隣の家の幼馴染は学園一の美少女だが、ぼっちの僕が好きらしい

四乃森ゆいな

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第八部

第67話「幼馴染は、初デートで手を繋ぐらしい」

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 横浜。神奈川県の首都にして、様々な施設と海風が響き渡る『煌びやかな街』。

 有名なのは赤レンガ倉庫とかだろうか。1度、兄さんに連れられて来たことがあったが時期ごとにイベントなどもやっていてかなり賑やかなところだった。
 ……と、今日行くのはそこじゃないけど。

「……混んでるね、思った以上に」

「サイト閲覧したときも、かなりの有名どこだったからな。これぐらいの混み具合は予想の範疇はんちゅうだ」

「大丈夫? 気持ち悪くない?」

「へ、平気だ。……今のところは」

 本当は全然平気じゃない。だが、ここで『気持ち悪い』なんて言ってみろ。デートどころか即帰宅案件になってしまう。ラブコメ作品の陰キャ主人公って、毎回こういうのを経験するんだろうか。……よく耐えられるね、マジで。

 最寄り駅よりおよそ20分ほど。大勢の客で賑わうアミューズメント施設──その1つである水族館、今日はここを訪れに来た。

 この施設は水族館を始めとした、遊園地から漁業体験までの幅広い施設が一帯となっている。

 だが、あまり騒がしいところは好きじゃない。独自の意見にはなってしまうが、きっと遊園地になんて行こうとすれば『だ、大丈夫だから! 静かなところ行こ! ね?』と、逆に渚に気を遣われてしまうだろう。それがわかっているから、敢えて妥協……じゃなくて、予め最善の手を打った。

 入り口にてチケットを購入し中へと入ると、一気に暗い世界がお出迎えをされた。
 扉の手前ということもあって、外の光が入ってくるもののそれを除いても落ち着ける空間だった。やっぱ、暗い場所って落ち着くな。心の底からの感想。

 ……それにしても、水族館とはいえスゴい人の数だ。
 前に行ったショッピングモールほどではないものの、見ているだけで悶絶しそうなんですけど。

 極度の人嫌い……というわけではないが、僕は人が多い密集地帯を嫌う。
 元々こうだったわけじゃない。そこは、まぁ……色々あったっていうか何というか。

 とにかく、僕は人が溢れかえるところには寄り付くことはない。
 基本的に僕が行くのは人目の少ない場所だけだ。それこそ、図書館であったり公園だったりなど。

(……ヤバい。結構、キツいかも)

 そうは思っていても、ここで妥協すれば渚が楽しめなくなってしまう。
 ──それだけは、絶対にさせてはいけない最優先事項だ。

「晴斗。やっぱりこの人混みダメそう?」

「えっ……」

 すると早速、渚が僕の顔色を伺うように僕の顔を覗き込んでくる。

「そ、そんなことは──」

「嘘。だって、さっきから下ばっか向いてるし顔色だって良くない。それに晴斗がこういうところ苦手だってこと、知ってるから。もし無理してるなら私、他の場所でもいいよ?」

 あっ……完全に気を遣われてる。
 いっそのこと降参の旗を揚げたいところだが、そんなことをしてしまったら勇気を振り絞った意味が無くなってしまう。

「だ、大丈夫だって言ってるだろ。それに、奥に進めば人混みも減るだろうし」

「……本当? 無理してない?」

「してないって! 大丈夫だから、早く行くぞ」

 僕は近づいてきた彼女の顔を見た瞬間からの鼓動の高鳴りと、自分の中にある『恐怖』を押し殺し、渚のサラサラとした真っ白な手を取り奥へと歩き出した。


 ………………………………んん?

 ……ちょ、ちょっと待って? 今僕、サラッと何を手に取った?


