67 / 87
第八部
第65話「僕は、幼馴染への嫉妬深さを知るらしい」
しおりを挟む
駅前まで戻ってくるが、同時におまけが隣にまだ居座っている。
直感というのは、どういうときに発令されるものなのだろうか。
自分にとって害悪なモノが近づいてきたとき? いや違う。──自分にとって最悪な方向へ進みそうになっているときだ。(※あくまで個人の感想です)
僕はまだ隣を歩き続ける奴に向かって、恐る恐る訊ねた。
「……まさかとは思うがお前、僕達のお出掛けに着いてくる気じゃないだろうな?」
「そのつもりだが」
「何開き直ってんだおい! 今すぐにUターンして帰れ!」
「まぁまぁ、いいじゃないか親友よ。他者との恋愛経験が皆無なお前達を、陰からサポートしてやろうとしてるんだろうが。寧ろこのオレの気遣いと配慮に有難みと敬意を感じるべきだと思うのよねうん!」
「邪魔としか思ったことはないぞ、僕は」
「何て冷たい奴! 友達への評価低くないかお前!?」
全ては悪評の結果しか生み出さないこいつの自業自得。それこそ、否定しようがない事実なのである。
そんなひと悶着を繰り広げていると、駅前の方が少し騒がしくなっていることに気がついた。
「んん? 何だ何だ? 有名人でもいるのか?」
「ギャラリー避けたい……」
「あそこが集合場所なんだろうが──って、ありゃ? おい、あそこの人達に囲まれてるのって、一之瀬……じゃないか?」
「……えっ?」
透が指さすその先には、大勢の人達がスマホを構え写真を撮り、話しかけている人もいた。そんなギャラリーが出来た原因はというと……。
そこには、大勢の人達にナンパ言い寄られている、普段着姿の一之瀬がいた。
制服姿よりも見慣れた姿ではあったが、その格好は普段よりも気合いを入れているように思えてならない。その努力が普段よりも魅力を引き立たせ、こうして多くの人を寄せ集めてしまったのだろう。
「ありゃりゃ。すっげぇグッドタイミングで戻ってきちゃったみてぇだな」
「何がグッドタイミングだよ。あいつからしてみたらバッドタイミング以外の何ものでもねぇだろ……」
少なからず、あいつは見知らぬ人に言い寄られて喜ぶほどの陽キャではない。寧ろその逆で、顔見知りでもない相手に強い警戒心を抱く種類の人間だ。現にあいつには透の幼馴染である佐倉さんしか『友達』がいない。
その理由は1つ──他は、自分の身てくれだけしか見ていないから。
あいつにはあいつなりの良いところも悪いところもある。それを受け入れてくれる人間。それが、佐倉さんだけなのだ。今のところは。
ってか、男性ならまだしも女性にまで言い寄られてんだけど。女性からナンパに合うとか、逆ナンよりタチ悪いぞあれ。
「……いいのか? あのままで」
「それ、わかって言ってるのか、お前」
「だよな。そうすると思ってた」
僕は透に背中を思いっきり叩かれ、そのまま彼女の元へと一直線に向かった。まるで『頑張ってこい!』と、背中を押されたような気分だ。
……普段は、人をからかうしか脳がないくせに。こういうときには、ちゃんと前向きにさせてくれる。
僕があいつと関わるのは、そういった点があるからというのが大きい。
透との出会いは、とても不思議な感じだった。図書委員として半強制的に一緒に行動することが多くなり、あいつは僕に興味を持つようになった。
最初は『変な奴』という認識しかなかった。今も多少それはあるが。……でもあいつは、他の奴とは徹底的に違うところがあった。
──人を身てくれだけで判断しないこと。まるで、渚にとっての佐倉さんと同じなのだ。
まったく……お互い、そういうところは似なくていいというのに。
「あ、あのぉ…………」
渚は周りからの圧に押され、その足は少しずつ後退していった。
彼女に近づくにつれ、その声は正確に聞き取れるようになった。その中には「めっちゃ可愛いんだけど!!」「何々? どっかのモデルさんとか?」「彼氏とかっているの~?」と、女性からの声も増えていった。
質問攻めから逃れようとしている渚だが、完全にそれは逆効果だ。
的確な質問に意図があるのと同じように、渚に下された質問には同等の意図がある。だからこそ、逃げようとすれば“隠している”と頷く輩が増えるだけ。人間というのは、隠されたものを暴きたくなる性格をしているものだ。
すると、民衆から逃れようとする彼女の腕を誰かが掴んだ。
「──すみません」
そう言って、一同の注目を自身へと集める。
「彼女、僕の連れなので。あまり、ちょっかいかけないでやってください。困ってるのは明らかですし、少しは相手の気持ちも汲んでやってください」
僕はジロり、とギャラリーを睨む。
普段は垂れ下がりな瞳ではあるが、普段から“根暗”を貫いてきただけあって暗いオーラを出すのは得意なのだ。
僕の言い放った言葉は紛れもない事実だ。──だが、それとはまた別の暗い感情が僕の心に1点の黒点を植え付けた。
あんなにたくさんの人に言い寄られているのを見たとき、自分の動悸が激しく揺れているのが良くわかった。渚が中学時代、人気の的であったことを再認識させられた気分だ。
……これは、いわゆる『嫉妬』というやつなのだろうか?
