのだと。
全てが無下になるわけじゃない。寧ろこれから新しい『何か』を2人で作っていく。
もう僕達は──何も出来なくて、耐えることしか、避けることでしか守れなかったあの頃とは違うのだと。……それだけのことなのだと、佐倉さんはきっとそう言っているんだ。
『幼馴染である関係は消えたりしない。幼馴染のまま、そのままで新しい関係性を繋げられる。どちらかを捨てる必要なんて、どこにもない。幼馴染の凪宮君だから出来ること、あるんじゃないのかな?』
「……受け入れてくれるかな。傲慢だった自分の行いも……それに関連した自分の本当の想いも――」
『寧ろ泣いて喜びそうだけどねぇ。念願叶った恋が実るのって……スっゴい嬉しいんだから!』
「……ありがとう、佐倉さん。お陰でなんか、ちょっと吹っ切れた気分」
『それは何よりだよ。それに、お礼を言うのは私もかな。透ってチャラいけど、意外と頭いいからさ。私の周りって『賢い奴』しかいないわけよ。偶には優等生に、ビシッと何かを言ってやりたいと思ってたからさ~! ありがとう!』
感謝の方向性が180度回転してる気がするのは気のせいでしょうか……?
でもまぁ……賢い奴にビシッと言う、か。
そう思いたくなる気持ちは、わからないでもないな。何しろ僕の家族の中には、モノホンの『天才』が紛れ込んでいるのでね……っ! 今度一発蹴りでも入れておこう。
「随分傲慢なんだな……」
『それ、凪宮君が言うとブーメランに聞こえるんだけど?』
うぐっ……。鋭い刃が僕の身体を貫通したような痛み(心の)が全身を襲う。
そんなにストレスが溜まっていたのだろうか……透よ。無事に天国へ逝けるよう、願っているぞ。
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