 生暖かく、とても懐かしみを感じる手触り。昔懐かしいこの感覚にまさかと狼狽えながら振り向くと……そこには──、

「は……ハル、君……っ!?」

「…………………………………………」

 感じてしまったこの温もりも触れてしまった肌の手触りも吹き飛んでしまうほどの恥ずかしさが、渚の頬を真っ赤に染め上げてしまった。

 最早暗闇など関係なく、渚の顔はあからさまに真っ赤に変化していたのだ。そしてそれは――僕も同様だった。硬直し、思考が吹き飛ぶ。素数を数えることすら不可能だった。

 それも……

「ママー、あのひとたちのおかお、まっかっかー」

「そうね~、仲が良いのね~」

 すれ違った親子の会話が耳に届く。
 その言葉をきっかけにして、僕達の意識は完全に覚醒した。

「──はっ!」「──あっ……」

 や、ヤバい……キュン死に、する――っ!!

 意識を取り戻した僕は思わず繋いでしまった手を離そうと、すぐに渚へ言い放った。

「ご、ごめん! すぐに離れるから──」

「──い、いい!!」

 瞬間、一瞬は離れた手が再び空気ではなく生暖かい感触によって包まれた。
 その正体は言わずもがな、渚だった。

 すぐにまた離そうともがくものの、僕のその行動を許さないと言うように渚はその手を離そうとしない。「離してくれ」と控えめに言うが、ひたすら首を横に振るばかりだった。

「……このままで、いい」

「で、でも……」

「──今は! 学校じゃなくて、プライベートだから。……私が、好きな人と、デートしてるのは……そんなにおかしいことなの?」

「……っ、お、お前──!!」

 ……もしかしてこいつは、元からお出掛けではなく『デート』のつもりでいた、ということなんだろうか。──僕と、同じように。

 ……それにしても、今かなり恥ずかしい状態なんだが。

 今まで何回も何回も手を繋いできたけど、それはあくまで渚が『幼馴染』だと認識してきたからだ。けれど──今は違う。自分が渚を『異性』として『好きな人』として意識してしまっている。まるで初めてのような胸の昂ぶりようだ。

 渚はいつも、こんな爆発的な衝動を……ずっと、我慢してきたのだろうか。

 改めて思う。──人を好きになるというのは、こんなにも愚かで……こんなにも、恥ずかしいことばかりなのだと。

 すると渚は我に返ったように咄嗟に僕の手からすり抜けていった。その顔に最早照明など必要ない。それほどまでに鮮明に──顔が真っ赤に染まっていたのだ。

「ご、ごごごめん!! け、決して何かしらの下心とかがあったとかそういうわけでは断じてなく! そ、それに、何と言いますかえぇ~~っとぉ、そのぉぉ~~……」

「噛みすぎだ。一旦落ち着け、深呼吸を忘れるなー」

「そ、そんなこと言われてもぉぉ……っ!!」

 先程までの勇敢さがまるで嘘のような変貌っぷりだ。いや……これが本来の一之瀬渚だ。

 上に立つ、先陣を切るなんてことに本当は臆病になる性格を持ち、それでいて悩み事を抱える奴を放っておけない──そんな奴だ、僕の自慢の幼馴染は。

「……ん。……手出せ」

「…………へっ?」

 何が起こっているのかわからないと訴えたいと嘆いているように、目を丸くした渚が僕の目の前にいるわけだが。

 ──信じられるだろうか?

 先程まで僕の手を握った挙句『繋いだままでいたい』的な宣言をしてきた渚が、まるで帳消しになったかのような動揺の仕方。あのときのカッコいい貴女は一体どこへ……?

 ……というか、そんな“キョトン”とした顔で見るなよ。陽キャのあいつと違って僕は臆病者の陰キャだ。こういうこと言うの、結構恥ずかしいんだからな……。

「……ほら。繋ぎたいんだろ? 別に、繋ぎたいならそれでいいよ。ただ……水族館の中だけ、だからな?」

 奥に進めばもっと暗くなるしな、とまるでツンデレが言いそうな台詞を加えておく。
 素直じゃないと言われようと、この性格が身についてしまったのだから──どうしようもないというか何というか。

「……っ、うん!」

 少し躊躇った様子を見せるも、渚はゆっくりと僕が差し出した手を取った。

 あの誰しもが“孤高の美少女”と称える渚が、今はまだ幼馴染である僕の手を取るだけでこんなにもアタフタしている。普段なんてもじもじしないくせに……卑怯者めっ。
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