こんなにも醜くて、深すぎる感情を持てるなんて、自分の心を自覚していなければ一生気づかなかっただろうな。
僕があんなにも……嫉妬深い人間だったなんて、思わなかった。
直感というのは、どういうときに発令されるものなのだろうか。
自分にとって害悪なモノが近づいてきたとき? いや違う。──自分にとって最悪な方向へ進みそうになっているときだ。(※あくまで個人の感想です)
僕はまだ隣を歩き続ける奴に向かって、恐る恐る訊ねた。
「……まさかとは思うがお前、僕達のお出掛けに着いてくる気じゃないだろうな?」
「そのつもりだが」
「何開き直ってんだおい! 今すぐにUターンして帰れ!」
「まぁまぁ、いいじゃないか親友よ。他者との恋愛経験が皆無なお前達を、陰からサポートしてやろうとしてるんだろうが。寧ろこのオレの気遣いと配慮に有難みと敬意を感じるべきだと思うのよねうん!」
「邪魔としか思ったことはないぞ、僕は」
「何て冷たい奴! 友達への評価低くないかお前!?」
全ては悪評の結果しか生み出さないこいつの自業自得。それこそ、否定しようがない事実なのである。
そんなひと悶着を繰り広げていると、駅前の方が少し騒がしくなっていることに気がついた。
「んん? 何だ何だ? 有名人でもいるのか?」
「ギャラリー避けたい……」
「あそこが集合場所なんだろうが──って、ありゃ? おい、あそこの人達に囲まれてるのって、一之瀬……じゃないか?」
「……えっ?」
透が指さすその先には、大勢の人達がスマホを構え写真を撮り、話しかけている人もいた。そんなギャラリーが出来た原因はというと……。
そこには、大勢の人達にナンパ言い寄られている、普段着姿の一之瀬がいた。
制服姿よりも見慣れた姿ではあったが、その格好は普段よりも気合いを入れているように思えてならない。その努力が普段よりも魅力を引き立たせ、こうして多くの人を寄せ集めてしまったのだろう。
「ありゃりゃ。すっげぇグッドタイミングで戻ってきちゃったみてぇだな」
「何がグッドタイミングだよ。あいつからしてみたらバッドタイミング以外の何ものでもねぇだろ……」
少なからず、あいつは見知らぬ人に言い寄られて喜ぶほどの陽キャではない。寧ろその逆で、顔見知りでもない相手に強い警戒心を抱く種類の人間だ。現にあいつには透の幼馴染である佐倉さんしか『友達』がいない。
その理由は1つ──他は、自分の身てくれだけしか見ていないから。
あいつにはあいつなりの良いところも悪いところもある。それを受け入れてくれる人間。それが、佐倉さんだけなのだ。今のところは。
ってか、男性ならまだしも女性にまで言い寄られてんだけど。女性からナンパに合うとか、逆ナンよりタチ悪いぞあれ。
「……いいのか? あのままで」
「それ、わかって言ってるのか、お前」
「だよな。そうすると思ってた」
僕は透に背中を思いっきり叩かれ、そのまま彼女の元へと一直線に向かった。まるで『頑張ってこい!』と、背中を押されたような気分だ。
……普段は、人をからかうしか脳がないくせに。こういうときには、ちゃんと前向きにさせてくれる。
僕があいつと関わるのは、そういった点があるからというのが大きい。
透との出会いは、とても不思議な感じだった。図書委員として半強制的に一緒に行動することが多くなり、あいつは僕に興味を持つようになった。
最初は『変な奴』という認識しかなかった。今も多少それはあるが。……でもあいつは、他の奴とは徹底的に違うところがあった。
──人を身てくれだけで判断しないこと。まるで、渚にとっての佐倉さんと同じなのだ。
まったく……お互い、そういうところは似なくていいというのに。
「あ、あのぉ…………」
渚は周りからの圧に押され、その足は少しずつ後退していった。
彼女に近づくにつれ、その声は正確に聞き取れるようになった。その中には「めっちゃ可愛いんだけど!!」「何々? どっかのモデルさんとか?」「彼氏とかっているの~?」と、女性からの声も増えていった。
質問攻めから逃れようとしている渚だが、完全にそれは逆効果だ。
的確な質問に意図があるのと同じように、渚に下された質問には同等の意図がある。だからこそ、逃げようとすれば“隠している”と頷く輩が増えるだけ。人間というのは、隠されたものを暴きたくなる性格をしているものだ。
すると、民衆から逃れようとする彼女の腕を誰かが掴んだ。
「──すみません」
そう言って、一同の注目を自身へと集める。
「彼女、僕の連れなので。あまり、ちょっかいかけないでやってください。困ってるのは明らかですし、少しは相手の気持ちも汲んでやってください」
僕はジロり、とギャラリーを睨む。
普段は垂れ下がりな瞳ではあるが、普段から“根暗”を貫いてきただけあって暗いオーラを出すのは得意なのだ。
僕の言い放った言葉は紛れもない事実だ。──だが、それとはまた別の暗い感情が僕の心に1点の黒点を植え付けた。
あんなにたくさんの人に言い寄られているのを見たとき、自分の動悸が激しく揺れているのが良くわかった。渚が中学時代、人気の的であったことを再認識させられた気分だ。
……これは、いわゆる『嫉妬』というやつなのだろうか?
こんなにも醜くて、深すぎる感情を持てるなんて、自分の心を自覚していなければ一生気づかなかっただろうな。
僕があんなにも……嫉妬深い人間だったなんて、思わなかった。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?
久野真一
青春
2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。
同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。
社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、
実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。
それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。
「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。
僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。
亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。
あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。
そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。
そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。
夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。
とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。
これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。
そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる