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第九部
第71話「幼馴染は、ダメ出しを喰らわされる②」
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『じゃあ、どうして会話してあげないの? 渚ちゃん、ちょっと泣きそうになってるよ?』
「……佐倉さんまでストーカーしてんのか?」
『透と一緒にしないでくれる?』
電話の向こう側から『酷くない!?』と叫ぶあいつの声は幻ではないはず。わざと聞こえるように言ったな……佐倉さん、容赦ねぇ。
『……前は透が許したみたいだから協力したけど。渚ちゃんがあれだけ悩んでるのって、昨日の出来事が引き金になってるんじゃないの?』
「その話、透から聞いたのか?」
『まぁね。一応幼馴染だし、隣の家だからね』
知り合った友達が、まさかの……っていうぐらいの展開に、最早奇跡すら感じてしまうんですが。
『──それで、実際のところはどうなの?』
佐倉さんの聞き方は、まるで鋭利な刃物のような鋭さを併せ持っている。
透のように、ちょっとした気分転換のために呼び出したわけじゃない。そう言われているような気分だ。おそらく佐倉さんは、今の僕の真意を聞くためにあのメッセージを送らせたのだろう。……実際、彼女の言い分は自分でもよくわかっている。
「……多分、あいつが悩んでるのは僕があいつの質問を拒否したからだ。今まで相互に、隠し事なんて滅多にしてこなかったし、してもどっちかが見破る。──それで終結してたからな。……でも、正直わからない」
『……と言うと?』
「……あいつの主張通り、真実を告げた方があいつを傷つけずに済むって気もしてる。余計な不安はさせたくなくて隠してたけど……その行為そのものが、あいつを傷つけるのも事実だ。話すべきなのか、そうじゃないのか。──どちらが正しいかなんて、わからない」
渚に真実を告げても、告げなくてもペナルティ。どちらが正しい選択か……なんて、今後だって迫られるときはあるのかもしれない。否、あるのだろう。
だが──相手を守りたい気持ちが強いからこそ、迷うのだ。
どちらがペナルティ無しで、どちらが渚を傷つけずに済むのかと……まるで無限ループそのものだ。
「……好きだって自覚した時点で、あいつを傷つけるのは確定してたのかな。あいつへの気持ちも、応えてやりたいって想いも本物なのに……。でも、ダメだな。肝心なところで……勇気が出ないんだよ」
結局は一緒なんだ。
あの頃から──何1つ変わってなどいない。
今度こそ守ると決めたのに……周りへの目に配慮しつつ、上手くいくように練ったっていうのに。……でも、ダメだった。周りが何て関係ない。同じ過ちは、繰り返された。
守ると決めた想いを──今度は自分で壊してしまった。
…………僕っていう人間は、何でこんなにも意気地無しなんだろうか。
電話越しで黙って聞いてくれていた佐倉さんにも、今回の件で陰からサポートしてくれた透にも、申し訳なさが湧いてくる……。
──そんなときだった。
今まで僕の話に耳を傾けてくれていた佐倉さんが突然、ため息を吐いたのだ。
『はぁ……。……要するに、真実を伝える勇気がありませんってことでオーケー?』
「そ、そうだけど……随分あっさりと言ってくれるな」
『──だってくだらないものっ!』
「ゔぅ……」
今の言葉によって『凪宮晴斗』のHPゲージが30パーセント減少した。完全に急所を狙い撃つような一言だった。効果は抜群だ──って、違う!!
言葉に制御というブレーキがかかっていない。事実を言われただけに心が抉られる……。
って、そう言えばそうだ……。この人はあの面倒くさい陽キャ──藤崎透の『幼馴染』であり『恋人』なんだもんな。そりゃあこういう対応になるのも不自然じゃ――って、何納得してるんだ、僕は!
と、とりあえず、この動揺してしまっている心臓を落ち着かせるために、僕は胸の付近を押さえてふぅーっと息を吐いた。
「……な、何故に?」
だがどうやら僕の動揺──即ち、自身の中にある佐倉さんへの困惑から逃れることは不可能なようだ。動揺が丸出しで恥ずい……。
『だって、本当にくだらないんだもの。事実を隠したところで、今の凪宮君には効果無いと思ったからさー!』
「……うん。……確かに、効果覿面だったよ。色んな意味で」
この隠し事をしていかない感じ……本当にあいつにそっくりだ。
僕と渚がそうでないだけで、幼馴染というのは近くに居る分、性格まで似てしまうものなのだろうか。裏を返せば、僕達もある意味似ているとは思うが……悪い意味で。
「……佐倉さんまでストーカーしてんのか?」
『透と一緒にしないでくれる?』
電話の向こう側から『酷くない!?』と叫ぶあいつの声は幻ではないはず。わざと聞こえるように言ったな……佐倉さん、容赦ねぇ。
『……前は透が許したみたいだから協力したけど。渚ちゃんがあれだけ悩んでるのって、昨日の出来事が引き金になってるんじゃないの?』
「その話、透から聞いたのか?」
『まぁね。一応幼馴染だし、隣の家だからね』
知り合った友達が、まさかの……っていうぐらいの展開に、最早奇跡すら感じてしまうんですが。
『──それで、実際のところはどうなの?』
佐倉さんの聞き方は、まるで鋭利な刃物のような鋭さを併せ持っている。
透のように、ちょっとした気分転換のために呼び出したわけじゃない。そう言われているような気分だ。おそらく佐倉さんは、今の僕の真意を聞くためにあのメッセージを送らせたのだろう。……実際、彼女の言い分は自分でもよくわかっている。
「……多分、あいつが悩んでるのは僕があいつの質問を拒否したからだ。今まで相互に、隠し事なんて滅多にしてこなかったし、してもどっちかが見破る。──それで終結してたからな。……でも、正直わからない」
『……と言うと?』
「……あいつの主張通り、真実を告げた方があいつを傷つけずに済むって気もしてる。余計な不安はさせたくなくて隠してたけど……その行為そのものが、あいつを傷つけるのも事実だ。話すべきなのか、そうじゃないのか。──どちらが正しいかなんて、わからない」
渚に真実を告げても、告げなくてもペナルティ。どちらが正しい選択か……なんて、今後だって迫られるときはあるのかもしれない。否、あるのだろう。
だが──相手を守りたい気持ちが強いからこそ、迷うのだ。
どちらがペナルティ無しで、どちらが渚を傷つけずに済むのかと……まるで無限ループそのものだ。
「……好きだって自覚した時点で、あいつを傷つけるのは確定してたのかな。あいつへの気持ちも、応えてやりたいって想いも本物なのに……。でも、ダメだな。肝心なところで……勇気が出ないんだよ」
結局は一緒なんだ。
あの頃から──何1つ変わってなどいない。
今度こそ守ると決めたのに……周りへの目に配慮しつつ、上手くいくように練ったっていうのに。……でも、ダメだった。周りが何て関係ない。同じ過ちは、繰り返された。
守ると決めた想いを──今度は自分で壊してしまった。
…………僕っていう人間は、何でこんなにも意気地無しなんだろうか。
電話越しで黙って聞いてくれていた佐倉さんにも、今回の件で陰からサポートしてくれた透にも、申し訳なさが湧いてくる……。
──そんなときだった。
今まで僕の話に耳を傾けてくれていた佐倉さんが突然、ため息を吐いたのだ。
『はぁ……。……要するに、真実を伝える勇気がありませんってことでオーケー?』
「そ、そうだけど……随分あっさりと言ってくれるな」
『──だってくだらないものっ!』
「ゔぅ……」
今の言葉によって『凪宮晴斗』のHPゲージが30パーセント減少した。完全に急所を狙い撃つような一言だった。効果は抜群だ──って、違う!!
言葉に制御というブレーキがかかっていない。事実を言われただけに心が抉られる……。
って、そう言えばそうだ……。この人はあの面倒くさい陽キャ──藤崎透の『幼馴染』であり『恋人』なんだもんな。そりゃあこういう対応になるのも不自然じゃ――って、何納得してるんだ、僕は!
と、とりあえず、この動揺してしまっている心臓を落ち着かせるために、僕は胸の付近を押さえてふぅーっと息を吐いた。
「……な、何故に?」
だがどうやら僕の動揺──即ち、自身の中にある佐倉さんへの困惑から逃れることは不可能なようだ。動揺が丸出しで恥ずい……。
『だって、本当にくだらないんだもの。事実を隠したところで、今の凪宮君には効果無いと思ったからさー!』
「……うん。……確かに、効果覿面だったよ。色んな意味で」
この隠し事をしていかない感じ……本当にあいつにそっくりだ。
僕と渚がそうでないだけで、幼馴染というのは近くに居る分、性格まで似てしまうものなのだろうか。裏を返せば、僕達もある意味似ているとは思うが……悪い意味で。
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